ダメ男彼氏と観覧車
私の彼氏は少しおかしい。
普段から思っている事だけど、今日は一際磨きがかかっている。
だって、折角の遊園地デートの最中なのに――
「ねぇ、次は観覧車に乗ろうよ?」
私の誘いに、彼は全力で首を左右に振った。
絶叫系は大丈夫だったから、高所恐怖症という訳では無さそう。
じゃあ、なんで?
そんな私の疑問に、彼は青ざめながら言ったのだ。
「だって、あれ……でっかいあれだよ!」
あれってなんだよ?
最初のあれは、観覧車の事というのは分かる。
じゃあ、もう一つのあれは?
「あれってなに?」
聞かないほうがいい。
そんな予感はあったけど、聞いてしまった。
案の定、この後げんなりする事になるんだけど……。
「パンジャンドラム!」
「はい?」
つい、聞き返すような「はい?」を口に出してしまった。
全くこれっぽっちも、そんな意図は無かったのに。
しかし、手遅れだった。
彼は、本当にどうでもいい事を口走り始めたのだから。
「自走式の車輪型爆雷だよ! 第二次大戦中にイギリスで開発が行われてたけど、中止されちゃったんだ。でもね、凄く面白いアイデアでね、なんと……ロケット推進力を車輪の回転に使おうとしたんだ! 普通なら、空を飛ばすためにつかうべき物をだよ?」
捲し立てられるも、ほとんどが右から左へ抜けていく。
だから、私は聞いたのだった。
「簡潔に言うと?」
「珍兵器!」
ほらね、やっぱりおかしい。
その珍兵器がどんな物かは知らないけど、絶対まともな物だとは思えない。
それを観覧車と結び付けるのだから、今日も絶好調のようだ。
「それで……珍兵器と似てるのと、恐がるの。関係ある?」
「あるある」
「なにさ?」
「あれって、ロケット搭載してるんでしょ?」
観覧車と珍兵器、=で結ばないで欲しい!
どこの世界に、観覧車を絶叫系に魔改造する馬鹿がいるのよ!
「そんな訳無いでしょ!」
「えっ、でも……」
「黙ってついてくる。いいわね?」
「はい……」
彼を伴って、観覧車へと乗り込む。
係員さんが扉を閉め、笑顔で送り出してくれた。
いや、苦笑だったかも……?
だって、彼は私の腕にしがみつき、小刻みに震えているのだから。
「ロケットも爆発も無いわよ……」
そう言いながら、彼の頭を優しく撫でた。
すると、彼は半泣きのような顔で私を見上げ、こう言う。
「本当に?」
顔だけでなく、声も泣きそう。
なので、まるで子供をなだめるように、優しく返す。
「本当よ」
彼は笑顔を浮かべた。
ああ、この笑顔に何度騙されるんだろう?