18.魔王様、無双する2
長い長い通路を進み、今度はじっくりとこの迷宮を楽しんでみる。
石畳の回廊の周囲はさっきの宇宙によく似ている。満天の星空が全方位にあり、たぶんこれも距離感と方向感覚を失わせるためのものだろう。
「魔法って不思議〜。私にも創れるかな〜」
「分身体であるマオが創れたのです。本体の貴女様が創れないわけがない」
「えへへ〜。私、迷宮とかは無理だけど、みんなが楽しめる娯楽施設なら造ってみたいんだよね」
「娯楽施設、ですか…」
「そう!迷宮が冒険者向けなら、娯楽施設は魔力を持たない一般人向け。安心安全の遊園地!」
「冒険者から差別と言われかねませんが…」
「それを言うなら迷宮自体差別でしょ。一般人が入れないんだから」
「……それもそうですね」
めいいっぱい想像を広げていく。
私が出来そうなことは、すでにマオがこの迷宮で証明してくれた。あとは発想と想像力。
「魔法の体験もいいよね。攻撃するんじゃなくて、花火を出すとか、物を浮かせるとか」
「…魔力を持たない人間には、非常に夢がありますね」
「冒険者も入れるけど、悪さする奴もいると思うから、そいつらには制限を付けてさ」
「ああ、それならば一般人は安心ですね。元々魔力を持たない一般人向けだから、同じ人間にしてしまえば文句も出ないでしょう」
夢は膨らむ。やりたいこと、やってみたいことがたくさん出来た。
ニカッと満面の笑みでクロードに振り返る。
「ここを出たらいっぱい考えよ!私、考えるのも創るのも好きみたい!クロードも手伝って!」
「仰せのままに」
長い道のりを歩いて、やっとゴール。
この向こうに敵ってところかな。
転移門を抜けると今度は床に大きな歯車の空間に出た。周囲には歪んだ時計。
これはまた変わった部屋だ。
「敵はどんな奴かな〜♪」
「やる気満々ですね、魔王様」
腕をストレッチさせて、戦闘準備。
地響きのような音と共に、上からまたもや巨体。今度は巨大な時計を持った機械仕掛けの敵だ。
時間に関係してるのかな…?
手始めに魔力球を投げてみる。
すると、私の行動を予測してたみたいに、時計を掲げ私の攻撃を消した。
「…? 先を読まれてる?」
今度はもっと速く攻撃を仕掛ける。が、やはり行動を読まれてるのか時計が動き出す。
私の攻撃が読まれているのは分かった。けれどどういう原理でその攻撃を掻き消しているのかが、分からない。仕組みを調べるにも、恐らくまた幾重にも先を読まれて防がれるのだろう。
さてどうしたものか。
こいつの対象は私に絞られている。私がいる限り、きっと………うん?
てことは、私の他にも対象を創ればいいのか。
思ったことはすぐに行動に移すべし。これは私の信条である。
光陰魔法・鏡像
敵の能力全てを写し取ったもう一つの姿。
それが目の前に現れて、どう動くか。
案の定、敵の対象が切り替わった。排除する優先を変えた、という方が正しい。
「うん。これならいけそうだ」
「魔王様? 何を…」
敵が鏡像に気を取られてる隙を狙い、強く地を蹴る。敵の背後、正確にはその斜め上に瞬間移動。
魔力を凝縮した球を光線銃よろしくぶっ放す。
バキッと貫通し、敵は動かなくなった。
《第四ステージ・クリア》
「魔王様、今何をされたのです…?」
「ん? あいつは時間を操って未来を見てた。時計はその媒介」
「ああ、なるほど…」
「対象を私に絞ってたから、あのままじゃ泥沼なんだよね。だから、私の代わりを創って対抗させた。…同じ能力、同じ実力のある者を対峙させると何が起こるか」
「?」
「…“特異点”だよ」
「特異点?」
「互いに未来を予測し合った。勝つ未来を。相手も同じ行動をすると、それが掻き消されて“無かった”ことになる。その結果、両方が動かなくなった。私はその隙を狙ったんだ」
「………ほぉ」




