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浮かれる花凪


「見てみなよ姫花。仲が良い花凪と明里……ありえない光景だね」


 私が笑う埴太郎の目線の先を辿ると、花凪君が明里に頬を引っ張られて涙目になっていた。

 ちょっと前までのことを知っていると、すごい光景だと思う。

 明里があんな風に男子と絡むなんて。明里に気があった男の子たちも、驚いた顔をしている。


「明里、あんなに花凪君と仲良くなれたんだ……」

「そうだね。でも今はたぶん、良くなりかけた仲を花凪が台無しにしてるんじゃないかな」

「わ、埴太郎は花凪君に詳しいんだね。明里も、金髪貞子って言われてあんなに怒ってたのに……ふふ、すごい変わりよう」


 あの花凪くんがまさかストーカーの正体を見破った挙句にやっつけたなんて、私も明里から聞いた時にはびっくりしたけど、まあそんな出来事があったら仕方ないかとも思う。


「ああ、見たいだね。ほんとすぐに変なあだ名をつけるんだから困ったものだよ。ボクも演劇で使った埴輪を持っていたらさ。あいつがいきなり『おいそこの埴輪をもった埴太郎』って言ってきて……」

「あはは、でも気に入ってるじゃない? みんなに自分のことは埴太郎って呼んでって、すぐに触れ回ったくせに」


 その理由はわからないけど。花凪君と一緒で埴太郎も大概の変人だと私は思う。


「まあ理由があるからね。でもあいつ、そのこと忘れて本名だと思ってるみたいなんだ」

「ああ、そういえば。埴太郎って二つもあだ名をつけられてたもんね。イケメン天狗とか」


 あだ名をつけられて何が楽しいのか知らないけど、埴太郎は本当に面白そうに笑いながら花凪君を見ている。


「……花凪君って、本当にわからない人だよね」

「ああ、わかりやすいと思ってたんだけど……とんでもない男だったよ」

「ふふふ、確かに」


 人の輪に入れないくらいの変人なのに、話してみると悪い人じゃない。

 卑屈な人かと思ったら、びっくりするくらいエネルギッシュだったし。


「みんな馬鹿にして見下すけど、あの人は多分、大物だよ」

「ボクもそう思うけど、彼はそう評価するには変人すぎるんだ」

「そうなんだよねえ、惜しいよねえ。あ、でもそんな花凪くんが惚れた女性ってどんな人なんだろうね?」


 どうやら彼が追っているのは明里じゃなくてサークルにいるはずの女性らしい。

 でも、一向に会えないって嘆いていた。

 てっきり退部した誰かのことかと思ってたけど、埴太郎の話だとちゃんと居ると言う。

 そんなはずはないのに。

 幽霊部員はいるけど、ほとんどが明里やキララさん……あと私や彼女に振られた男性で、女性の欠員はいなかったはず。


「うーん? 誰なんだろう。私もサークルの人は全員知っているはずなんだけどなあ」

「──誰だろうねえ?」


 すごく意地の悪い声がした。

 見れば埴太郎がお腹を抱えて、声を殺して笑っている。


 ──え、あれ? もしかして。


「ちょ、待って。埴太郎にイケメン天狗ってことは……そんな、花凪君って……嘘、ええ!?」

「ほんっとあの男は……ばか……うふふふ」



 ◇



「──天才であるっ!」

「ただのバカよ!」

『そうじゃこの大馬鹿者めぇ!』


 ストーカー事件を無事に解決してお土産戦争に勝利し、ついに山田花子への切符を手に入れた私はもはや誰もが認める天才だろう。

 しかし、やはり凡人にこの花凪の偉大さは理解できないようだ。

 だが仕方ない。解るまで示し続けることも、持つ者であるこの花凪の宿命といえよう。


「フハハ! 理解できぬかこの凡人共! ならば刮目せよ! これから始まるこの私の快進撃を!」


 さあ、後は進むだけ。


 ──いざ行かん!


 山田花子よ私を待て。もうしばらくの辛抱だ!


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