22.冒険者・アルバトロス
しかし、おかしな話である。
ストーカー気質な自称勇者へ、王城へ来れなくするための偽依頼を出すための、依頼内容を組合へ視察に行くことになろうとは。
一晩休み、翌日にはまた外へ。
ここでもまたユイにはお留守番をしてもらった。まだまだお散歩禁止な姫君が、部屋を抜け出してはいけないからだ。
冒険者装束にフードを目深に被り、念のため認識阻害魔法。クロードも私の護衛兼冒険者に扮して二人で組合へ向かう。
魔法さえかけてしまえば、よほど強い魔力を持った者でない限り私の正体はバレない。それこそ、「シイユ」と名を叫ばれても、「他人の空似」として認識される。つくづく魔法って便利だねー。
この日正味人生初めての城下。前世はスラム育ちだったのもあり、繁華街も賑わった場所にも行けなかった。体力と世間体もある。
いつの時代も、薄汚れた人間は弾かれるもの。
ゆえに。
「クロード、クロード!人がいっぱい!!」
「そうですね、シイユ様」
本当に子供のようにはしゃいでしまった。
「本来の目的をお忘れなきよう。ああほら、前を見て」
「え?あっわぁ!」
すれ違う人混み。周囲は冒険者でごった返しだ。めっちゃ強い魔力を持っていようとも、肉体はやはり普通の人間なので相手がデカい図体の男性だと簡単に吹き飛ばされてしまう。
前を見て歩きましょう。
親がよく言う言葉だ。自分もそうなるとは思いもしなかったが。
ドンッ!
めっちゃ筋肉質な壁にぶつかったと思ったら弾かれて、そのまま尻餅。
すっごい壁だった。私跳ね返された。冒険者ってみんなこうなの???
「おっと、悪いな嬢ちゃん。前見てなかった」
「す、すみません…。私も、前見てなか…」
差し伸べられた手。優しい冒険者でよかった、と思って掴んで、顔を見るとすっごく見覚えがある面影。
クロードがその名を呼ぶまで私も気付かなかった。
「アルバトロス?」
「…クロード、か?」
「え。二人はお知り合いなの?」
全く気付かない私に、クロードが「お気付きになりませんか」と確認。
「…このお方、先代魔王ですよ」
「………え。エ!!!???」
「いや先代魔王が何しれっと冒険者やってんの!?(小声)」
「引退はしたものの、手持ち無沙汰でな!あと単純に元魔王の血が騒ぐ!(小声)」
場所を変え居酒屋。表通りじゃちょっと目立つので。
「…まさか、先代魔王が冒険者になっているとは……。昔からじっとしていられないお方なのは存じ上げておりましたが」
「ははは!最初は本当に余生を楽しむつもりだったんだ。しかし有り余る魔力を持て余してな。そこらの冒険者に闘いを挑んだがどいつもこいつも腑抜けてやがる。全く手応えがない」
「通り魔みたいなことしてる…」
「殺してはいないぞ」
「そういうことじゃないのよ」
私とクロードが同時にため息。
「そんなときだ。空から面白い声が聴こえた。“魔王”を名乗る男の声だった」
めっちゃ心当たりある。
「お前のことだと思ったな。声は変えていたが、俺が魔王を譲ったのはお前しかいねぇし、お前が魔族如きに負けるとも思えん。そしたら迷宮を造ったと言うから、これはチャンスだと思った」
「それで冒険者に?」
「ああ!組合に登録すればいくらでも挑戦出来ると言うから、喜んで登録した!冒険者なんぞに挑むよりはるかに楽しそうだったからな!」
「身分証などは」
「放浪の旅人だと言ったら顔パスだったぞ」
「元魔王が顔パスってなに」
冒険者がほしいからっていくらなんでもゆるゆるじゃないか…?




