アルストロ
翌朝。アレイルの呼び出しで件の三人は室長室のにいた。デスクについているアレイルの前に三人は揃い、直立する2人とうってかわりケージのみが膝を曲げて猫背姿勢で、今にも倒れそうな様子だった。
「この世の終わりを迎えたような顔をしているね」
そんなケージの姿をみてアレイルが言った。
「今まさにこの世の終わりを迎えてます」
片手でこめかみを押さえたがケージは言った。昨日調子に乗って羽目を外し過ぎたおかげで絶賛地獄を見ていた。
吐くなら外でね、アレイルが困ったように眉を顰めた。
「ところで名文は仕上がったかい?」
「…………あー、はい。最高に素晴らしい、世界が感動する名文が」
こめかみを押さえていたケージは指を伸ばし敬礼してみせる。
「で、それは?」
聞かれてケージは自分の頭を指さしてみせた。それを見てアレイルは溜息をついた。
「ま、だろうと思ったよ」
呆れたように言ったアレイルに、恐縮です、肺から空気が漏れ出ているようなか細い声で言った。
「期日に始末書があがってこないことは今に始まったことじゃないしね。それよりも、君達に頼みたいことがあるんだ」
手を組んだアレイルが改まった様子で話し出す。
「頼みたいこと?」
カズヤが聞き返した。
「ところで、この国の歴史は知ってるかい?」
アレイルの脈絡のなさに困惑する三人。
「…………学校の授業程度なら」
「大まかなら」
「左2人目に同じく」
三者三様答える。よろしい、と短く言うとアレイルは語りだした。
「アルストロの成り立ちについて話をしようとすると、我々"召喚士"が"門番"やら"管理者"と呼ばれるようになった原因ともいうべき問題にも直結する。
この世界、ガーデンにおいて"召喚士"というのは君達二人"異邦人"、もしくは"異世界人"をこの世界に呼び出す能力の持ち主だった」
そうしてアレイルは管理局につながる召喚士とこの国の成り立ちについて語りだした。
「その技術は他世界の"魔法"、ないし"魔術"に類似しているが、魔法で括るけど、魔法では再現不可能、僕ら独自の能力だ。もっとも、僕らも魔法は使えないんだけどね。
で、そもそも僕ら"召喚士"が何をしてきたかといえば他国との戦争の為に"異世界人"を召喚してきた。ガーデンには世界を滅ぼそうとする"魔王"とそれを討ち果たさんとする"勇者"はいないからね。
言い方が悪いけど当時の"召喚士"は"異世界人"の事を兵器ないしは傭兵以上の価値は見出していなかった」
それは授業でやったなぁ、と頭の中を直接ぶっ叩かれているような痛みに襲われながら思ったケージ。
「"異世界人"を召喚した"召喚士"が何をするかといえばお願いするしかないんだよね。ガーデンの為に戦ってください、てね。召喚術に強制力やら拘束力なんてないから」
故のアオエとカズヤである。あくまで二人とは雇用契約であり、主従の関係ではないのだ。
「例えば、悪の帝国を倒そう! 正義の為に戦おう! とか圧政から民衆を救おう! など。響きのいい美辞麗句をのべつまくしたて"異世界人"をその気にさせる。面白いよね、他世界でも似たようなプロパガンダが存在するんだから」
アレイルの言葉にカズヤは肩を竦めた。
「まぁ、それが駄目なら土地やら金やら現実的な話を、時々想定外の存在が現れたら恐れ敬い奉ったり。一番酷いのは"元の世界に戻れる"なんて甘言でね。とんだ詐欺だ。我々は呼び出す事は出来ても元に戻す事はできない」
アレイルの言葉通りあくまで召喚士は召喚士なのである。異世界人を召喚することは出来ても、送還することは出来ない。
「国家間同士の戦争は苛烈を極めた。何せ強力な兵器が際限なく湧いてくるし、相手も未知の兵器を使ってくる。想像できる? 毎日敵も味方も強力な兵器をノーコストで生産し続ける世界」
頭痛と吐き気に襲われているケージは以前"魔王城"で出会った異世界人の、ガチャでやるタワーディフェンス、という言葉を思い出したが、実際今もその意味がよくわかっていない。
隣のカズヤはアレイルの言葉に思うことがあるのか、心底呆れた様子だった。
「結果、ガーデンは戦うことが目的みたいな終末的な思想に陥っていた。というか、いち早く相手を滅ぼさないと自分達が殺される、と疑心暗鬼になっていたんだよね。情勢は既に壊滅的な域に達していた。破滅は目前。しかし、その状況を打開したのは皮肉な事にに"異世界人"達だった。
シンプルに鉄砲玉にされる事を嫌った異世界人が大半だけれども、中には元々似たような世界から飛ばされてきた異世界人もいる。となると、この先のオチも必然見えてくる。しかも、自分とは関わり合いのない異世界で命をかける理由もない。冷静になって完全にシラケたんだろうね。次第に我々に味方する異世界人が減っていった」
当初、召喚士達やガーデンの人間の言葉を真に受け戦争に加担する異世界人は多かったという。しかし、年月が経つほどに戦争は終わる気配を見せず指導者達は高らかに継戦を謳うだけだった。異世界人達はその争い自体に正義を見出だせず、また、吊るされた報酬が手に入らないと悟るとその姿を消していった。
「今まで強力な兵器や魔法、戦士が闊歩していた戦場も、最終的には石や棍棒を持つものと純粋に殺しを愉しむ者だけが残った。ある意味で非現実にさらされていた我々は途端に現実に引き戻された。気付けばこの世界の人類は1 割をきり、異世界人の総数と同等になっていた」
実際、異世界人達が去った後の戦場というのはまるで街中での喧嘩か、人類黎明期の争いの場と何ら変わらなかったという。
どの国も戦うことは異世界人に丸投げして、自分達は高みの見物を決め込んでいた。襲撃も防衛も異世界人が担っていた為、ガーデンの住人はその術をすっかり失伝していたのだ。
結果、自分達で血を流すようになり初めて自分達の愚かさに気付いたのだという。
「当時の国々の代表は集まり現状の打開を模索し始めた。もちろん、恨み辛みが消えることはない。ただ絶滅が目前に迫ってようやく冷静になったんだろう。それらを一時的に飲み込んで世界の復興の名の旗の下、一致団結してこれにあたった。と、いうか最早一国一国の国力だけじゃ復興は無理だったんだ。
この世界の人々はその当時もっとも国力がある国に集まった。そして、この世界の復興を目指した。正直、その時に異世界人に強襲されなかったのは奇跡だと思うね。我々は恨まれても求められる存在では間違いなくなかった。彼らが本気を出せば三日とかからず我々はこの世から消えていただろう。しかし、それをしなかった。同情か呆れか憐憫か、兎に角、異世界人は我々の復興を遠巻きに見ていた。それが結果として両者の功を奏した話は後ほど」
復興のさなかでも人々の小競り合いは耐えなかった。人々の恨みはそうそうなくならない。しかし、以前のように異世界人を召喚しての大規模な争い事はなかった。我々の中にも厭戦的な気分が浸透していたんだろうね。結果、お世辞にも順当にとは言わなかったこの世界の大事業も紆余曲折を経て達成、そうして誕生したのが今我々の住むこの国、人間の愚劣と蒙昧の象徴であるアルストロであったとさ」
以上建国編、とアレイルは語ったのだった。




