15.魔王専用隠し迷宮
マオが造った迷宮は全部で50以上。今もなお増産し続けているという。
「迷宮の数って魔王の魔力量と比例してるんでしょ? …そんなに造ってマオは大丈夫なの?」
隠密・隠蔽・遮断魔法を重ねがけした上で迷宮へ向かう。場所はクロードの案内。本当はもう空も飛べるんだけど、グリとフェニが寂しがるのであえて呼んで背中に乗る。まあ乗り心地もいいし可愛いから、一緒に連れて行くことに。
「加減くらい自分で分かっていますよ。それにたかが50程度で枯渇するような魔力、マオは持ち合わせておりません」
「お。おお…そうなの」
クロードの中でのマオの評価がすんごく高い。
「……何度も申し上げますが、マオは貴女様ご自身。ご自身の魔力についてはご自身が一番良く分かっておいででしょう?」
「……………まあ、そうね」
使えど使えど枯渇するどころか減る気配すらない私の魔力。
総魔力量がどれだけなのかとか。
どのくらい使うと限界が来るのかとか。
疑問は尽きないのだけど。
クロード曰く、魔王とその他諸々の全てを比較するのがそもそもの間違い。
それだけ魔王は異次元の存在なのだ。
「これから向かう迷宮はマオの自信作だそうです。最強の敵はなんとマオ自身」
「え!!??」
それってアリ!?
マオってことは、魔王と対戦!??
「え、ちょ、それ、仮に私以外の冒険者が攻略したら、魔王の敗北…」
「いいえ」
速攻でクロードが否定する。
「魔王は、本来全ての迷宮を完全攻略して初めて対戦が可能となる敵です。いち迷宮を攻略しただけでは挑戦権は発生しません。それに、この迷宮は、マオが魔王様のために造った言わば非公式の迷宮です。人間には見付けられない上、仮に見付かったとしても、第一ステージで即死確定です」
「そ、そんなに」
「魔王様にお楽しみいただくためだけに造ったと、言っていました。つまり迷宮のレベル自体が魔王様仕様なのです」
それってもう接待迷宮じゃないですか。
「ですので、思う存分、魔法をお使いくださいと」
「マオってばめっちゃいい子」
クロードが「ここです」と言った場所。
クトロドの果てと呼ばれるいわゆる立ち入り禁止区域。有毒ガスが充満し動物も植物も死に絶え生き物が生息不可能とされている。
冒険者は、毒無効化や加護の装備をフル活用しないと近付くことさえ出来ない。
そこへ、当たり前に降りる。
グリとフェニは大丈夫そうだ。まあこの程度の毒なら平気なのだろう。
確かにこんな場所、人間は見付けられないなと納得した。
「さて、迷宮の入り口ですが––––」
「…ん、待って」
クロードの言葉を遮り、ある一点を目指して進む。私の魔王としての直感が働いた。
結界がある、と。
近付くと明らかに時空の歪みがあり、外部から何かを隠そうとする壁になっている。そこに触れると、途端にヒビが入り壁一面がバリン!!と割れた。
現れたのは、遺跡と石造の門。まさに迷宮への入り口。
わざわざこんな結界を張ってまで迷宮を隠そうとするとは。よほど他人に発見されたくなかったんだな。
「さすがです、魔王様。結界にいち早く気付き、いとも簡単に解いてしまわれるとは」
「いや、私なら結界があることにも気付かせないかなって」
結界を張る目的って、中のものを守るのは前提だけど、だからと言ってその存在に気付かれちゃ意味がないと思う。
本気で守るなら、存在ごと隠さねば。
触れる結界は破壊出来る。物理だろうが、魔法だろうが。
でも気付けない、触れない結界は破壊不可能だ。存在しないものに、破壊は効かない。
「気付かせず、触らせず。あえて名を付けるなら、“透過結界”ってところだね」
「……なるほど。やはりマオは、間違いなく魔王様の分身でいらっしゃる」
「??? どうしてそうなるの?」
それだったら、むしろクロードの方が「マオは魔王の分身」ってずっと言ってる気がするんだけど。
「……実は、魔王様が反応を示されるまで、私は結界の存在に気付きませんでした。かなり難易度の高い、高密度な結界で…、マオからは“入り口は隠してある”としか……」
…もしかしてここに着いたときに「入り口ですが」と言いかけてたのってそれを教えるため…?
配下とはいえ、クロードも高位の魔族。それなりにプライドがあるので、マオの張った結界に気付けなかったのが相当ショックだったらしい。
「てことは、マオからしたら大成功ってことだね」
「?」
「だってこの迷宮て私専用なんでしょ?そこらの冒険者やなんなら魔族にだって隠したかったはずだよ。それが、クロードを騙せたんだから大成功でしょ」
「…そう…なのでしょうか…」




