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【国家反逆罪】ボンボン二世議員、政界の闇に立ち向かう  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第一章「永田町の死角」
32/57

第32話:炎上の記者会見

本会議の前日、午後2時。

昨夜の情報戦から一夜明け、日本中が固唾を飲んで見守る中――


議員会館の、最も大きな会見場は、異様な熱気に包まれていた。テレビカメラの放列が放つライトが、真夏のぎらつく太陽のように、演台を白く照らし出す。三百人を超える報道陣が、今か今かと待ち構え、そのざわめきが、まるで地鳴りのように部屋全体を揺らしていた。


『高遠 陸議員、緊急記者会見』


全てのテレビ局が、この会見を生中継で報じようとしていた。伊達のスキャンダルと、高遠親子の疑惑。混乱を極める情報戦の渦中、渦中の本人が、何を語るのか。日本中の注目が、この一点に集まっていた。

やがて、陸が、一人で会見場に姿を現した。

無数のフラッシュが、容赦なく彼を襲う。だが、陸は怯まなかった。彼は、やつれてはいたが、その足取りには、以前のような迷いはない。壇上に上がると、彼は、集まった報道陣を、一人ひとり、見渡すように、ゆっくりと、しかし力強い視線で見つめた。


そして、深々と一礼し、マイクの前に立った。

「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。衆議院議員の高遠 陸です」


その声は、驚くほど、静かで、落ち着いていた。

「昨日来、私と、私の父・高遠誠二に関する、様々な報道がなされています。本来であれば、党の決定に従い、静かに沙汰を待つべきなのかもしれません。ですが、私にかけられた疑惑は、もはや、私個人の問題ではない。この国の民主主義の根幹を揺るがす、重大な犯罪行為の、ほんの一端だからです」


陸は、そこで一度、言葉を切った。

「今日、私は、自らの潔白を証明するために、ここに来たのではありません。私と、私の仲間を陥れた、組織的な陰謀の存在を、その動かぬ証拠と共に、国民の皆様にご報告するために参りました」


その言葉に、会場がどよめいた。

陸は、背後の巨大スクリーンを指さした。

「まず、こちらをお聞きください」

陸は、手元のリモコンを握った。

「これは、極秘に録音された音声データです。現時点で配信サイトにもアップロードされています。日付は7月15日。橘氏が逮捕される、わずか二日前のものです」


スピーカーから、伊達の秘書官・桐生と、公安幹部との、あの生々しい電話の音声が、大音量で流れ始めた。

『これは、官房長官直々のご指示だ。……適当な罪状をでっち上げて、至急、『処理』しろ』


桐生の冷酷な声が響き渡ると、記者たちの間から、どよめきと怒号が上がった。

前列の記者が叫んだ。「これは本物なのか!」

別の記者が続く。「官邸のコメントは!」

陸は静かに手を挙げ、場を鎮めた。

「これは、私の友人であるジャーナリスト・橘 蓮司氏の逮捕が、官邸主導で行われた、不当な圧力であったことの、動かぬ証拠です」


陸は、間髪入れずに、次の証拠をスクリーンに映し出した。

「では、その罠を、実際に実行したのは誰か」

スクリーンに大写しになったのは、橘を罠に嵌めた男、坂井裕之の顔写真と、その経歴だった。そして続いて、橘が咄嗟にカメラを撮った写真と顔写真を比較した結果もスクリーンに映されていた


『坂井裕之。衆議院議員・瑞樹 秀 公設第二秘書』

「橘さんを陥れた実行犯は、瑞樹議員の、公設秘書でした。この逮捕劇は、瑞樹事務所が主導した、計画的な謀略だったのです」


そして、陸は、とどめの一撃を放った。

「さらに、驚くべきことに。この事実は、私のチームに潜り込んだ、敵のスパイによって、隠蔽されようとしていました」

スクリーンに映し出されたのは、ギルド『蝉時雨』の、あの書き込みだった。


投稿者:観測衛星『目』

『ターゲット、坂井の身元を特定。……口封じを要請する』

「『目』と名乗るこの人物は、私の政策秘書、遠藤圭介です。彼は、私の潔白に繋がるこの事実を、敵の司令塔に報告し、証拠隠滅を指示していました。証拠としてPCのログをご覧ください」


圧力の証拠、実行犯の正体、そして、内部からの隠蔽工作の証拠。

「三重の証拠」が、完璧な論理で、陰謀の存在を白日の下に晒していく。会場の空気は、興奮と驚愕で、最高潮に達していた。


陸が、最後の言葉を口にしようとした、その瞬間だった。

「嘘だ! 全て、捏造だ!」

会見場の後方で、カメラマンを装っていた一人の男が、突然、大声を張り上げた。

「高遠、お前こそが、国を売った裏切り者じゃないか!」

男は、そう叫ぶと、演台に向かって、猛然と駆け出してきた。その手には、鈍く光る金属の棒のようなものが握られている。後の調べで、それは特殊警棒だったことが判明する。


会場が、パニックに陥った。SPが動くより早い。

だが、男が演台にたどり着くことはなかった。


記者席の端に座っていた橘が、椅子を蹴立てるように立ち上がると、矢のような速さで男の進路に立ちはだかり、その体に、強烈なタックルを見舞ったのだ。


「させるかよ!」


橘の、魂の叫び。男が、床に倒れ込み、騒然となる会見場。橘がタックルを決めた瞬間、浅野は既に携帯を手にしていた。

「警察ですか。議員会館で暴漢が――はい、既に取り押さえています」

そして、冷静に、しかし鋭い声で叫んだ。

「警備員の方! こちらです! この男を取り押さえてください!」



彼女は、陸から「万が一のことがあるかもしれない」と事前に知らされ、すでに入り口の警備員たちに、不審者の警戒を要請していたのだ。橘の機転と、浅野の周到な準備。完璧なチームワークが、綾小路側が送り込んだであろう破壊工作員の凶行を、寸でのところで阻止した。

男が取り押さえられ、連れ出されていく中、陸は、少しも動じることなく、マイクの前に立ち続けていた。


彼は、再び、カメラの放列を、まっすぐに見据えた。

「皆様、お見苦しいところをお見せしました。ですが、今、ご覧いただいた通りです。私の敵は、真実を語る者の口を封じるためなら、いかなる卑劣な手段も厭わない。それが、彼らの正体です」

その声は、日本中に、そして世界中に、生中継されていた。

「証拠は、全てここにあります。私は、私にかけられた全ての疑惑が、この国の権力の中枢にいる者たちによって仕組まれた、悪質な陰謀であったと、ここに断言します。最後の審判は、国民の皆様に、そして、この国の司法に委ねます」


陸は、深々と一礼すると、無数のフラッシュの中、毅然として、演台を後にした。

会見場を後にした陸を、橘と浅野が待っていた。

「よくやった」橘が肩を叩く。

「まだ終わっていません」陸は前を見据えた。「明日が、本当の決戦です」


##############################################


陸が会見場を後にした直後、各局のニュース番組は、慎重な論調で事態を報じ始めた。


【NNNニュース】

「先ほど行われた高遠陸議員の記者会見ですが、衝撃的な内容でした。ただし、提示された証拠の真偽については、慎重な検証が必要でしょう」

コメンテーターが続ける。

「音声データは編集されている可能性もありますからね。それに、遠藤秘書はすでに亡くなっていて、反論ができない状況です」


【報道プライム】

「確かに証拠は具体的でしたが、これが本当に陰謀の証明になるのか。単なる派閥争いの延長という見方もできます」

「そうですね。ただ、会見中の妨害行為は看過できません。あれは明らかに異常でした」


しかし、テレビが慎重論を展開する一方で、ネット上では別の動きが起きていた。


まず動いたのは、一部の独立系ジャーナリストたちだった。


@journalist_yamada

「俺、あの音声の中の公安幹部の声、聞き覚えがある。10年前の冤罪事件でも同じような手口だった。これはガチだ」


@reporter_sato

「坂井裕之、調べたら真っ黒。過去にも野党議員への嫌がらせで名前が挙がってる。瑞樹事務所の汚れ仕事担当で有名」


次に、技術者たちが動いた。


@engineer_tanaka

「音声解析したけど、編集の痕跡なし。ピッチ、波形、全て自然。これ本物だわ」

[解析データ画像]


そして、徐々に一般の人々も声を上げ始めた。


@machinopanya0972

「父親が死んで、友人が逮捕されて、それでも戦ってる陸さん。少なくとも命懸けなのは本当だろ」


@mother_of_nana

「会見で襲われそうになった時、全然動じなかったよね。覚悟が違う」


午後6時。ネットの声は、少しずつ、しかし確実に大きくなっていった。


『#陸さんを信じる』は、最初は散発的だったが、夜にかけて急速に拡散し始めた。


@influencer_takeru(フォロワー50万)

「テレビは相変わらず及び腰だけど、証拠は証拠でしょ。特に最後の妨害工作、あれで確信した。陸さんの言ってることは本当だ #陸さんを信じる」


このツイートが、潮目を変えた。


午後8時。あるネット番組が緊急特番を組んだ。

「緊急検証!高遠陸議員の告発は真実か?」

視聴者数は瞬く間に100万を超え、コメント欄は支持の声で埋まった。


午後10時。ついに大手ポータルサイトのコメント欄でも、流れが変わり始めた。

「最初は半信半疑だったが、あの妨害工作は異常すぎる」(いいね:5234)

「橘氏の逮捕も確かに不自然だった」(いいね:4567)

「少なくとも、ちゃんと調査すべきでは?」(いいね:6789)


深夜0時。

『#陸さんを信じる』は、ついにトレンド1位となった。


テレビは依然として慎重論を崩さなかったが、もはやネットの声は、無視できない大河となっていた。

反撃の狼煙は、今や、日本全土を包む、巨大な炎へと変わろうとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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