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My magic

作者: 笹沢 莉瑠

 雨が、降る。

 遠い遠い記憶に私は浸っていく。本当に時間はあっという間に、過ぎてしまう。

 たとえ長い長い千年でも、わずかな一秒だとしても――――。


 朝。いつもと同じ朝に私は覚醒する。

 覚醒とは、目が覚めるという意味もあるけど、それは睡眠によってまどろんでいた力が目覚めるという 意味も含まれている。


 私は魔法使いだ。

 そうとはいってもただの女の子に魔法が使えるだけ。ほかは大して変わらない。

 だって皆、なにかしら魔法は使えるんだから。


「和音? はやくいらっしゃい」

 お母さんの声が聞こえる。私は適当に返事をすると、身支度を整えた。今日は学校がある。

 自分の部屋から出てリビングに行くと、テーブルには湯気の立つ朝食が並べてある。



 朝食を済ませて鞄を手に持った。玄関までくるとお母さんに呼びかける。

「お母さん! じゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい」

 と少し小さい声が聞こえたのを確かめると、ドアを開けた。


 私は靴をちゃんと履きなおすと、ポストが目に入った。少し気になったのでポストのふたを開けてみた。

 手紙が一通来ていた。その手紙を手に取ると、不思議な感触がする。


 なんだろう? なんかカエルのぷよぷよしてる皮を、乾かして干したみたいな感触・・・?


 えっ!? カエルはいやだな。


 その封筒には、妙に擦れたっぽい文字で宛名が書かれている。

  “清野 和音 様”

 私宛てだ。誰からだろう?

 封筒を裏返すと、送り主が書かれている。

  “マンドル魔法塾 設立者 ユン・R・トレーニ”


 魔法塾? なにそれ?



 もう思い出したくなかった。

 もう、いい。災厄のモトなんて思い出さなければよかった。


 すこし吐き気がする。といっても、胃の中には吐き出せるようなものは入っていない。

 私は深呼吸して落ち着こうとした。


「大丈夫か? 和音」

 声をかけてくれたのは私と共に戦ってくれる、九元 空だ。

「うん・・・、ちょっと災厄の材料モトを思い出しちゃってね」


「やれるのか?」

 彼は無口だ。だけど本当は心優しい人だ。

 さりげない心配が嬉しいと同時に、悔しい。


 空は強いし、優しくてとても大きい。

 だけど私は臆病だし、弱くてちっぽけだ。

 もっと大きく、強く、心広くありたい。切々にそう思った。


「足手まといにならないように頑張る」

 雨の音にかき消されないように、自分に言い聞かせるように、はっきりと言った。

「そうか」

 すごい豪雨だ。そのお陰で、今は少しだけ休める。少しだけだけど、目の前が真っ赤に染まる、そんな醜い争いから離れることが出来――。




「和音! 和音!」

「う・・・ん、そら?」

 あれ、私どうしたの? なにかあったの?


 私は雨とは呼べないの天気の中、立っていた。ただどうするでもなく、手をぶらんと下げてぼんやりと立っていた。

 だけど、私の眼前はものすごい砂嵐でも起きたかのような有様だった。そこだけ乾いて砂埃が今ももうもうと立っている。そして引きちぎれた布が点々と。


「ねえ、何があったの?」

「これが、覚醒か。お前も・・・塾に狙われるだけある」

 空が意味の分からないことをいう。ねえ、私どうしちゃったの?



 引きつったように無表情な和音の顔をみる。緊張しているのだろう。

 だが、もう行かなくてはならない。奴らがやってきた。まだ激しい雨が降り続けている。

「和音、行くぞ」

 和音はコクリとそのままの顔で頷いた。

「奴らは諦めが悪いからな」

 俺は誰とにでもなく呟くが、雨の音で掻き消えた。


 屋根がないところに出た途端、重い雨粒に肩を打たれる。

雨変晴化サニーディック

 俺が変化する魔法をかけると、雨はそれほど強くなくなった。だが、雨はまだ降っていた。

 きっとこの雨は、塾の奴らによるものだ。


 俺と和音が少し開けた所に出て行くと、漆黒の濡れていないローブを被った集団が俺達の眼前に現れる。見たところ、二、三十人はいる。

「やあやあ! 我らが同志、ご機嫌いかがかね」

 その集団から一人の、けばけばしい色のマントを身につけた魔法使いが現れる。雨や距離のせいで、聞こえにくいはずの声がはっきりと聞こえた。

 たぶん強化する魔法を自分の喉や声帯にかけているのだろう。


「同志、とは誰の事だ? 俺達はあんたらに従うつもりなんてない!」

 俺は負けじと叫んだ。うえっ、もともと声を出さない性格だから声がからからだ。

「我が塾に入れば最高のもてなしを受けられるというのに?」

 最高のもてなし? 全く持って白々しい。裏を見せておきながら、表を取り繕うことなんてできるはずがない。


 うざい。本気で心から思った。すると自然に刀の柄に、自分の手が置かれていた。

 魔法使いは俺の行動が見えたんだろう。わざとらしいため息をついて片手をあげた。

「はあ。無理矢理やるのはわたしの本意ではないんだがね。しかたがない、我がしもべよ我が内なる命に応えよ」

 最後の言葉と共に魔法使いは、上げていた手を振り下ろした。それと共に、ローブの集団がこちらへ猛スピードで迫りくる!


 俺が刀を鞘から抜こうとすると、不可思議な声が聞こえた。

『クゲン ソラヨ、ワラワニ任セテハクレヌカ?』

 それはほかでもない和音の声。だけど情というものがない機械音だ。人間味のないただの音。

 そしてその声に従わなくてはならないという、絶対強制が起きる。

 ぎこちなく無言のまま俺が頷くと、和音が前に進み出る。その動きさえ、近代のロボットのようだった。


砂発嵐生サンドローネ! 消湿滅水レニーレード!』

 和音はローブの集団を殲滅するため、魔法の力を呼び覚ます。自然と和音の腕が天へ伸びていく。

 魔法の力は砂嵐を起こして、湿気などを消滅させた。

 普通なら、逆にやるはずだ。そのほうが魔力の消費が少ないからだ。

 でも、こうする事によって相手にプレッシャーをかけることが出来る。


 両腕を天に向かって伸ばす和音の姿が、どこかの勝利の女神に見えた。

 『消湿滅水』によって雨が消えると同時に、乾いた砂塵が舞い上がり天まで届きそうな柱を形作る。

 砂の柱はどんどんと太くなり、ローブの集団は急に止まろうとするがそれは叶わない。風圧の強い砂嵐に巻き込まれ、ただのローブと化した。

 ――これが、清野和音、本来の姿。


 これは、どこの魔法関連企業や国家が、喉から手が出るほど欲しいモノ。

 俺の微弱な流儀なんぞ、足元にも及ばない。

 俺がこれほど、己の未熟さ・・・いや才能の格差を感じたことはない。

 俺が和音を守るなど・・・逆に守られてどうする。


 和音が起こした巨大な砂嵐によって、ローブ集団の殲滅はとどこおりなく行われた。

「ふむ、またいいデータが取れた。我が同志、今回はそれに免じて引き上げましょう」

 あのマントを身につけた魔法使いが高飛車にいった。

「ですが同志、あなた方は既に我らの手の内ですよ」

 真っ赤な口をにんまりと吊り上げた魔法使いは、ポツリとしか降らない雨粒と共に去っていった。


 どうしたのだろう。

 さきほどまでは、否が応でも感じた機械的な気配がなくなっていた。

 俺が和音の元に駆け寄ると、和音は虚ろな目でただ立っていた。


「和音! 和音!」

 俺が名前を何度か呼ぶと、寝起きのように目をぱちくりさせるいつもの和音だ。

「う・・・ん、そら?」

 俺は先程までとは全然違う和音にほっとしながらも、呆れていた。

「ねえ、何があったの?」

 気づかないのかよ、魔力が消費されてる事に。

 ――――覚醒、か。天武の才能が眠る者が、一時その才能を呼び覚ます。

「これが、覚醒か。お前も・・・塾に狙われるだけある」


 俺がいったことにきょとんとする和音を見ると、いつものような生活に戻ったような錯覚が起きる。

 だが、もう俺達にいつもどおりの生活は戻ってこない。

 魔法というものが朽ちるまで――――――。








最後までお読み頂き、有り難う御座いました。

誤字脱字等、わからない点などありましたら、ご指摘願えますと作者の励み(?)にもなりますので宜しく御願いします。

興味などありましたら作者のほかの作品も、お読みいただけると少し共通点がありますので、探してみてはいかがでしょうか。


7/1

いろいろと改稿しました。

では、またの機会に。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  魔法についての描写が、丁寧かつ迫力があると思います。 [気になる点]  全体に、設定に関する描写・説明が不足しているように感じます。「塾」とは結局どういう組織なのか、空の言う塾の「表と裏…
[良い点] 魔術を日常で使う視点はよくかけている。 [気になる点] 使う魔法がいきなり強力すぎて おそらく世界が存続できない。 だから、架空の世界の話になってしまう。 (現実感がない) [一言] 短編…
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