表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

第12章「シャイニング・ブレイズ」

「いやいやいやいや!!」と四重奏のように重なった叫びが、星見ヶ丘の草原にこだました。

その場にいた誰もが一斉にツッコミを入れる。

レイは両手で頭をがしがし掻きむしりながら、大きく息を吐いた。


「はぁ……もういい。とりあえず。セナ」

「な、なによ?」

「お前が振り付けを丸投げしてきたのは理解した。だけど俺が考えるにしても――まずは曲を知らなきゃ話にならないだろ?一回その曲をここで歌ってくれないか?」

「えっ?ここで?まぁこの時間、この丘に私達以外いないみたいだしいいけど……」

「頼む。お前がそのライブで披露する新曲、歌とメロディを聴かなきゃ、どう振りをつけるかイメージすらできねぇ」


そう言うと、仲間たちも一斉にうなずいた。


「そ、そうだよね……!」とアルヴァン。

「基礎資料もなしに作れるわけないしな!」とユーリ。

「音楽に合わせて初めてダンスは輝くのよ」とアオイも冷静に付け加える。


セナはきょとんとした顔でレイを見て、ぽんと手を打った。


「そういうこと……!最初に聴かせないと始まらないのね!」

「……まさか今気づいたのかよ」


レイが肩を落とす。


ステラは苦笑を浮かべながら、セナに向かって少し心配そうに言った。


「でも……セナさん、ここで新曲なんて歌っちゃって大丈夫なの?レイだけじゃなくて私達もいるけど……」

「平気よ!」


セナは胸を張り、得意げに笑った。


「信頼できる人しかいないんでしょ?なら問題ないわ!録音してももちろんいいわよ!」


そう言うと、彼女はスマホを取り出し、スピーカーへと繋げた。


「――じゃあ、聴いてもらうわね。私の新曲--『シャイニング・ブレイズ』!!」


そう言って再生ボタンを押す。


瞬間、星見ヶ丘に流れ出したのは煌めくようなイントロだった。

透明なピアノの旋律に、疾走感のあるビートが重なり、まるで夕焼け空を突き抜ける光の矢のように駆け抜けていく。

そこに重なるセナの歌声。

澄んでいながら、炎のような情熱を帯びた響く。

その歌詞が風に乗り、空へと放たれるたび、仲間たちの胸を震わせた。


「……すげぇ」


ユーリが思わず息を漏らす。


「こんなの、生で聴けるなんて……」


アルヴァンは呆然と口を開けたまま。

アオイは腕を組みながらも、唇の端をわずかに持ち上げる。


「さすがね……これが“本物の歌姫”」


ステラも胸に手を当て、言葉を失っていた。


「……!!」


だが、誰よりも真剣な眼差しをしていたのはレイだった。胸の奥で――燃え上がる炎を感じていた。

彼は一歩前に出て、夕陽を背に立つセナの姿を見つめる。


「シャイニング・ブレイズ、か……」


呟きながら、彼は曲のリズム、歌詞の意味、展開の抑揚を一つ一つ頭に刻み込んでいく。

二週間後、この歌に命を吹き込むダンスを完成させるために。


--

やがて、最後のサビを歌い切ったセナの声が夕暮れの空に消えていった。

草原を吹き抜ける風の音だけが残り、全員がしばし言葉を失う。


最初に口を開いたのはユーリだった。


「……やっぱ反則だろ、あれ。声量も表現力も、次元が違うわ。マジで全身鳥肌立った……」


アルヴァンは目を丸くしたままポツリと呟く。


「こ、これが人気のトップシンガー……同じ高校生とは思えない……」


それぞれが称賛を口にする中、ステラは一人、胸の奥をぎゅっと掴まれたように立ち尽くしていた。

夕陽に照らされるセナの横顔、その歌声、その姿――。


(……悔しい……でも、綺麗……)


胸の奥に湧き上がる嫉妬と憧れが入り混じった感情に、彼女は思わず視線を逸らした。

けれど耳には、まだセナの歌声が残響のように鳴り響いている。


「セナさん……ほんとに……すごい」


気づけば、かすれた声でそう漏らしていた。

一方セナは照れくさそうに笑い、肩をすくめる。


「でしょ? だから絶対に踊りも入れたいの。完璧なステージにしたいから」


仲間たちの視線が自然とレイへと集まる。

レイは腕を組み、しばし黙り込んでいた。

頭の中で曲の展開をなぞり、リズムと動きのイメージを必死に繋ぎ合わせていく。

やがて目を開き、自信に満ちた表情でセナに向かって言い切った。


「セナ。明日のこの時間までに、振り付けの構成を間に合わせる。俺が必ず『情熱の歌姫』を最高に輝かせてやるよ!」


その言葉に全員がざわめいた。


「はぁっ!? おいおい、いくらなんでも無茶すぎだろ!」

「レ、レイ君! そんな短時間で完成なんて……!」


ユーリとアルヴァンが目を見開き驚きの声をあげる。それからアオイも目を細めて彼を見つめる。


「……ふふっ、やっぱり無茶苦茶。でも、そういう無茶に挑むほうがレイらしいわ」


ステラは驚きで目を丸くし、思わず叫んだ。


「レイ、ほんとにやるつもりなの!? 二週間しかないのに……無理して――」


だがレイは軽く片手を上げて制した。


「二週間しかないからこそ、明日までに形を作る必要があるんだ。基礎ができなきゃ練習も始まらない。……ということで明日学校サボって家に引きこもるから」


その真剣な眼差しに、ステラは言葉を飲み込む。

胸の奥がざわつきながらも、彼の決意の強さに何も返せなかった。

セナは一瞬だけ目を丸くし――すぐに笑顔を弾けさせた。


「やっぱりレイならそう言ってくれると思った! じゃあ明日の放課後、ここでね!」

「ああ!覚悟しておけよ!きつい振りになるかもしれないからな!」

「望むところよ!」


夕陽を背に向かい合う二人。

そのやり取りは、まるで本当の戦いを前にした宣言のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ