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【国家反逆罪】ボンボン二世議員、政界の闇に立ち向かう  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第一章「永田町の死角」
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第27話:『蝉』の実行犯

ホワイトボードに、赤いマーカーで力強くチェックが入れられた項目が、陸たちの最初の勝利を物語っていた。

☑ 圧力の証拠

伊達官邸から公安への、直接的な圧力の音声。それは、反撃の狼煙を上げるための、最初の武器となった。

「だが、これだけじゃ足りない」

橘は、腕を組みながら言った。

「これは、伊達の指示を証明する証拠だ。だが、その指示を受けて、実際に俺を罠に嵌めた『実行犯』がいる。そいつを特定し、瑞樹との繋がりを証明しなければ、奴らは『秘書官が勝手にやったことだ』と、トカゲの尻尾切りで逃げるに決まってる」


「ええ」と陸は頷いた。「二つ目の証拠を、取りに行きましょう。橘さんを罠に嵌めた、あの男。……瑞樹の『蝉』として動いた、実行犯の正体を」


橘は、一人の旧友の元を訪ねた。警視庁の元鑑識官で、似顔絵捜査の達人として、かつて数々の難事件を解決に導いた老人だ。今は、都心から離れた静かなアトリエで、隠居生活を送っている。

「……橘君、また厄介な案件かね」

アトリエの主、丸山は、絵筆を置いて苦笑いを浮かべた。

「警察を辞めて十年。まさか、君の『敵』の顔を描くことになるとはな」

「勘弁してくださいよ、丸さん。こいつの顔を思い出そうとするだけで、虫唾が走る」

橘は、あの屈辱的な夜の公園を思い出し、不鮮明な写真と、自らの記憶を元に、犯人の男の特徴を、一つ一つ、詳細に伝えていった。目の形、鼻の高さ、唇の厚み、そして、あの神経質な瞬きの癖。

丸山は、黙って鉛筆を走らせていく。そして、一時間後。そこには、写真よりも遥かに鮮明で、生々しい、あの男の顔が描き出されていた。


セーフハウスに戻った二人は、その似顔絵の画像データを、最新の顔認証システムにかけた。橘の持つ、非合法なものも含めた、あらゆるデータベースと照合していく。

数時間が過ぎた。システムが、無数の候補者の中から、一致率の高い人間のリストを吐き出していく。そのほとんどは、別人だった。

「ダメか……」

陸が諦めかけた、その時だった。

「待て」

橘が、画面の一点を指さした。一致率は、78%。決して高くはない。だが、そのプロフィール写真に写った男の、神経質そうな目の動きは、橘の記憶の中の男と、完全に一致していた。

「……こいつだ」


名前は、坂井裕之さかい ひろゆき

画面に表示された職業欄を見た瞬間、陸と橘は同時に息を呑んだ。


衆議院議員 瑞樹 秀 公設秘書


「瑞樹の……直属の秘書だと!?」

橘の声には、怒りと同時に、ある種の納得が含まれていた。

「道理で、公安まで動かせたわけだ」

陸は、すぐに浅野に連絡を取り、この男の身辺調査を依頼した。数時間後、浅野から、驚くべき報告がもたらされる。

『坂井裕之、35歳。元は大手広告代理店勤務。瑞樹議員が初当選した時から、第一秘書として仕えています。表向きの役職は政策秘書ですが、瑞樹議員の選挙戦での汚れ仕事や、反対派への妨害工作などを、一手に引き受けてきた……いわば、瑞樹議員の『懐刀』です』


「瑞樹の、懐刀……!」

橘を贈賄犯に仕立て上げた実行犯は、瑞樹の汚れ仕事を請け負う、腹心の部下だったのだ。これで、逮捕劇が瑞樹事務所によって仕組まれた、完全な謀略であったことが証明された。


二つ目の証拠が、手に入った。だが、安堵する暇はなかった。

すぐに、浅野から、別の緊急連絡が、暗号化通信で入ってきたのだ。

『陸さん、遠藤の動きに、極めて不審な点があります』

浅野の声は、緊張でこわばっていた。

『昨日から、事務所の機密ファイルを、個人のクラウドストレージに、大量にバックアップし始めています。ファイルのリストを確認しましたが、私たちがこれまで調査してきた内容が、全て含まれています。まるで……』

「まるで、全ての証拠を持って、どこかへ逃げる準備をしているみたいだ、と?」

陸の言葉に、浅野は息を呑んだ。

『……はい。その通りです』

『それと、遠藤の様子ですが……顔色が悪く、誰とも目を合わせようとしません。罪悪感なのか、恐怖なのか……』


遠藤が、動き出した。それは、伊達たちが、こちらを本格的に潰しにかかる最終段階が近いことを意味していた。

陸は、ホワイトボードの二つ目の項目に、震える手でチェックを入れた。

☑ 実行犯の特定


残る証拠は、あと一つ。遠藤が、裏切り者であるという決定的な証拠。

「橘さん、罠の準備を」

陸が、そう言いかけた、その時だった。

再び、浅野から、悲鳴に近い声で、緊急連絡が入った。


『大変です! 私の協力者から、たった今、連絡が…! **坂井が、今朝、瑞樹事務所で、大量の書類をシュレッダーにかけていたそうです!** おそらく、我々の動きに気づいて、証拠隠滅を始めたようです!』


その報告に、陸と橘は顔を見合わせた。

セーフハウスの窓の外では、夕立が来るのか、空が急に暗くなり、生ぬるい風が吹き始めている。

敵もまた、動いている。それも、こちらの想像を超えるスピードで。


陸は時計を見た。午後四時三十分。

辞職勧告決議案の上程まで、あと五日。

いや、敵が本気で動き出した今、実質的なタイムリミットは、もっと早いかもしれない。


残された時間は、あまりにも少なかった。

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