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豚まん爆撃

 551蓬莱の豚まんをご存知だろうか。


 肉まんではないぞ、豚まんだ。


 主に関西地区の新幹線内で豚まんの詰まるパンドラの箱を開け放った客が、芳しくも強烈な臭気を撒き散らす様はもはや伝統行事だ。

 近年新幹線内に配置された警備員が、あまりの臭気に“すわ一大事か!?”と、鋭い目つきでそっと近寄り「なんだ、また豚まんか」と、腹を鳴らして帰っていくというムーブが伝統化したらしい。


 京都駅構内、四条大丸、滋賀のサービスエリアと、あらゆる販売所で行列必至な関西が誇る土産の皇帝である。

 その大きさはマクドナルドにあるビックマック並で、そのボリュームを一目見たものは、「こんなの食べられないよ〜」と最初に言って一口食べたが最後、あっという間に二個三個を完食してしまう怪奇現象に見舞われる。


 肉の旨みが、甘みの強い皮と口の中で混ざり合うあの中毒性が、腹が膨れても食べることをやめさせないのだ。

 この豚まんを見舞われたものは、文字通り、豚まんを頬張ろうと止まらぬ手に、きっとあなたを求めるだろう。

 関西地区の人間には馴染みのものだが、意外にこの名古屋には知らない人も多い。


「豚まんって、あんた私のことやっぱり舐めてるの?」

「クックク、ふはは……ってええ!?」

「何笑ってんのよ!」


 またもやすねを蹴られてしまった。


「べ、別に宮村を笑ったんじゃない! 高校時代、他校の女子がおんなじことをほざいて軽く二つ平らげていたのを思い出したのだ」

「は? 何よそれ」


 高校生の当時、京土産愚連隊と言う学校非公認の部活動をしていた私は、後に伝説として先生や後輩たちに語り継がれることになる『三十六計、逃げるが回り込まれる事件』を解決し、先生から褒美として正式な部活動と認められる快挙を果たした。部活の名前こそ関西土産促進部と無難なものに変更させられはしたが、初代部長として最初の活動に相応しい、東京の高校へのお土産マウントによる、江戸時代より続く東京中心のヒエラルキーの逆転を私は計画した。まずは最初の一歩として、学校運営のオーナーが同じ東京の姉妹校へと文化交流会という名のお土産一揆を企画したのだ。


 その時に私が発案したのがこの『豚まん爆撃計画』だった。


 当初は持参した蓬莱の豚まんを「お土産に豚まん(笑)」だの「こんなに食べられる訳ないじゃん(笑)」と嘲笑った東京渋谷は金髪のギャルどもだったが、文字通り爆撃のように先方の生徒会の皆や教師陣にお見舞いし大好評を得た結果、奴らはしぶしぶ一口齧った次の瞬間、あっという間に簡単に平らげ二つ目を要求してきた。蔑んだギャルどもは中毒にした私の偉業は今でも武勇伝として部活の後輩たちに語り継がれているに違いない。


「……あんた、高校時代から変人だったのね」

「おい、話を聞いていたのか!? 天才の要素しかなったであろう!」

「変人の要素しかなかったわよ!?」


 解せぬ。しかし、天才とは変人扱いされるものと割り切れば、こんな凡才の一言一言に反応しても仕方がない。


「まあいい。とにかく、蓬莱の豚まんを求めよ。さすれば汝の恋路は開かれん」


 無論、竹ノ内氏が既に知っている可能性はあるが、知っているなら蓬莱の豚まんの旨さを知っていると同義である。すなわち、彼女のお土産センスの高さに驚いて好感度上げること間違いない。


「二人仲良く、豚まんを頬張ればいい。幸運にも季節は秋から冬になりかけている。気候まで君の味方をしているぞ」

「だから! お金があんまりないって言ってんでしょうが! 関西まで行く旅費なんて今はないのよ!」

「ぬうう!?」


 金欠貞子という大事なことを忘れていた。

 しかし資金不足となると、私のお土産大作戦の第一関門の突破が難しい。


「ま、あんたにしては面白い話だったわ。あんたにしては、ね」

「え?」


 さりげなく私をディスって席を立つ宮村だったが、まさかこのまま帰るつもりはでなかろうか。


「お、おい……」

「もういいわ。別にあんたの力を借りなくてもこの程度、自分でなんとかするから」

「し、しかしそれでは……」

「は? あんた、もしかして自分がこの私の役に立てるとでも本気で思ってたの?」


 彼女は空になったコーヒーのカップを持って席を立ち上がると、私を睨むように言った。


「あんたみたいなヒョロガリもやしに何ができるのよ。あ、相談した内容は忘れてね」


 残念ながら、彼女の信頼を獲得するには至らなかったようだ。

 宮村が去った後をぼうっとみる私に、空中幼女が話しかけてきた。


『良いのか? お主にはあの女の協力が必要不可欠であろうに』

「問題ない。この程度の拒否など日常茶飯事、それでも諦めないのが天才なのだ」

『ほう! 根性があると褒めればいいのか、惨めと哀れめばいいのか相変わらずわからん男よのう!』

「おい、そこは素直に褒めておけ」


 何故かようにも私はディスられるのか。

 こんなに真面目で真摯で紳士な大学生など珍しいであろうに。


「まあいい。おい空中幼女、ちょっと協力しろ」


 私の一言に空中幼女が眉を顰めた。


『……相変わらず敬意のない人間よのう。神を顎で使おうなどいい度胸じゃ。良いか人間、忘れるなよ。妾に対する不躾な態度を許しておるのも、全ては縁結びの徳を得るため。それが果たされんとなれば、人間一人を呪うなど……』

「成功したらフラペチーノ飲ませてやるから」

『わーい! 一体何をすればいいのじゃ!? はやく教えぬか!』


 阿呆が、この天才を脅迫など片腹痛いわ。

 一応は私より年上らしいが、見た目通りの精神年齢なこんな駄女神幼女など恐るるに足らん。


「お前の協力をもって、貞子への次の一手とする。早速行動を開始しよう」

『任されよ! フラペチーノのためじゃ、早く行くぞ!』


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