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"Or Are They Ephemeral In The End?" _ 眠れる興奮

※後章の前日談的な日常回詰め合わせ。1話3000~5000字くらいの全6回予定。

※天気模様は概ね、晴れ時々曇り。スナック感覚的な軽いお話。

・・・





 刺戟。しげき。

 すなわち反応を起こさせるアクション。


 そのリアクション。ボケに対するツッコミのような、反射的なふるまい。


 そんなツッコミ技術を関西人としてもっと身に付けたいなと内心思っていたり。

 いや、刺戟というからには与える側だし、ボケも磨かなといかんか……?


 ……こんど後輩にボケ倒してみよか。




 四国の第十一部隊。

 内海と外海に囲まれて少し特殊な環境にあるこの部隊。

 その役割もやっぱり少し特殊。


 他の後方支援部隊とは違い、医療専門の部隊にあたる。

 だがここで治療するのは主に身体的なものではなく精神的なもの。

 ぶっちゃけて言えば精神病棟のようなもの。

 いや、本物の精神病棟がどんな感じかよくわからんけど。


 まーでもイメージ的にそんなんだからか陰気なやつばっか、とか言われることも多いんよな……。

 そういうやつらを治療するための部隊なんやし、そんな当たらず遠からずやし、しゃーなしなんやけどなぁ……。


 医療現場は基本的にいつだってハードワーク。当直もあれば夜勤もある。

 ご多分に漏れずここも超絶に忙しいので、まとまった休みはほとんどない。


 ないのだけど、不定期ながらもポツリポツリとそれなりに休みはあったりもする。

 特にうちらは未成年だからか、多めに休みをもらえてるように思うんやけど……。


 決まった日の休みじゃないってのが玉にキズというか、なかなか予定も立てられんのよな……。

 あと呼び出されたら戻るしかない、実際は任意協力要請だけどまず断れない、そんな感じだからそもそも完全休日ってのも実質存在しないっていう問題。


 まぁそれでも呼ばれなければ仕事じゃない、のだから休みには違いない。


 で、久々の休みなわけなんやけどなぁ。

 呼び出しを考えると遠出もできないけど、せっかくだしちょっとした近所への外出をしようかなぁと。


 そう思ってもあまり誘える相手がいない件。

 仕事じゃないのは患者か、患者を気にして大人しくしてるやつばかり。


 となるとまー、あいつしかおらんわけで。

 すぐ隣の隊舎へといま歩いてる最中。そして到着。


 ノックノック即ガチャン、と。

 アポ取ってるのでカギは掛かってない模様。なので勝手に開けて入る。



「邪魔するでー」



「邪魔するなら帰ってー」

「あいよー」



 そのままきびすを返す……って、なんでやねん。



「……うわ、戻ってきた」

「戻るにきまっとるやろアホウ」



 そこにいるのは気だるげな雰囲気の後輩。

 小さくて大人しそうな割に結構トゲのある強いやつ。


 この後輩は『鎮静』の魔法少女だ。

 そして自分は『刺戟』の魔法少女。


 二人で精神を落ち着かせたり刺戟したりする魔法を使い、この部隊で患者たちの治療を手助けしている。


 まー実際はどちらも精神ってか肉体の、なんかこう、魔力的な作用でホルモンやらなんやらがどーのこーのって部隊のお医者様が言ってたけど詳しくは知らん。

 別にわからんでも使えるし、困るもんでもないし。もんもんほるもん。っとな。


 ほるもん。


 ……。



「そんなわけでホルモン鍋でも食いに行こや」

「は?」


「飯いくでー」

「いやいや、そういうわけってどういうわけ……?」



 どういうわけもそういうわけ。細かいことは気にしたらあかんよ。


 ともあれ似たもの魔法なうちらは基本セットで運用されている。

 なので休みということはこの後輩も休み。暇ならこの後輩も自動的に暇って算段。



「どうせ暇やろ?」

「いや暇だけどさぁ……ホンっとこの先輩は……」



 といいつつ、いそいそ準備し始める。というか割とすでに準備万端。

 小動物的な雰囲気も相まってほんまに可愛らしいやつやな。

 まー内面はそう可愛らしくもないんだけど。



 この後輩、実態は内罰的なバーサーカーなのだから。



 痛覚という刺戟も、恐怖という感情も、生命の防衛本能。

 それを鎮静して、無視して戦おうとするやつなんか、命がいくらあっても足らん。


 お偉いさんの考えてることはよくわからんけど、この後輩がこの部隊に来たのは色んな意味で適材適所だったのかもしれない。

 というよりほかが不適材不適所だったというか。しゃーなしってやつ。


 ほんと逆やもんな。

 自分はいつもいつも怖くてしゃーない。夢にまで見て夜も眠れない。


 後輩が来て、仕事でも休みでもこの後輩に会うようになって、ようやく薬を使わずに眠れるようになった。

 だから後輩には感謝してる。ほんまやで?


 そんで後輩も後輩で、ほっとくと一人でどんどん沈んでいくからこっそりちょくちょく刺戟してる。

 別に無くてもすぐどうもこうもなったりはしないんだろうけど、何もしないのも見てて心苦しいというか。


 そんな、家族でもなく、友人とは呼べないような、少し離れた関係。

 先輩と後輩。職場の仲間。だけどこれくらいの距離感が一番いいのかもしれんよな。


 よくわからんけど。




「あ。どうせならあの子も誘っとこ?」

「なんや?」



 あの子?




 なんやよくわからんけど。


 隊舎から出る道中、後輩が一人の魔法少女を連れてきた。……うん?




「……あ、どもっス」

「ま、部隊に戻る前の快復祝いってやつね」



 ?


 ん、あー。なるほどなぁ。


 この子は前線から精神的負傷でここにやってきた魔法少女。

 所属は第五部隊で、持ってる魔法は『構築』、だったやろか?


 それだけなら珍しくもなんともないのだけど、中々よくならなかったのだ。

 これまで絶大な効果を発揮してきた、お医者様監督によるうちらの魔法による効率的な曝露や認知処理もそこまで効果的ではなかった。



 というより、そもそも原因不明。()()()()()()()()()()()


 もちろん魔獣との戦闘は日常茶飯事。

 一応それが原因と考えられてるが……可能性は低いとも思われてる。


 ただいきなり、赤い物、特に赤い液体がトラウマになった。



 とはいえ断片的健忘というのも珍しい話ではない。根気強くやるのみ。

 魔法少女は数が限られてて、この子はその中でも戦える魔法少女なのだから。

 使えるように直さなければならない。それがこの部隊の方針なのだから。


 とか思って、こりゃ長期戦やろなと考えてたわけだけども。

 それがこれまた急に回復傾向を迎え、そのまま本人の希望もあり前線に戻る運びとなったわけで。


 ……いやよくわからん。どういうことやねん。



「いやぁ、お世話になったっス」

「よかったじゃん。戻るのはまだ少し先だけどね」



 刺戟を受ければ反応する。感情も反応の一種。

 それを紐解けば、ほんの少しだけ、心がわかる。


 だからわかってしまう。後輩は少しだけ複雑な思いであの子を見ている。

 それを沈めている。無理やり、無意識のうちに。


 嫉妬と憐憫と罪悪感と無力感。すべてがブレンドされた責任感。


 この後輩は自分を無責任というけど、そんなことはない。

 そう思わないとやってけないってだけ。


 自分とはぜんぜん違う。自分はただの臆病者の卑怯者なのだから。

 強く振舞うことしかできない、甘ったれのハリボテに過ぎない。



 違うんか?

 違わないやろ?



 ……よくわからんけど、な。




「……」


「先輩?」

「ん? あー、なんでもないで」



 第五の隊員の子が出かける準備のために部屋に戻りしばしの待機中。

 ボーっとしてた後輩が振り返って訪ねてくる。


 なんていうか……よくわからんけど、あきれ顔な、したり顔。



「……ふぅ。今更ですよ先輩」

「……」



 そうして、心を読めるわけでもないくせに。サラッと心を撫でてくる。

 少しだけザラついた心を静めるように。



「……」

「……今更やなぁ」


「てか今更なんだからーって前に先輩が言ったんじゃん。無責任」

「ははっ。まー、うちら無責任シスターズやからな」



 反射的に言葉を返すと後輩が軽く笑った。

 お、ウケたか……?



「そう! 私たちは無責任シスターズ!」

「お、なんやなんや」


「今日も無責任に魔法少女を癒してお帰りいただくよ!」

「……おう、そやな!」




 それが()()()にしかできない()()()だけの役割なのだから。


 せめて悔いを残さないようにやっていくしかない。

 だから無責任にガンバっていくのだ。




「それじゃ今日はさしずめ、隊員の退院祝いってやつやんな! こりゃ傑作やで!!」



「……」

「……」


「……」

「……?」


「先輩」

「……なんや」



「それ普通におもんないですよ」

「……すまん」




 こわ。

 ふだん標準語しか喋らない関西出身の後輩がたまにちょっぴりこわい件。


 これうちが悪かったんか……?





・・・

次回<無重力の火>

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