2.新しい魔王軍を作ろう
魔王を継承してすぐの頃は魔界も統治しなければいけない事態にてんやわんや。魔族姿のクロードには「人間に化けろ」と命令し、魔界から使者が来ては「一度魔王として玉座に着いてください」と打診が来て、下っ端の魔族の暴動が〜、魔界の作物が〜、喧嘩が〜、とおおよそ「それ魔王の仕事じゃなくない?」と思う事案まで持ってこられた。
「…魔界って魔王以外の統治者とかいないの?」
「人間界とは全く異なります。魔族が何か行動を起こすには、魔王陛下の許可がいるのです」
「……面倒臭いな」
いくら王族に生まれたとて、私には王女としてどこかの国に嫁ぐ為の教育しかない。王政に関する知識や帝王学なんて勿論ない。
けど転生した私にはスラムで育った時の底辺なりの知識はある。あの頃、領主はいたが私服を肥やし好き勝手してきたようなデブクソオヤジ(親が聞いたら泣く単語)だったので、こうするべき、こうしなければ、と私は幼いなりに打開策は考えていた。
「魔王不在でも稼働する魔王軍作ろうよ」
「魔王軍はすでにあります」
「それって戦争専用でしょ? そうじゃなくて、国を統治する担当を作るの」
「統治する…担当、ですか」
「いくら魔王でも、全部を抱えてたら倒れる。てか、私が倒れる。私は魔力はあっても体は人間なの。お分かり?」
「はい」
「魔族と人間は違う。貴方達が私に『魔王になってほしい』って言うなら、そういう基準を人間の私に合わせるべきじゃない?」
「は、い」
どうやら納得したようだ。まあここで反論されても、「じゃあ前魔王を倒した私が魔界も潰すけどいいね?」と脅すだけ。彼らは実力至上主義で弱肉強食世界の住民なので、強気でいけばゴリ通せる。
「てわけで、魔界の常識を取り込みつつ、人間界の知識も取り入れた新たな魔王軍を発足します。これで私は魔界に行かなくても魔王として統治出来るし、王城で思う存分魔法で遊ぶことが出来る」
「最後が本音ですね?」
好きに言いなさい。私は私の人生を守るんだ。これだけは譲らない。
それからすぐに時空の部屋(時間操作で外界と隔離された部屋)を展開、クロードと現魔王軍幹部とやらを魔界から召喚、新魔王軍を発足した。
ちなみに幹部は5人。魔人、吸血鬼、妖精族、妖浪族、猫又族。
それぞれが戦闘のプロであり魔王軍を率いる者達だ。
私はその全員と面会し、それぞれの特技・長所に応じた役職を与えることにした。
まあ全員が全員すぐに納得するわけがなく。
「こんなガキに魔王軍の指揮を!?」
「まだ赤ん坊じゃん」
言われ放題である。まあ仕方ない。魔族にとって人間の寿命なんてあっという間。何歳になろうが永遠に赤ちゃんなのだ。
けれど。
見た目で判断した者は笑顔で鉄槌制裁。何度も言うが彼らは実力至上主義で弱肉強食世界の住民なので、一度負かせば完全服従確定事項。
私を舐めるなよ、成り行きとはいえお前らのトップ(魔王)を正々堂々負かした魔法使いだ。ただの魔族が私に勝てると思うな。
さて強者をしっかり叩き込んだところで。
「最優先事項として、魔族同士の争いを禁じます」
「は!?」
「何で!?」
「その度に呼び出されたら私の身がもたない」
これは切実に。
「なので、争いが起きた場合は貴方達がそれぞれ取り締まってください」
「だからそれは魔王様が…」
「貴方達魔族は実力至上主義でしょ?強い者に従うんなら別に魔王でなくてもよくない?」
「…あ」
魔王軍て脳筋の集いなのかな。
「まあそれで貴方達が負けちゃうくらいなら、貴方達には幹部の座を降りてもらうよ」
「え!?それは…!」
「当然でしょ。弱い奴が幹部なんてそれこそ魔王が舐められる」
「うぐ…!」
ぐうの音も出ないとはこのことか。面白い。
「魔界の魔物達は言わば全員貴方達の配下でかつ部下でしょ。自分達の手下くらい自分達で管理しなさいよ」




