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宮村明里の独白2

「金輪際、宮村明里に近づくな。お前の退職を持って手打ちにしてやろう」


 ねえ、花凪。普段のアンタはどこに行ったの?


 どうしようもない変人で、サークルのみんなに呆れられる厄介者のくせに。

 なんで、アンタが彼と戦っているの?

 こんな私だって、最初は戦おうとしたんだよ。

 実は探偵にもお願いしてみたんだけど……でも監視カメラもダメで、雇った探偵も全然手がかりがないって諦めてたんだよ?

 怖くて、気持ち悪くて、お金まで掛けてもダメで、挙句にお金も無くなって。

 頼れと言ってくれた隼人さんも、信用できないって心ではわかっていてもどうしようもできなくて、毎日が不安で仕方なかったんだよ?

 私はずっと、どうしようもできなかったのに。


 なんでアンタは、そんなに堂々と彼と向き合えるの?


「彼女はお前みたいなクズのために美しいんじゃない。彼女には彼女なりの苦悩があり、それを乗り越え努力によって強さも美しさも兼ね備えた今の宮村が成り立っている。お前みたいな逃げ出した無様な猿が冒涜していい存在ではない」


 ねえ、花凪。なんであんたが私のこと認めてるの?


 そうだよ私、努力してるんだよ。

 自分らしくいるって、そんなに楽じゃないんだよ。

 好いてくれる人もいるけど、嫌う人だって多いんだよ。

 弱いとすぐにやられるから──強くなくちゃいけないんだよ?

 服も化粧も、女は見た目が武器なんだよ?

 もちろん私だって、誰からも好かれたいなんて思っていなから、つい喧嘩腰になっちゃうけど。

 ねえ、アンタとは喧嘩してたよね? 私、アンタには悪い人だったよね?

 なのに、なんで……私のこと理解してくれているのよ。


 ──涙でまともに顔が見れないじゃない。


「……わ、わかった! わかったから!? あ、明里からは手を引くっ! そ、それでもういいだろう!?」


 ねえ、花凪。なんで、あの隼人さんがアンタに怯えてるの?

 なんで、アンタが彼を追い詰めてるの?


 私、親しい男友達にも相談したけど、みんな隼人さんに相談しているなら大丈夫だって取り合わなかったんだよ。

 みんな、あの人には敵わないからって、比べられたくないからって、逃げたんだよ。

 だから私はあの人が怪しいって、誰にも相談できなかったんだよ。

 みんなあの人に認められたくて必死で……あの人を疑うことすら許されない雰囲気だったんだよ?

 だから私はあの人が犯人な訳が無いって、自分を騙す自分に自己嫌悪して。


 ──誰もあの人には敵わないって諦めていたのに。


 呼び出された今日だって覚悟してここに来たんだよ?

 もう、受け入れてしまえば楽だから。

 あとは何も考えずに身を任せようって……心を殺したのに。


「大丈夫か、宮村? ほら冷えるだろう。これでも飲むといい」


 ねえ、花凪。なんでそんなに優しいの?


 アンタのくれた自然薯のポタージュ、なんだかとっても温かいよ。

 ただ温かいだけじゃなくて、ポカポカと心に染み入るように全身に安心感が広がっていくみたいで……やめてよ、もっと泣きそうになるじゃない。

 ねえ、なんで助けてくれたの?

 私、ずっとアンタにとっていい人じゃなかったよね? 

 アンタとは全然仲良くなかったじゃん。


「大丈夫、人間なんて最初から誰かに騙されて成り立つ社会的生物だ。気にするな」


 ねえ、花凪。なんでそんな風におどける余裕まであるの?


 どうしようもない変人で友達だっていないくせに、なんでそんなに強いの?

 隼人さんにあんな大立ち回りまでして、なんで私を守ってくれたの?


 ……気づいているんでしょ、花凪?


 私も、アンタのせいにして逃げたんだよ。

 でも、アンタが犯人であってくれれば楽だから、悩まなくて済むから、あの人たちと敵対するのが怖いから……だから──。

 自分が本当に嫌いになる程、私って醜いんだよ。


「大丈夫だ。前をむけ、宮村。そなたは美しい」


 なんで、そんなに優しいの? 

 なんで、綺麗だって言ってくれるの?

 ああ、ダメ。

 醜い姿を晒したくせに、弱い姿まで見せたくない。

 なのに、どうしようもなく涙が溢れてしまう。


 でも、そんな私に花凪は──。


「泣きたければ泣け。こんな背中で良ければ、好きに使うといい」


 聞こえてきた花凪の声は、今まで聞いたどんな音よりも優しかった。

 振り向いた彼の顔と目が合った瞬間、私は自分でもなんでか、まともに目を合わせられない。


 ──ねえ花凪。なんで私はアンタの顔が見れないの?


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