特別任務
「で、その国の成り立ちと管理局の成り立ちがお願い事とどう繋がってくるんだ?」
アレイルの話に少し痺れを切らしたカズヤが言う。そうだね、とアレイルは返した。
「それで本題なんだけど、ガーデンの人々が寄り合って出来た国アルストロ、それを遠巻きに見ていた異世界人が何もしていなかったかといえばそうでもなく、彼らも彼らで寄り合いを作っていた。今では国として認知されてるだろう?」
ガーデンの住民がせっせと終末戦争に勤しんでいる間、すっかりシラケた異世界の住民達はというと各々特徴の似通った種族同士で集まっていた。そして、いよいよガーデンの住民も戦争をやめ、集まりだしたと同時に各々のグループは荒廃した国家跡地に拠点を構え、その規模を拡大していった。
元より彼ら特有の技術があった為に国家と呼べるほどの規模まで拡大するにはそう時間もかからず、気付けば異世界人が運営する国家が6つ出来上がっていた。
「機械の国マキナ、魔法の国マギア、疑似魔界ゲヘナ、妖精国ティル、能力者の国コンセック、戦士の国カムラン。君達にはその6箇所全部に赴いて欲しい」
本部の代表として、とアレイルは実に気楽にいった。
「コレに外交しろって?」
カズヤは絶賛二日酔いで死にそうな雇用主を指差し呆れたように言った。現存している異世界人の国全てを訪れろ、というのだからどうしても政治的な思惑が顔を出す。
しかし、その懸念とは裏腹にそれはないよ、とアレイルは言った。
「そこまで大々的な話でない。大体そんな高度な政治的交渉一切期待出来ないからね」
私の独断でも出来ないし、とアレイルは当然の事を伝えた。
「各国に支局っていうのは存在しているんだけど、その報告書の信憑性がどうにも怪しくてね」
そう言って困ったように頭を掻くアレイル。
「不正をしてるって事?」
カズヤが聞いた。そういうことじゃないよ、とアレイルは言った。
「我々の業務内容でそれをやったら信用問題さ。ただでさえ我々の立場は低い。すぐに抗議が来る。そうでなくて、どちらかといえば彼らに取り込まれているケがある。その確認だね」
ああ、と納得するカズヤ。このガーデンにおいて異世界人の文化、技術力の方が高い事は往々にしてあることだ。その為に支局員がそちらの生活に慣れて戻りたがらない、という事が多々発生していた。
「何処の世にも栄えている街に惹かれる者があるなんだなぁ」
ここ首都だが、と言うアオエにアレイルは苦笑した。
「だから各支局の勤務態度の抜き打ち監査ってところだね。ついでに実地調査。国々の現状を把握してきて欲しい」
「ついでの仕事じゃねぇな。後者はそれこそ外交官の仕事じゃ?」
「彼らもおんなじなんだよねぇ」
そう話すアレイルにカズヤは肩を竦めて見せた。
「だから、あらためて事実に基づいたガーデンの世情を再編したい、という点も大きい」
「それはまた大それた事業だこと。しかし、そんな大それた事業を何だって末端の末端の俺達にやらせられなきゃならんのよ?」
「1つに代表議会が乗り気でない。2つに彼らが赴いたところであんまり歓迎されない」
「その心は?」
「君の世界では軍事力やら経済力やらが外交的なパワーバランスを握っていなかった?」
「オッケー理解」
聞いた途端カズヤは納得した。
「召喚術を除けばガーデン最弱の国家は我々になる。この辺、資源はなければ立地は最悪。地図見たことある? 大陸があってそのど真ん中。しかも平地で遮るもの無し。挙句に各国に綺麗に囲まれてる。すり潰してください、と言わんばかりさ」
当時アルストロの前身である国家は、大陸のど真ん中に作られていた。多くの"召喚士"を抱え、同時に"異世界人"を内包していた。いち早く異世界人の技術を取り入れた為にその発展があったと言われている。
「幸いに軍事方面では物好きな人達がお気に入りの酒場がなくなると困る、の精神性で防衛部分を担ってくれてるからまだいいんだけどね。経済面じゃとんと絶望的さ」
特に"魔王城"とアレイルは言い、ああ、とアオエとカズヤも頷いた。戦力だけで言えばあの店内だけで一国分の戦力が整っている。
「唯一我々が異世界人に提供出来るものはそれこそ"召喚士"になる訳。これはこのガーデン唯一の技術であり、この世界で生きるうえでの生命線になる」
「なんか、スゲェマッチポンプ感」
呆れたように言うカズヤに対して、そうでもないさ、とアレイルは返した。
「喉元に刃物を突きつけられたままのマッチポンプなんて願い下げだよね」
そう言ってアレイルは肩を竦めた。
「もちろん、僕らがやったように無理矢理召喚士を拉致するという手もある。ただ、そうした場合には1対5 の戦況が出来上がる。仮にどこかとどこかが結託したとしても後に協力態勢を維持できるかは未知数だ。大体、他国同士の国力差じたいも不明瞭であり、一体どこが強くて弱いかなんて分かりゃしないだからこの世界は実に危ういバランスで成り立っている」
「いやしかし、どいつもこいつも自分のいたところで碌でもない目に合ってんだろう? なら、皆仲良く共同歩調でってならんのか?」
「それができれば我々も含めてそんな愚かな目にあ合ってないよ。知的生命体というものは思う程賢くはない。それはどの世界でも変わらないだろ?」
嫌になるね、アレイルの言葉を聞いたカズヤが心底うんざりしたように言った。
「そういう理由だから、よろしく」
「しかし室長殿。我々が支局員や外交官と同様にならないという保証は?」
アオエの話はもっともであった。同じガーデンの人間ならば過去の例と同じようミイラ取りがミイラになりかねないリスクがある。高いと言ってもいい。ましてやアオエ、カズヤはともに異世界人である。同様の異世界人が住む環境ならそちらに適応する方が自然だった。
それを踏まえアレイルは、それはないよ、と言い切った。
「彼が駄目なら他の誰でも一緒。カズヤ君に関してはそうしない理由があり、アオエ君に関してはそんな事さらさら思わないでしょ。大体、君は一国にとどまってられないさ」
それを聞いたアオエが口元をつり上げた。
「室長殿は昼行燈かと思えば狐狸の類であったか」
褒め言葉として受け取っておくよ、とアレイルはアオエに返した。
「アレイル室長。お話は分かりました。それ故に1つお話が有ります」
殆ど黙っていたケージが青い顔色のまま手を挙げる。何かな? とアレイルは聞いた。
「普通に嫌です」
ケージの言葉に左右の二人が呆れた表情をした。
「そう」
意外にもアレイルの態度はあっさりとしていた。聞いたケージの顔色が明るくなった。
「おや、いいので?」
少し驚いた様子でアオエは聞く。いいよ、とアレイルは笑う。
「お願いから業務命令になるだけだから」
ああ無情、と答えを聞いてアオエは苦笑し、再び顔色を青くしたケージだった。




