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【国家反逆罪】ボンボン二世議員、政界の闇に立ち向かう  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第二章「東京湾の罠」

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第10話:開幕

都議会議員選挙、開票日。

神田の裏通りに構えた陸の小さな選挙事務所は、港湾労働者やその家族、ボランティアの学生たちで立錐の余地もないほどごった返していた。

テレビの開票速報が淡々と数字を映し出す。序盤、陸の得票数は伸び悩み、綾小路雅人が擁立したエリート候補に大きく水をあけられていた。事務所の空気は重く、誰もが固唾をのんで画面を見つめていた。


だが港湾地区の投票箱が開票され始めた、その時だった。

陸の票が面白いように伸び始めたのだ。一つ、また一つと投票所からの結果が報じられるたびに、陸の得票数が相手候補のそれを猛烈な勢いで追い上げていく。事務所のあちこちから驚きと期待の声が上がり始めた。


そして運命の夜11時過ぎ。テレビ画面に速報のテロップが躍った。

『東京都議会議員選挙、港区選挙区……高遠 陸、当選確実』


その瞬間、事務所は爆発したような歓声に包まれた。

「うおおおおっ!」

「やった! やったぞ!」

港湾労働者たちが互いの肩を抱き合い、涙を流して喜んでいる。千鶴も美鈴も泣きながら笑っていた。陸自身、信じられないという表情でただ呆然と画面を見つめていた。

最終的に陸は対立候補に大差をつけ、トップ当選というまさに「奇跡」を成し遂げたのだ。

美鈴が興奮した様子でスマートフォンの画面を陸に見せる。SNSには再びあのハッシュタグがトレンドの上位に躍り出ていた。

『#陸さんを信じる』


だが歓喜の時間は長くは続かなかった。テレビは続いて別の選挙区の結果を報じた。そこには綾小路雅人と共に、満面の笑みで万歳三唱をする彼の側近の姿が映し出されていた。敵もまた着実に都議会にその駒を進めていたのだ。


歓声が少し落ち着いた頃、美鈴が険しい顔で陸にノートパソコンの画面を見せた。

「陸さん、見てください。今回雅人が当選させた他の新人議員のリストです。全員、元IT企業の役員か都市開発の専門家……。そして彼らが選挙公約で一様に訴えているのが『東京ベイエリア・スマートシティ計画』の早期推進です」

美鈴は画面をスクロールしながら続けた。

「さらに不審なのは、当選した雅人派の新人議員たち全員の選挙資金管理団体の住所が…全て同じビルの違う階なんです。しかもそのビル、3ヶ月前まで空きビルだったはずなのに」

その言葉に陸たちの顔から笑みが消えた。


祝賀ムードが一段落した頃、剛が陸を事務所の隅に呼んだ。

「陸さん、実は最近妙なことがあってな」

「妙なこと?」

「俺たちが普段使ってる第三埠頭の奥に新しい倉庫群ができたんだが、そこだけ別の警備会社が管理してる。しかもその警備員たち、日本語が通じねえんだ」

剛は声を潜めた。

「それと夜中に変な振動を感じることがある。地下で何か工事でもしてるみたいな…」


その時だった。テレビが当選した綾小路雅人への生インタビューを始めた。

アナウンサーが陸の当選について雅人に水を向ける。

「高遠 陸さんも、港区で当選されましたが、これについて、どう思われますか?」

雅人は爽やかな、しかしどこか侮蔑の色を隠さない笑みで答えた。

「当選は当選です。心からお祝い申し上げます。ですが都政に必要なのは安定と長期的なビジョンです。一度国政という大舞台を自ら投げ出した方のお祭り騒ぎのような選挙戦が、都民の皆様の本当の信頼を得られるのか。お手並み拝見、といったところですね」

その言葉は、陸が国会議員を辞職した事実と、彼の選挙戦が素人集団の草の根運動であったことを執拗に揶揄するものだった。


「……あの、ガキが……!」

その言葉に誰よりも早く激昂したのは千鶴だった。

「あんたに陸さんの何が分かる! 陸さんはな、あんたの親父たちがめちゃくちゃにしたこの国の未来を、たった一人で、命懸けで守ろうとしたんだ! それを祭りだと? ふざけるんじゃないよ!」

千鶴の魂の叫び。その怒りは事務所にいた全てのボランティアスタッフの心に火をつけた。そうだ、そうだ、と誰もが悔しそうに拳を握りしめている。


さらに事務所の喧騒が収まりかけた深夜、一人の老人が訪ねてきた。

「高遠陸さんですね。お父様には、昔お世話になりました」

老人は元国土交通省の官僚だと名乗った。年の頃は七十代後半、深く刻まれた皺が長年の苦労を物語っていた。

「一つ、お伝えしたいことがあって」

彼は古い設計図を取り出した。黄ばんだ紙に描かれた複雑な構造図。

「これは30年前、極秘に計画された東京湾岸の地下施設の図面です。当時は予算の関係で頓挫しましたが…最近、この場所で不審な動きがあると聞きまして」

陸が図面を見ると、それは東京港の地下深くに巨大な空間を作る計画だった。その規模は地下都市と呼べるほどのものだった。

「なぜ、これを私に?」

「あなたのお父様だけが、この計画の危険性を訴えてくださった。『国民の目の届かない場所に、巨大な施設を作ることの危険性』を。もし復活しているなら…」

老人はそれ以上語らず、「お気をつけて」とだけ言い残して夜の闇に消えていった。


陸が窓の外を見ると、東京湾の方角の空がかすかに赤く染まっていた。まるで何かが静かに燃えているような…

「始まったな」

橘の呟きに、陸は無言で頷いた。


歓喜だけでは一つになれない。だが共通の敵に対する純粋な怒りは、時として何よりも強く人を団結させる。

陸は仲間たちのその熱い視線を受け、静かに、そして力強く宣言した。

「皆さん、ありがとうございます。……これからが、本当の戦いです」

その声にはもう漂流していた頃の迷いはなかった。

新たな戦場で、新たな仲間と共に。そして、父が残した警告と共に。

陸の、第二章の戦いが、今、確かに、幕を開けた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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