死神が見えるようになった人間、死に至る。
今日ほど目覚めが悪い日は、今後の人生でもありはし
ないと断言できるほどだった。
なぜあんな悪夢を見なければならないのか。
まあ確かに、仕事やらなんやらで、ストレスが溜まっている自覚はあるので、その反動かなんかだろう。
ベッドのシーツを整え、これから死地に向かうかのような足取りでリビングに向かう。
時刻は7時を過ぎた頃。
はあ、仕事に行く準備をしなければ。
ふと外に目をやると一点の黒が視界に入った。
それはゆっくりと膨張している。
少しずつ形を生していき、次第に黒い''ナニカ''へと変わっていった。
黒い襤褸のようなものを着ていて、右手には大きな鎌が握られている。
顔は影で良く見えないが、赤く光っているその瞳に何故か惹かれる。
あれはおとぎ話やなにやらで出てくる死神の類いだろうか。
なぜ俺のところに出てきたのだろうか。
なぜ俺は死神が見えるようになったのだろうか。
───ああ、なんだ。
そんなの簡単だ。
今から俺は死ぬから、死神が見えるんだ。
だってほら、握られている鎌の切っ先が、俺の首を捉えているように見えたから。
悔いが残る人生だった。
やりたいことも、まだまだあるし。
何より、自分は何もこの世に残せていない。
成せていない。
まあ、今自分が出来ることは───。
振り上げられたその鎌が、自分の身を引き裂くまでに
せめて苦しまずに死ねるよう、祈る事だけだ。
………
「ねえ聞いた?あそこの〇〇号室の人、突然死ですって。」
「まあ、そうなんですか?怖いですねぇ。」
「なんでも、過労死だとか。まだ若いのに。
人間、死ぬ時はあっという間なのね。」
「ええ、そうですね…。
……死ぬ時は、死神が見えたりするんでしようか。」
「さあ……?死んだ事のある人じゃないと分からないわね。そこは。」