漆黒のラブデビル先輩
第六回お土産戦争に敗戦したその日の夜。
自宅アパートの一室で私はまだ大量に残っていた自然薯の群れを見ながらうんうんと唸っていた。
そろそろこの自然薯も消費しなければならないが、毎日がとろろご飯の私でも消費しきれていない。
期限が迫っている。持ってあと二週間だろう。
それに今日は余っているダン・アナベル氏のガトーショコラもある。
こちらは本日が消費期限だ。
「くそ、せっかくアナベル氏が特別に二つもホールで買わせてくれたのに!」
結局カカオまみれになったみんなは早々にチョコに飽き、乾き物を食べ始めたのでまるまる一ホール余ってしまった。
『辛気臭い顔をしておるのう。お主、もはや勝敗は決したのじゃから大人しくあの美男子に頭を下げればよかろう』
「そ、そんな情けない真似できるか!」
『ふん、どうせこのままじゃ勝てんのじゃろう? それにいいのか? 次に負ければあの場を去ることになり、お主の想い人にも永遠に会えなくなるのじゃぞ?』
「それはわかっているが……」
『そうなれば妾がお主に取り憑いた意味もなくなるのう。困ってしまうのう』
こいつ今、取り憑くって言ったぞ。
神のくせに。
『縁結びの力も、なぜかお主の想い人は通じん。これは憑く相手を間違えたかのう……』
困ったようにサークルから持ち出したチョコを食べている空中幼女だが、別にこいつが出費の原因になっているので今すぐ離れてもらっても構わない。
そもそもこいつの縁結びとやらの力がちゃんと機能していればイケメン天狗とお土産戦争をしなくても済んだのだ。
何度こいつに『ぱうわー』とやらを使わせても、花子は現れなかった。
空中幼女はすでに亡くなっているかもしれんと言ったが、イケメン天狗が会わせると言っていた以上、それはないはずだ。
それに例えばイケメン天狗とか、有栖川姫花とか、金髪貞子とか、他の面々にはその『ぱうわー』は通用したので、また迷惑な話だ。なぜか花子にだけ、その神通力は通用しない。
「はあ、本当に使えない幼女だ」
『んな! 妾のせいにするなあ! 謝れえ! 謝れえ!』
「こ、こらチョコまみれの手でまとわりつくな!? あと貴様、そんなもんよりガトーショコラをくえ!」
『妾が今食いたいのはナッツいりのチョコなのじゃ! 純チョコはもう飽きたのじゃ!』
「わがまま言うな! ちゃんと食べなさい! 消費期限が今日までなんだぞ!」
『嫌じゃあ! 貴様こそポチチをよこせ! のりしおをよこせえ!』
「チョコすら飽きたのか!?」
くだらないことを言い合いつつ、いつものように顔に張りつこうとする空中幼女と格闘していると、不意にガチャっと玄関の扉を開く音がした。
「──やあやあ、圭太。君はいつも一人なのに賑やかだね?」
鍵を閉め忘れた我が部屋に現れた突然の不法侵入者は、黒いライダースーツに身を包んだ黒髪の美女だった。
長い黒髪はうなじから一本にまとめられており、すっと背中まで垂れ下がっている。
黒い大きな瞳は相手を捕らえるような鋭さを秘めており、女武士と相対したかのような錯覚まで覚える程に凛としていた。
ライダーツースも似合うが、きっと胴衣姿も似合うお方だろう。
斬られたがる男性諸君が殺到し、きっと彼女の道場は繁盛することだろう。
それに一応、武術は嗜んでいるらしく見た目通りの強い女性なのは間違い無いのだろうが、金髪貞子のような人を威圧するような強さではなく、強かさの中にもミステリアスさを感じさせる不思議な女性だ。
「堂島先輩……」
名友会が誇る四大美女の一角にして、私の一学年上の先輩である堂島キララが、フルフェイスのヘルメットを片手に堂々と私の部屋に上がり込んできた。
「な、なんで私の部屋に」
「今宵の夜風は実に気持ちがいい。月のない空を見上げれば、広がる闇の帷はまるでチョコレートを思わせる。そう、それはまるで漆黒のガトーショコラのようだ」
「あんたそれが目的か!?」