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第3章「歌姫のわがまま」

昼休み、夕陽ヶ丘高校の屋上。

レイ、ユーリ、アルヴァン、ステラ、そしてステラと同じ音楽科のアオイ=ブロウニング、五人は、青空の下でそれぞれ弁当を広げていた。ステラはレイに昨日のネックレスの件について尋ねる。


「で?どうだったの?あのネックレスの持ち主見つかった?」

「いや、昨日一緒に踊った女子5人に聞いて回ったんだけど違うってさ」


レイがため息混じりに言うと、ユーリが缶ジュースを片手に笑う。


「なんだよレイ、まだ気にしてんのか? 落とし物っていうのは自己責任だろ?」

「でも……」


アルヴァンが遠慮がちに口を挟む。


「すごく高価そうに見えたよね。銀の細工も凝ってたし……落とした人、困ってるかもしれない」


ステラもおにぎりを握りしめながら頷いた。


「アルヴァン君の言うとおりあのネックレスは絶対高価なものだと思う。とりあえずレイ、職員室に預けたほうがいいんじゃない?」

「ふふっ」


アオイ=ブロウニングが意味ありげに笑う。


「ステラったら、心配しすぎ。……それとも、“レイが変な女の子に拾われたらイヤ”って思ってるんじゃない?」

「なっ……! ち、違うよ!」

ステラは耳まで赤くなり、アオイに詰め寄る。


その瞬間。


――バァン!


屋上のドアが勢いよく開いた。

強い風が吹き込み、全員の視線が一斉に向く。


「……えっ」

「嘘だろ……!?」


誰がそう言ったのか気にする余裕はなかった。

現れたのは、テレビやステージでしか見られないはずの存在。

光を帯びたような気配と共に、セナ=フォスターが立っていた。


「見つけたわ!レイ=ヴァレンタイン!」


屋上は一瞬の静寂のあと、悲鳴と歓声で揺れる。


「セナ!?」

「本物!?」

「やばい、超近い!」


屋上はそんな生徒達の声で溢れかえる。レイは目を見開いたまま硬直していた。

そんな彼のもとへ、セナは一直線に歩み寄る。

そして驚く暇も与えず、その手をしっかりと掴んだ。


「はっ……?なんで俺なんだよ!?」

「話は後よ。行きましょう」


彼女は強い力でレイを引っ張り、そのまま屋上を後にする。

残された仲間たちは口をぽかんと開け――最初に声をあげたのはアオイだった。


「ふふっ……ステラ、レイをセナに取られちゃったわね?」

「な、なに言ってるの!」


ステラは真っ赤な顔で叫ぶ。


「レ、レイはただの幼なじみなんだから! そ、そんなわけないでしょ!」


ユーリは爆笑し、アルヴァンは困ったように笑う。

屋上には昼休みらしからぬ喧噪とざわめきが渦巻いていた。


--


抵抗する間もなく引きずられ、たどり着いたのは男子更衣室。無数のロッカーの前で、セナは振り向きざまに睨みつけてきた。


「あなた、私のネックレス拾ったでしょ。返して」


レイは目を瞬かせる。


「あれはお前のか!返したいのは山々だが今は無理だ。教室のカバンに入れてある。もう授業のチャイム鳴ったし、中に入れないんだ。授業が終わってからじゃダメか?」


セナはヒールを鳴らす勢いで一歩踏み出す。


「ダメに決まってるでしょ!あなたの一時間と、私の一時間の価値が同じだと思ってるの?なんとかしなさい!」


レイはため息をつき、肩をすくめた。


「全く……強引でわがままだな。無理なものは無理なんだよ」

「ふぅん……わかったわ」


一瞬、セナの唇がにやりと吊り上がる。


「でも1時間を無駄にするのは惜しいわね。せっかくのオフなのに」


赤いルージュの口元が挑発的に笑みを描く。


「レイ!代わりに、私を楽しませなさい」


「は?」と声を漏らす暇もなく、レイの腕が再び強く引かれた。

次の瞬間、二人は校舎の外へと駆け出していた。

制服姿の少年と、世界を魅了する歌姫。

常識外れな組み合わせは、昼下がりの校門を派手に飛び出していくのだった。


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