表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【国家反逆罪】ボンボン二世議員、政界の闇に立ち向かう  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第二章「東京湾の罠」
51/57

第15話:朝食会への招待

陸の地道な活動は、少しずつ、しかし確実に、人々の注目を集め始めていた。

SNSでは「#ちゃんと仕事してる都議」というハッシュタグが定着し、大手メディアは無視を続けるものの、いくつかのネットメディアや地域紙が、彼の活動を好意的に取り上げるようになっていた。

その小さな変化が、ついに、敵の注意を引いた。


都議会の本会議が終わった後、陸が廊下を歩いていると、一人の男が、穏やかな笑みを浮かべて近づいてきた。綾小路雅人が率いる最大会派「東京フロンティア」の、幹事長を務めるベテラン議員、桜井だった。

「高遠先生。最近のご活躍、我々も感心して拝見しておりますよ」

その丁寧な物腰とは裏腹に、目は全く笑っていない。

「つきましては、一度、私達の『朝食会』にいらっしゃいませんか。政策について、党派を超えて、自由に意見交換をする、ただの勉強会です。ご安心ください」

桜井は、そこでわざとらしく言葉を続けた。

「……あなたのお父上、誠二先生も、昔は大変興味を持たれていましたよ」

桜井は一呼吸置いて、声を潜めた。

「もっとも、最後は参加を拒否されて...その後どうなったかは、ご存知でしょう?」

その言葉には、明確な脅しが込められていた。

その一言に陸は全身の血が凍り付くのを感じた。

三十年前、父を失脚に追い込んだ、あの『京浜政策朝食会』。これは、その現代版。そして父への言及は紛れもない脅迫であり誘いだった。


セーフハウスに戻り、陸がそのことを報告すると、橘は即座に反対した。

「罠に決まってる。ライオンの檻に、自分から入るようなもんだ。連れていかれて消されるのがオチだぞ」

「危険です」と美鈴も続けた。「ですが、敵の懐に飛び込む、唯一のチャンスかもしれません」

陸の心は揺れていた。だが彼は行くことを決意した。

「……行きます。俺自身の目で、奴らが何なのかを確かめないと」


数日後の早朝。

12月、東京の朝の空気は、刃物のように冷たかった。陸は、厚手のコートの襟を立て、白い息を吐きながら指定されたホテルの最上階にある会員制レストランへと向かった。

息を呑むような、東京のパノラマビュー。静かに流れるクラシック音楽。テーブルには非の打ちどころのない完璧な朝食が並べられている。

そこにいたのは、綾小路派の都議たち、そして、都が推進するスマートシティ計画に深く関わる、大手ゼネコンやIT企業の社長たちだった。彼らは「関係企業」という名目で、当たり前のように議員たちと席を共にし談笑している。

そこは表向きは政策を語る高尚な勉強会。


会の途中、大手ゼネコンの社長が綾小路派の議員に向かって言った。

「例の臨海部の開発許可、よろしくお願いしますよ」

「心配いりません。都市計画審議会では、我々が過半数を握っていますから」

議員は当たり前のように答えた。

陸は、税金と許認可が取引される瞬間を目撃していた。


だが、その実態は税金という名の蜜に群がる、政治家と企業が癒着を深めるためのサロンだった。陸は、この国の根深い病巣を目の当たりにしていた。


会の終わりに、綾小路雅人が陸の元へやってきた。

その笑顔はCMで見る姿と寸分違わぬほど、爽やかで理知的だった。

「高遠さん、来てくれて嬉しいよ。君の意見が聞いてみたかったんだ」

彼はまるで旧知の友のように親しげに語りかけてくる。

「君は、私のスマートシティ計画に反対の立場だね。なぜだい? 理由を聞かせてほしい」

訝しみながらも、陸は自らの考えを、まっすぐにぶつけた。

「あなたの計画は都民の生活を、特定の外資系企業に委ねる危険なものです。経済的な従属だけでなく、都民の個人情報が、全て外国に筒抜けになるリスクがある。私はそれに断固として反対します」


綾小路は、陸の言葉を真剣な表情で最後まで聞いていた。そして、ゆっくりと、しかし、力強く反論を始めた。

「……なるほど、君の懸念はよく分かった。だがそれは少し古い考え方じゃないかな」

彼は元IT企業のCEOとしての圧倒的な知識とロジックで陸に語りかける。

「今の時代、グローバルな資本投下なくして、東京のような巨大都市が世界と戦っていくことはできない。リスクを恐れて内に籠もるのは、変化を拒むただの停滞だ。僕らが必要なのは高い壁を築くことじゃない。どんな攻撃にも耐えうる、最強のセキュリティシステムを自らの手で作り上げることなんだ」

その言葉に陸は反論することができなかった。

彼の理論は陸が信じるものとは、水と油のように全く相容れない。だが、その理論は一つの「正義」として完璧に成立していたのだ。


陸は、綾小路雅人という男の、本当の恐ろしさを、この時初めて肌で感じた。

彼は、父・誠之介や、伊達のような古いタイプの政治家ではない。

金や利権や脅迫で人を動かすのではない。

彼は、自らの言葉とビジョンで人を惹きつけ、熱狂させ、そして知らず知らずのうちに、自らの思想に染め上げていく。

そのあまりに現代的で、そして本質的なカリスマ性。

陸は自分とは考え方が全く違うことに驚きつつも、綾小路の考えが、一つの理想論として意外なほど「まとも」であることに首を傾げざるを得なかった。


朝食会が終わり、陸がホテルを出ると、強い日差しが目を射た。

陸は深い困惑に包まれていた。


綾小路雅人は、ただの売国奴ではないのかもしれない。

彼もまた、彼なりの「正義」と「愛国心」で、この国を作り変えようとしているのかもしれない。


だが、その時、陸は朝食会で見た光景を思い出した。

政治家と企業が癒着し、公共の利益が私物化される瞬間を。

理想がどれほど高潔でも、手段が腐敗していれば、結果も腐敗する。


陸は拳を握りしめた。

戦うべき相手の正体は、まだ見えない。

だが、守るべきものは、はっきりと見えていた。


この街で、真面目に働き、ささやかな幸せを求める人々の生活を。

最後までお読みいただきありがとうございました!

少しでも面白いと思っていただけたら、下の☆で評価やブックマークをいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ