第18話:監視者
【オーストラリア安全保障季刊誌 Defence Quarterly】
ダーウィン港リース問題:同盟国の懸念が現実に
2015年、北部準州政府は財政難から、ダーウィン港を中国企業・嵐橋集団に99年間リースした。当時は「純粋な商業取引」とされたが、9年後の今、豪州は苦い現実に直面している。
米海兵隊が駐留する戦略的要衝に、中国企業が深く関与。港湾施設の詳細な情報が北京に筒抜けとの疑惑が浮上。さらに、「商業的理由」を盾に、特定国の軍艦の寄港を事実上拒否する事例も。
最も深刻なのは、港湾労働者の雇用問題だ。「技術移転」の名目で送り込まれた中国人技術者が、いつの間にか管理職を独占。地元労働者は「言語の壁」を理由に、重要な業務から排除されている。
「我々は港を取り戻すべきだ」
労働組合のJ・マッケンジー委員長は訴える。
「これは単なる経済問題ではない。国家主権の問題だ」
編集長:Patricia Shelton
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深夜2時。陸は事務所で一人、三井の顔を思い返していた。あの既視感の正体が掴めない。コーヒーはとうに冷め切っている。
陸は金庫から父の遺品を取り出した。10年前の政治資金パーティーの写真や会合の記録、名刺の束だ。一枚一枚を虫眼鏡で確認していく。
そして見つけた。2014年の忘年会の集合写真、父の後ろ、端の方に写り込んでいる給仕服の男。顔を拡大すると…若き日の木下健吾だった。
「なぜ給仕として…いや、これは監視だ」
翌朝、陸は母に電話をかけた。
「母さん、10年前の父さんの周りに変わった人はいなかった?」
「そういえば…お父様の運転手で、木村さんという人がいたわ。とても礼儀正しい人だったけど…」
「ある日突然いなくなったのよ。お父様は『家族の都合で田舎に帰った』と言っていたけど、挨拶もなしに消えるなんて変だと思ったわ」
木村…木下…偽名だったのか。
美鈴が過去10年の父の行動記録と木下(木村)の動きを照合すると、衝撃の事実が判明した。
「陸さん、恐ろしいことが分かりました。お父様が重要な会合に出席する時、必ずこの『木村』が近くにいます」
木村が突然姿を消したとされる日。
それは、興信所の報告書にあった、父が綾小路との決別を決意した密会の翌日。
2014年3月15日。
ちょうど10年前の、今と同じような寒い日だった。
午後、美佐子が突然事務所を訪れる。
「陸、あなたに渡すものがあって」
彼女は古い手帳を差し出す。父が使っていた運転手の勤務記録だ。
「最近あなたの周りで起きていることを見ていると、お父様の最後の頃を思い出すの。同じような顔つきになってきたわ」
「母さん…」
「お父様も何かと戦っていた。でも結局…」
美佐子は涙を堪えている。
手帳を調べると、「木村」の筆跡と三井の視察時のサインが酷似していた。
さらに木村が突然姿を消した日は、父が綾小路との決別を決めた直後だった。
橘からの連絡が入る。
「陸、お前の事務所の向かいのビルに不審な男がいる。もしかしたら…」
陸が、そっと窓から覗くと、そこには見覚えのある顔があった。
田中か?いや、違う。選挙を手伝ってくれた、あの好青年に似ているが、目つきが鋭く、頬骨の位置が微妙に異なる。
まるで、兄弟か従兄弟のような、しかし確実に別人の顔。
「つまり木下健吾は少なくとも10年前から日本に潜伏し、誠二先生を監視していた。そして今、名前を変えて陸さんの前に現れたということですね」
美鈴が静かに分析する。
「ええ。彼らの計画は10年どころじゃない。もっと長期的なものかもしれません」
帰り際、美佐子が陸の手を握った。
「陸、お父様みたいにはならないで。私はもう大切な人を失いたくないの」
「大丈夫だよ母さん。父さんと違って僕には仲間がいる」
その夜、陸は一つの仮説に辿り着く。
木下健吾、木村、三井…すべて同一人物なら、なぜ顔が微妙に違う?
整形か? いや、もっと恐ろしい可能性が…。
「もし、同じ訓練を受けた複数の工作員が、入れ替わりながら監視を続けていたとしたら…」
陸の推論を聞いた橘が青ざめる。
「それじゃあ俺たちが相手にしているのは、一人の工作員じゃない。組織的な監視網そのものだ」
父が戦い、敗れた相手の正体が少しずつ明らかになっていく。
それは想像を超える巨大な影だった。
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