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反逆のポタージュ

 あの後、必死で仲間由紀恵氏と貞子について語る私に先輩は「君は天才じゃない、ただのアホだ」と不謹慎な一言を告げて出ていった。


「ふむ、やはり金髪貞子か……」

『お主を蛇蝎の如く嫌うあの女か。しかし、あの女を味方にすれば勝てるとはどういうことじゃ?』

「ちっ、この私としたことが……逃げてしまっていたのか。わかっていたんだよ。この戦いは初めから何を用意するかではなく、誰に用意するかだったのだと」

『うむ? どういうことかのう?』


 先輩に言われるまでもなく薄々、気付いていた。


 このまま続ければ、私がいかに高品質なお土産を用意しても勝てないだろう。

 私の天敵イケメン天狗に好感度というアドバンテージがあるのは間違いないが、私がこうも惨敗するのもおかしい話なのだ。

 通算六回の戦において、お土産兵器の威力は何回かこちらが上回った。

 もとよりお土産にこだわりのある私、妥協など一切なく、本当に美味しいものしか買ってこない。空中幼女の横槍は入ったものの、そこまで下手なものを買ったわけでもない。


 対してイケメン天狗は面倒くさくなったのか、大手メーカーの市販菓子が、大して美味しそうでもない「ご当限定フレーバー」という地味なお菓子を買ってくることも何回かあった。

 それでも私が負ける大きな原因はただ一つ。


 ──何これ? え、花凪の? じゃあいらない。


 それは私のお土産をことごとく門前払いする金髪貞子の存在に他ならない。

 彼女が白を黒といえば、周りも黒と思うだけの力がある。

 しかも私は彼女に嫌われている。それはもう、嫌われている。

 目線を合わせれば睨まれ、不意にバッタリ会えば「ゲっ」とかいう呻き声を漏らされる。


 私は彼女を美人と認めているし、苦手な人種ながらも金髪貞子という名誉ある称号まで付けているのに、ひどい話だ。

 昼にもイケメン天狗の鼻血のことで絡まれたしな。


「むう、このサークル内でお土産戦争に勝利するためには金髪貞子の攻略が不可欠か」


 周囲の取り巻きどもは女帝に遠慮しているのか、彼女の意向を注視している様子だった。

 このガトーショコラだってそうだ。


 もし金髪貞子が最初に否定しなかったら?


 イケメン天狗だって、今回は負けそうみたいな口ぶりだったではないか。

 つまりこの戦いはお土産の威力を競う勝負ではなく、いかに金髪貞子を攻略するかという勝負にだったのだ。


『そんなの絶望的でないか! 最初からあの女が全てというならお主に勝ち目はないではないか!』

「はっきり言うな。心にくる」

『もはやこれまでかのう……』


 空中幼女が呆れるようにアーモンドチョコをひとつ、口に放り込んだ。

 むかつくがこいつの言う通りだ。

 そもそもコミュニケーションに難のある私が認められるために始めたお土産戦争なのだ。

 そのお土産戦争に勝つためには、己を嫌う女帝に好かれなければならないなど、本末転倒でしかない。そんな卓越したコミュニケーション能力があれば初めから苦労はしないのだから。


『あの女に気に入られるとして、お主はあの女の好みを知っておるのか』

「んなもん知らん」

『ああ、終わったのじゃあ!』

「やかましい! だから今こうして途方に暮れているんだよ!」


 彼女はアナベル氏のガトーショコラを批評したように、味の好き嫌いがはっきりしている。

 有名菓子でもそのネームバリューに頼れない、だが私は彼女の嗜好が全くわからない。

 挙げ句の果てに、次のお土産戦争に向けた軍資金も底をついている。

 この現状をどうすべきか、わからない。

 次の手が全く思い浮かばないのだ。

 このままサークルを退会するその日を待つしかないのだろうか。

 八方塞がりになった私は、ついダンボールに突き刺さった自然薯の群れを見ながら唸る。

 ああ、自然薯のポタージュだって有栖川やイケメン天狗はうまいと言ってくれていたのに。


 ──自然薯のポタージュ?


「閃いた! 閃いたぞ、空中幼女! ここにきて私が勝つ方法が! お前にも協力してほしい!」

『な、なんじゃお主、人が変わったかのように……で妾の協力とは一体何をさせるつもりじゃ?』

「くくく、やはり私は天才、こんな妙案を瞬きの間に構築するとは!」

『おお、凛々しい顔をしておるのう! 本気というやつか? 覚醒というやつか? 神と触れあうに足る人間としての才能を遂に開花させる時なのかあ!?』


 目をキラキラさせている空中幼女に微笑むと、その瞳の輝きが増した。


「ああ、作戦を思いついたんだ」

『作戦とな!? そ、それは一体!?』

「いいか、相手の好みがわからないならこちらが用意したものを相手の好きにしてしまえばいいのだ」

『そんなことができるのか!?』


 こうも期待されては、血が沸き力も漲るというもの。

 その目に焼き付けるがいい、この花凪の才能を!


「無論だとも。今これより──」


 私があえてためた一呼吸の間に、幼女の神が鼻息荒く両手を握りしめた。


「──反逆のポタージュ作戦を開始する! 行くで空中幼女、反ポタや!」


 やっぱりこいつアホなのじゃと、ひっくり返った幼女が言った。


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