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第25章「バーニング・ハート」

次の瞬間、レイが激しく声を荒げた。


「ステラぁぁ!!なんで……なんで言ったんだ!!」


その顔は苦悩に歪み、拳は震えていた。


「俺たちが“月の民”だってことがバレたらどうなるか、わかってるだろ!?政府に知られたら――強制的に月に送還されるんだぞ!?最低でも十年……地球に戻れなくなる……!」


ステラは涙をこぼしながら、それでも震える声で返す。


「……わかってる……そんなこと、誰よりもわかってる!でも……もうこれしかなかったじゃん!セナさん、本気でレイを奪おうとしてる……!私は……レイを失いたくなかった!」

「それでも……!」


レイは声を震わせ、セナの前に立ちふさがるようにステラを見据える。


「あの誓いを破ることはなかっただろ……!?!」


二人のやり取りに、セナは愕然としながらも、かすれた声を絞り出した。


「……強制送還……? 月に……戻される……?」


レイは膝に視線を落とし、拳をぎゅっと握りしめていた。


「……軽蔑したか……?俺たちが……月の民だって知って……」

「……えっ?」


レイの声はかすれ、今にも途切れそうだった。


セナは目を見開き、しばらく沈黙する。そしてその後決心を固めたのか涙に濡れた瞳をまっすぐにレイへと向けた。


「そんなの……関係ない!」


夜の公園に、彼女の声が鋭く響いた。


「レイは私を救ってくれたバイオリニストで、私のヒーローよ!」


ステラがはっとしてセナを見る。


「……セナさん……」


セナは必死に言葉を紡いだ。


「たとえ政府に知られたって、たとえ十年引き裂かれたって……私の気持ちは消えない!この気持ちは噓じゃない!本物よ!!」

「セナ……」


レイが驚いて顔を上げた瞬間、セナは切ない笑みを浮かべながら言葉を重ねる。


「レイは……レイなんだから!!」


そして一歩踏み出し、ステラの目の前でレイの顔を両手で包み込むと――


「……ずっとずっと……あなたが好き」


そう囁いて、そのまま唇を重ねた。


レイは戸惑い、身体をこわばらせる。ステラの存在がすぐ隣にあるのに、セナの熱に抗えなかった。


――時が止まる。そしてステラは理解する。一番大切な人が目の前の女にキスされたことを……


「ぁぁ……あああ……あああああ!!!!……い、いや……いやぁあああ!!レイから離れなさいっ!!セナぁぁ!!」


その光景を目にしたステラの胸に、セナを呼び捨てにするほどの激しい嫉妬の炎が燃え上がり悲鳴をあげる。


二人は身を離す。セナは顔をこれ以上ないくらい真っ赤にさせ、肩で息をしながら、それでも強い決意を込めて言った。


「……ステラちゃん。あなたたちの秘密は、誰にも言わない。だけど――今日からあなたは私のライバルだから」


涙に濡れながらも、セナは毅然と宣言した。


「絶対に、レイは私のものにするんだから!」


レイは言葉を失い、ステラは拳を震わせて睨み返す。

夜の月光は、三人の運命をさらに絡み合わせていくのだった。


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