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31.ケルヴィン第二王子





それから数日。

勇者が宣戦布告してくることもなく、至って平和な日常。


…と思いきや、私が社交界デビューしたのもあって、他国の王族貴族から私の夫候補にと書状が届くようになった。

どうやら、あの社交場にいたものの、私と挨拶するタイミングがなく断念した家が多数あったらしい。知らんけど。


見合い自体に私が良い顔をしなかったのを察した父は(自称勇者の件)、写真を見て私が興味を示した家柄から試しに、ということに話が落ち着き。


そして…


「アルカディア王国第二王子、ケルヴィン・ヴァン・アルカディアと申します」

「シイユ・エスメル・ヨークシュアと申します」


人生初めてのお見合いが始まった。


「先日の社交界では王女殿下とお話が出来ないまま終わってしまいましたので…、こうやってお話する機会をいただき誠に感謝いたします」

「ご参加いただきましたのに大変申し訳ございませんでした…。なにぶん初めての社交界で緊張してしまいまして……」

「初めてでは仕方ありません。しかしそのおかげで貴重なお時間をいただけましたので、私としては幸運そのものです」


…ちなみに、最初のお見合い相手がケルヴィン王子に決まった理由は至極簡単。

顔面偏差値の高い順である。


私が見合い写真を眺めているとユイが懇願してきたのだ。「せめて顔が整っている方とお見合いを」と。

それ、相手に失礼じゃないか…と思ったが、「上に立つ者、容姿も整っているのが礼儀です」というのがユイの持論らしい。


そうしてユイのお眼鏡に適った最も容姿端麗で身分の高い男性が、ケルヴィン王子であった。


ユイってば結構面食いじゃない?(※主に基準がクロード)


「そういえば、社交界には勇者も参加していたとか。お会いにはなられましたか?」

「勇者…」


魔王を善人と主張した、あの闘わない勇者の事だろうか。


「ええ。勇者の村の出身とお聞きしております。村長とともに参加されておりました」

「実はその勇者には不穏な噂があるんですよ」

「…噂?」


はて。不穏な噂とは。

ケルヴィン王子は、不適な笑みを浮かべて口を開く。


「実力はあるのに魔王を討伐する気がない。ゆえに、“実はスパイではないか”と」


ブッ。


「……す、すぱい」

「はい。本当は魔王軍の者で、人間界を滅ぼすために正体を偽り潜入してきている魔族。…という話です」

『あり得ませんね』


クロードからの思念伝達テレパシーで、全くのデマであることは即分かった。しかし、どこをどうとったら勇者がスパイの疑惑をかけられるんだ。


「私がお会いしたときは、そのような素振りは…」

「潜入中は正体を悟らせないものです」


確かに。←魔王


「何にせよ、王女殿下はしばらく身辺に気を付けられた方が宜しいかと」

「…そうですね。ご忠告、ありがとうございます」


にこ、と微笑む。気を付けるも何も、身の回りは常にクロードとユイが気を張っているし、現役魔王に手を出せる者がいるとも思えなかった。


「せっかくの逢瀬に暗いお話をしてしまって申し訳ない。ここは気分転換に、一緒に城下のお散歩はいかがですか?」

「城下、ですか? 今、気を付けろと仰ったばかりでは…」

「これでも私、魔法と剣には自信があります。一般の冒険者よりは腕が立つのでどうぞご安心を」


よほど腕に自信があるのだろうが、残念ながらこの場にいる誰よりも一番弱いのがケルヴィン王子である。本人には言わないけど。


でもまあせっかくのお誘いなので、護衛にクロードとユイを連れて行くことをメイド達に伝え、馬車に乗り込んで城下へ。

クロードは御者席、ユイはその隣に座った。私とケルヴィン王子は中で向かい合って座る。


「殿下は、護衛の方は?」

「ケルヴィンで結構ですよ。護衛は見えないようについてきています。私も自衛の心得はあるので」

「……50メートル後ろの馬、でしょうか」

「…!?」

「私、魔力を辿るのは得意なんです」


確かに姿は見えない。でも、魔力を持っているのは分かったので追跡したら割と近くにいた。

まさか場所を特定されるとは思わなかったのか、王子は目を見開いている。


「…驚きました。王女殿下が、これほどの実力を持っておられるとは」

「シイユで結構です。私もケルヴィン様、とお呼びさせていただきますので」

「……シイユ様。数々のご無礼、お許しください」

「うふふ」


彼は、私がひ弱なお姫様だと勘違いした。その方が都合はいいけど、色々めんどくさいのでほんの少し手の内を明かす。


いざとなればまた誤魔化せば良いので。




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