21.自称勇者再び
マオお手製の迷宮から帰城し、グリとフェニとも解散。こっそり自室へ。そこにはげっそりした私がいた(※ユイ)。
「た、ただいま、ユイ。どしたの…?」
「あ…ますたぁ、お帰りなさいませ…」
いやほんとどうした。不在は一日だけだったはずなのに、えらい顔が青白い。まるで疲労が溜まったみたいだ。
「…え。私がいない間何があったの」
「…………あの、自称勇者が。」
「自称勇者。」
「…はい、自称勇者。マスターが留守の間に訪ねてきました」
「えっ」
自称勇者ってあれだよね。7年前、迷宮でマオにコテンパンにされた。何で王城に来るの。ありえない。
「門番に門前払いを喰らって引き返してましたが、部屋まで聴こえる大声で叫んでいて…」
「…ちなみになんて」
「……姫、必ず迎えに来るからね、と…」
「ストーカーじゃないですか」
静観していたクロードが思わずツッコミを入れるほどには、異常な行動である。
「…かなり前に、母様が宣言したはずだよね。まずは魔王を倒してから。あと私の成人まではあくまで婚約期間」
「ええ。私も横で聞いておりました」
「私今何歳だっけ?」
「13になられました」
「王家の成人は?」
「18でございます」
「あいつ鳥頭なの?」
「都合よく解釈して、都合の悪いことは忘れたのでしょう」
「そんなんでよく“勇者”なんて名乗ったな…」
かつての勇者が聞いて呆れる所業だ。全く嘆かわしい。
「このこと、父様と母様は」
「門番が、さすがに不審行動であると近衛兵経由でご報告を。国王陛下は頭を悩まし王妃様は笑顔でキレていたそうです」
「うわ、父様母様ごめん…」
やはりあのとき私が直に断るべきだった。魔王(私)が負けなければ良いと、たかを括ってしまった。
「本日はもう帰りましたが、後日また来ると」
「完全にストーカーじゃん。てか、魔王討伐はどうなってんの。マオ何も言ってなかったけど」
そうだ。さっき迷宮で会ってきたけど、本人は一言も口にしていない。…まるでなかったことにしてるみたいに。
「フルボッコ以降、一度も迷宮に来ていないと」
「…一度も?」
「一度も。」
「どの迷宮にも??」
「全ての迷宮で、来た形跡がないとのことです」
「職務放棄(仕事しろ)!!!!!」
「まあ、だからマオも何も言わなかったのでしょうね。来てないから」
そんなんでレベルアップすると思ってんの!? 魔王に勝てると本気で思ってんの!?
てか、楽に王族に婿入りしようとかセコイこと考えてない!?
深いため息を吐きながら、ソファに腰掛ける。服装を冒険者からドレスに魔法で着せ替え、ユイには魔法で人形へと姿を変えてもらった。
王族は自分の似姿の人形を数体持つ慣わしがあるので便利である。
「ここ数年顔を見なかったから安心しきってたわ。…なんか良い案ないかなぁ」
なるべくなら父様と母様に迷惑のかからない方法。…裏で魔王様やってる時点で迷惑かけてるけど。
クロードが「ふむ、」と口を開く。
「ようは、王城に来れないほど、自称勇者を忙しくさせれば良いのでは?」
「…その心は」
「名指しで依頼をすれば良いのです」
「ほう」
「迷宮はどうせ呼んでも来ないでしょう。マオがフルボッコしたので警戒心も高いはず。自称勇者でも達成可能な依頼を長期的に、継続的に、自称勇者指定で出せば、断れないかと。いっそ魔王様の名前を使って出せば、より確実性が増します」
「ああ、私の名前で自称勇者に依頼を出すのね」
「さようでございます」
なるほどそれは有り寄りの有り、大有りだ。
その程度で王城に来なくなるのであれば、私は大賛成で依頼を出す。文面に「お願い♡勇者様♡」とでも書こうか。そうすればあの自称勇者のことだから全力で依頼を遂行するだろう。
「よし、自称勇者に依頼を出そう。あの鳥頭でも達成出来そうな内容」
「ならば、実際にどのような依頼が出ているのか視察に行ってみますか?」
「視察?」
「ええ。組合に行って、駆け出しの冒険者に出されている依頼書を拝見し、参考にする。見るだけであれば冒険者登録も要らないはずです」
「クロード、頭良い…」
「それほどでも」
ふふ、と微笑む有能な魔族。
貴方が私の執事で良かったよ。




