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10.製作者・姫



「どれだけ魔力が必要なのかが全くの未知数なんだけど、造れそう?」

『問題ありません。わたしの魔力のみで製作可能です』

「あんま無理しないでよ、もし魔力が尽きちゃったら…」


製作途中でも中止して、と言いかけたところでマオが言葉を遮った。


『この身体に宿る魔力量であれば十分にマスターのご希望に添えられます。マスターの生活の安寧のためならば、このマオ、全身全霊でそのご期待に応えましょう』

「お、おう…」


すげぇやる気だな。

仕事をもらえたのがそんなに嬉しかったのか、さっきまで“終わらない会議”に疲れ果てていた声が嘘のように活気付く。


『ではマスター。わたしはこれからこの脳筋どもに方針を伝えます。魔界を治める魔王として、立派に務めを果たしてご覧にみせます』

「…あはは。うん、期待してるね」

『はい。…お休みなさいませ、マスター』

「うん、お休み」


会話が終わって、マオの無事の確認と魔界の統治の件両方が片付いて、私も安堵して。

気付けばあっという間に眠りに落ちた。









「あらシイユ様。今朝はお早いお目覚めでございますね」

「ぐっすり眠れたからねー!」

「うふふ、それはようございました」


朝、メイドが起こしに来る前に目が覚める。…いつもなら、夜更かししてでも魔法で遊んでたりして寝不足になることもあるので。


「そういえば昨日のお姉さんは大丈夫だった?」

「彼女なら、あれからゆっくり休めたそうで今は通常業務に戻っておりますよ。シイユ様のお心遣いのおかげでございます」

「それはよかった!」


着替えを済ませ、朝食。お城のご飯はどれもこれも美味しすぎる。前世がスラム育ちなせいで舌が肥えてきたのを感じる。


「シイユよ。今日はご機嫌だな」

「何かいいことでもあったの?」


朝食と夕食は必ず家族集まって。それが王族(我が家)のルール。公務へ向かう前と公務後は父と母が私の顔を見て安心するのだという。


「うん!」

「そうかそうか」


私が笑顔でいると二人とも幸せそうに笑うので、この生活を崩すわけにもいかない。


そんなときである。食事中に、父専属の執事が大慌てで入ってきた。緊急の用事らしい。


「国王陛下、お食事中申し訳ございません」

「何だ、急ぎの案件か」

「はい」


ぼそぼそと父に耳打ち。その様子を見守りつつ私はゆっくりと紅茶を口に含む。

父は目をかっぴらいて叫んだ。


迷宮ダンジョンが現れたァ!!??」


ブフォオ!!!!


「シイユ様!? 大丈夫ですか!?」

「ゲッホ、ゲホ、」


メイド達が必死に私の背中をさすってくれるが、それ以上に。


「くっ、ここ数百年は魔物の侵攻もなく平和だったというのに、なぜ突然…! 重鎮を集めよ! 緊急会議だ!」

「はっ」

「母様達は行きますけれど、シイユはゆっくり食べてていいですからね」

「は、い。行ってらっしゃいませ…」


迷宮ダンジョンの出現。十中八九マオだ。仕事が早い。てか、迷宮ダンジョンが現れた程度でこんなに大騒ぎすることなの?


「ねえねえ。迷宮ダンジョンが現れたって、そんなに大変なこと?」


世の中のことをまだよく知らないていでそう聞くと、「そうですね、」と解説してくれる。


「大昔は確かに迷宮ダンジョンが世界中にあって、新たな迷宮ダンジョンの出現もさほど珍しくはありませんでした。ですが勇者が魔王を討伐し、その結果魔王はその力の大半を喪失。それに伴い迷宮ダンジョンも全てが消滅したと言われております。迷宮ダンジョンは言わば魔王の強さの象徴でもありますので。……それが、新たな迷宮ダンジョンが発見されたとなれば大慌てにもなります。なぜなら、迷宮ダンジョンを造れるほどの魔力を持った魔王が、誕生したという意味でもありますから」


おっと。人間界からしたら割と大ごとだった。

そうか、私は力を持て余した魔族・魔物達の発散場所のつもりだったが、それを造れること自体が異常なのか…。


実際に造ったのはマオだが、その魔力の根源は私。

てか、昨夜の今日で、もう一つ目造ったの!?はやない!?

どうやって造るのかとか知らないけど、一晩で完成するんだ!?


迷宮ダンジョンの出現で国も大慌てになるでしょうね。何せ、魔王の侵攻が数百年なかったとあって、魔物討伐に向かえる冒険者がどれだけいるか」

「冒険者、いないの?」


ちょっと予想外な展開である。魔王がいるんだから冒険者くらいいるだろうと。

ずっと後ろで待機しているクロードが答えた。


「いないことはないですが、今の冒険者に魔物と渡り合える実力がありませんね」


つまり平和ボケしてるってことですね?




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