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第17章「初恋」

ネオ幕張アリーナ。


暗転したステージに、観客の歓声がどよめきとなって押し寄せる。

観客席ではユーリ、ステラ、アルヴァン、アオイが身を乗り出していた。


「レイ……全然戻ってこないじゃん!」


ステラが唇をとがらせ、不安と苛立ちが入り混じった声を漏らす。


「まさか……セナさんのところで何かあったんじゃ……」


アルヴァンは胸の前で手を組み、必死に祈るような表情。


「おいおい、縁起でもねぇこと言うなって!」


ユーリは笑い飛ばそうとしつつも、声に力がなかった。

アオイは目を細め、ステージの暗闇をじっと見つめながら呟いた。


「……信じましょう。二人を」


その瞬間。


ドォォォォン――ッ!!


会場を揺るがす爆音とともに、ステージ中央にスポットライトが落ちた。

次の瞬間、セナがマイクを握りしめ、高らかに叫ぶ。


「私の歌で燃せぇぇぇーーーー!!!!! バーニングっ!! ハートっ!!!」


歓声が爆発する。


一斉に光るペンライト。

割れんばかりの声援。

アリーナの空気が、一瞬にして熱狂に染まった。


「きたぁぁぁーーー!!!」


ユーリが興奮で立ち上がり、周囲にまた睨まれて慌てて座り直す。


だが、仲間たちがさらに驚いたのはその直後だった。


「えっ……!」


ステラの目が丸くなる。


ステージ奥、照明が広がり――そこに現れたのは。


黒い衣装に身を包み、観客を魅了するような鋭い視線で立つレイ。


「れ、レイ!?!?」


四人が声を揃えて叫ぶ。


「うっそだろ!? バックダンサーで出てきやがった!!」

「レイ君……すごい……!」

「な、なんで!? っていうかセナさんと……並んで……っ」


観客席の驚きも混じった歓声に包まれる中、セナの歌が始まる。

伸びやかな声が会場を突き抜け、ビートに合わせてダンサーたちが舞う。


そしてその中心――セナの背後には、まるで守るように、リードするように踊るレイの姿。


二人の呼吸は、ぴたりと重なっていた。


――目が合う。

――動きが噛み合う。


その度にセナの緊張はほどけ、笑みさえ浮かんでくる。


(……大丈夫。レイが後ろにいる。だから、私は歌える!)


ステラは複雑な気持ちでステージを見つめる。

セナとレイが息ぴったりに踊りながら笑い合うその姿。


「……レイのバカ……あんな楽しそうに……」


思わずむくれて頬をふくらませる。


「ステラさん、顔が……嫉妬丸出しですよ……」


アルヴァンが気まずそうに突っ込み、ユーリは爆笑する。


「おいおい、レイの相方役がセナ嬢って、こりゃ漫画みたいな展開だな!」


アオイだけが冷静に「……でも、悪くないわね」と呟いた。


やがてライブはクライマックスへ。


最後の曲――シャイニング・ブレイズ。

二週間、セナが血のにじむ努力で仕上げた渾身のダンスナンバー。


ステージに流れる力強いイントロ。

観客が一斉に立ち上がる。


「……っ!」


セナは一瞬、心臓が止まりそうになるほど緊張した。

だがすぐに、背後のレイが視線を交わし、静かにうなずく。


その瞬間――全ての迷いが消えた。


セナの声が、炎のようにステージを包む。

レイのダンスが、鋭く美しく光を描く。


ふたりの動きは、練習よりもずっと自然で、ずっと楽しくて。

観客の視線も歓声も、その全てを飲み込んでいった。


セナは歌いながら思った。


(レイがいるから、私はここまで来られた……!)


最後のサビ。

セナとレイのシンクロしたジャンプと、全力の歌声。


「シャイニング――ブレイズッ!!!」


眩い光がステージを照らし、観客の歓声がアリーナを揺らした。


ライブは――大成功だった。


--

ネオ幕張アリーナ・舞台裏。


アンコールを終えた直後、スタッフやダンサーたちが慌ただしく動き回る中。

カーテンの奥、セナとレイは二人だけで肩で息をしていた。


ステージを降りたばかりの熱気。

耳にはまだ、観客の歓声が余韻のように響いている。


「……っ、はぁ、はぁ……」


セナは汗で頬を濡らし、胸に手をあてて呼吸を整えていた。

全身は疲れ切っているはずなのに――心の奥は、不思議なくらい熱く満たされている。


ふと、横に立つレイを見上げる。

彼はいつもと変わらぬ落ち着いた表情で、それでも瞳の奥には確かな光を宿していた


「……レイ」


セナは思わず名前を呼んでしまう。

レイは少し笑みを浮かべ、柔らかく言った。


「セナ。二週間……本当に頑張ったな」

「っ……」


その一言に、胸がぎゅっと締めつけられる。

レイは真っ直ぐに言葉を重ねた。


「今日のお前は、今までで一番輝いてた。……あのステージに立つお前を見て、誰よりも誇らしかったよ」

「……っ」


セナの頬が一気に赤く染まる。

汗で濡れた頬に、火が灯るような熱。


――どうしよう。

――嬉しい。

――嬉しすぎて、心臓が爆発しそう。


「わ、わたし……そ、そんなこと……っ」


慌てて視線を逸らし、両手で顔を覆う。

だけど涙が溢れそうになって、余計に隠しきれなくなる。


「……ほんとに、レイが……後ろで踊ってくれて……」


声が震えていた。


「安心できたの。怖くなかった。だから……最後まで歌えたの」


レイは一瞬目を細め、そして静かに答える。


「俺も、お前と一緒に立てて……楽しかった」

「……っ!」


セナの胸に、甘い衝撃が走る。


――これって。

――わたし……。


「わ、私……」


思わず口を開きかけて、けれど言葉が続かない。


「……な、なんでもないっ!」


頬を真っ赤にしながら、セナは慌ててネックレスをぎゅっと握りしめる。

心臓が跳ねすぎて苦しいくらい。


(わたし……レイのこと……好き、なんだ……)


その気持ちに気づいた瞬間、セナは胸の奥で小さく震えた。

けれど同時に、どうしようもないくらい幸せな熱が広がっていた。


--

舞台裏。


セナが顔を真っ赤にしてレイから目を逸らしている、そのとき――。


「セナ嬢ぉぉーーーっ!!!」


ドタバタと勢いよく扉が開き、ユーリが飛び込んできた。


「最高だったぜ! 今日のお前、マジで女神だった! いや、太陽だった! 宇宙一だった!」


両手を大げさに広げ、まるで舞台の延長のように叫ぶ。


「ユ、ユーリ……あ、当たり前でしょ……!私は『情熱の歌姫』セナ=フォスターなんだから!!」


セナはそうは言いつつも顔に嬉しさがにじんでいた。


続いてアルヴァンが小走りで近づき、手を胸の前でぎゅっと握りしめながら言う。


「ほんとに……ほんとにすごかったです、セナさん! ぼ、僕……涙出そうでした……!」

「ふふ、ありがと」


セナはアルヴァンの純粋な表情を見て、珍しく素直になる。


アオイも静かに近づき、真剣な眼差しで言った。


「努力が実ったのね。……立派だったわ」

「ええ……!」


セナは胸を押さえ、こみ上げる感情を噛みしめるように頷いた。


そんな中。

一歩遅れて入ってきたステラは――レイとセナがまだ並んで立っているのを見て、思わず眉をひそめる。


「……なによ。まるで“お似合いペア”みたいに並んじゃって……」


小さな声でつぶやいた。


「ん? なんか言ったか、ステラ?」


レイが振り返ると、彼女はぷいっと顔を背ける。


「べ、別に! なんでもないっ!」

「おいおい、また拗ねてやがるな~」


ユーリがニヤニヤしながら肘でつつくと、ステラは頬を膨らませて反論する。


「ち、ちがうもん! ただ……! ただレイがあんなにセナと楽しそうに踊ってたから……!」

「それを嫉妬って言うんじゃ……」


アルヴァンがステラにだけしか聞こえない小声で突っ込むと、ステラは「う、うるさいっ!」と真っ赤になって手を振り回した。


だがセナにはそんなやり取りが耳に入ってこなかった。ずっとレイの顔を見ていた。

胸の奥で、ほんの少しだけ誇らしさと……甘い秘密を抱えながら。




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