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- Calculated Reaction - _ 救いの識別

・・・




 『(Identifi)(cation)




・・・





 ……まぁ、なんていうか?


 本当に私のやってること意味あるのかなって、たまに思うわけ。

 たまにっていうか、定期的にっていうか。


 私の力は見ることと覚えること。

 だけど考えることはそんなに得意じゃない。

 だからそんなこと考えること自体、何の意味もないのかもしれない。


 でも、ふとした拍子に頭をよぎったりする。


 私は何のために魔法少女やってるんだろって。


 もちろん表向きの意味はあるんだよね。

 与えられた役割が、立派に存在しているんだから。


 関東にある対魔獣組織広報担当、第十五および第十六部隊。


 分類としては後方支援部隊。

 だけどやってることは直接的な前線支援ではなく、外に向けての情報操作。

 関東方面には他にも後方支援部隊がある。

 だからこそ可能な、情報戦特化の部隊。


 第十六部隊がデータ収集と分類をする

 第十五部隊が膨大なデータを分析する。


 そして私はそのための魔法に覚醒し、第十六部隊に配属された。




 そう。私は『識別』の魔法少女。


 人類の敵と味方を区別し、認識する者。




 ……なーんてね。


 ぶっちゃけ私の仕事なんか大したことないんだよね。

 仕事も最初は魔法少女の魔力測定と魔獣区分の判定を補完してたくらいしかなかったし。


 魔獣の強さは魔法少女が見れば、その魔力の強さから大体わかる。

 魔法少女の強さも、魔法少女が見れば大体わかる。

 だから、いたら便利だけどいなくてもいい。


 というかはっきりいって、えらい人から見ればそんなの大体で構わないってね。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、何とも度し難いっていうかね。

 強そうな敵は、そのまま強そうという評価のままであるべきってね。


 強い魔法少女なら目測を大きく誤ることもない。

 だから私の魔法には大して意味なんかなかったってわけ。


 まぁそんなわけで、なりゆきとしてはバカバカしいのだけど。

 どのみち私は前線に行けない魔法少女としての落第生だったわけで。


 魔法のおかげで物覚えは良いけど、魔法のせいで忘れるべきことを見逃せない。

 魔法があるから見えちゃいけないものも見えてしまって、それを誤魔化すことも下手くそ。


 敵をバリバリ倒すべき魔法少女にふさわしくない私は結局、事務方としても役に立たずだったんだよね。

 まぁそんなこんな、何だかんだあって閑職に飛ばされちゃったってわけ。



 それが今の仕事。十五部隊と十六部隊から人員を出し合って大衆向けに情報発信をする、広報担当。

 そこの顔となる広報担当魔法少女。


 いてもいなくても戦況には大して影響もない、批判の矢面そのものな、お飾りの広告塔。


 というか前任者がいなくなってからはしばらく空席だったので、文字通りいなくても良かった存在なんだよね。


 人数の限られた貴重な魔法少女を、こんな役に立たないことに使ってしまう。

 それは逆に言えば、この魔法少女がそれほどまでに役に立たないってこと。


 カメラの前で手を振ったりポーズをとったり。

 敵もいないのに魔力衣装をまとったり、我ながら役に立たない弱い魔力弾を出したりしてそれを撮影されたり。


 テレビではニコニコひな壇に座り、決められた通りのタイミングで決められた通りのセリフを台本通りにしゃべるだけ。

 一人の時もあれば、たまにどっかのコンパニオンガールみたいにおえらいおじさんの横に立ったり座ったりもあったり。

 そしていつも通り、カメラに抜かれるタイミングでニコっと微笑む。




 ……あーあ。

 ほんと、なーんの意味もない。これ、私いる意味あんの?

 これって私じゃなきゃだめなの?



 そんなこと思いながら、前線で戦ってる人たちを尻目にダラダラと安全な仕事をしてお給料をもらう。

 手当こそ違うものの、命を懸けてる他の人たちと同じようなお給料を。


 いや、仕事といえるのかなこれ。なんていうか仕事っていうのも失礼な気がする。普通に失礼でしょ。

 実際やってる私ですらそう思うのだから、世間の声もそれなりに厳しかったりして。

 ことあるごとに税金ドロボーだとかなんとか言われたり言われなかったり。


 まぁでもそんなこと言われたって私にはどうしようもないし?

 私にはできること、他には無いわけだし。どうにもならない。


 誰に何と言われようと、別に私は変わりっこない。

 私自身、現状を憂いてどうこうってしようと思ったりもしない。

 どうせやる意味もないんだから。


 こんな世界、どうせどうにもならない。


 毎日毎日、意味わかんない似たような仕事を文句も言わずにこなしてって。

 たぶん私の役割ってずっとこんな感じのまま終わるのかなーって思ってた。


 まぁ案外、慣れてしまえば意外とそんな悪くないし。

 私みたいなのでも、ファンっていう人ができて応援してくれたりするし。

 私って魔法少女オタクだったから、広報取材としていろんな魔法少女に会えるのも役得だったし。


 ただ機械的に、何も考えず、毎日をルーティンのように繰り返す。

 別に何の苦痛も感じない。


 そう、別に悪くない。

 だから何も変わらなくても、大丈夫だって。





 そんな日々が、あるときを境に大きく変わった。


 あの子が、仕事仲間になったとき。


 第十五部隊から広報担当に一人、魔法少女が飛ばされてきた。

 いや、飛んできた、というべきなんだろか。



 第十六部隊所属、『計算』の魔法少女。



 なんでこんなところに来たんだろうなって最初に思った。


 第一印象は、とっても世渡り上手な感じの、笑顔が可愛らしい女の子。

 誰にでも優しく、誰からも好かれるような、まさにアイドルのような子。

 私と同じく戦いの役に立たない固有魔法持ちで、裏方に回された子。

 ちょっとドジで微妙な失敗が多くて、事務の仕事ができないと思われてた子。

 だけど私よりもずっと広報の顔に相応しい、完璧な好感度を稼ぐ女の子。


 だけどなんとなく。


 なんとなーくだけど、違和感があった。




 私は見たものを忘れない。見れば見るほどその人の情報を蓄積する。

 パズルのピースが集まるように、その人が何かを見定めてしまう。

 魂を覗くように深くまで、知り得ないことすら分かってしまう。


――『(Identifi)(cation)


 また、余計な事に気づいてしまったのかもしれないって。

 だけど気づいてしまったら気にせずにはいられなくって。

 ほんと私ってアホだなぁと思いつつも、聞いてしまった。




「『(Calcu)(lation)』……誤算。上方修正」




 私の世界を変えてしまう大きな扉を、開いてしまった。







・・・






 


 私を共犯に巻き込んできた『計算』の魔法少女。


 認識阻害で名前はわからないから、魔法名からとりあえずカルちゃんと呼んでみたら、私のこともアイちゃんと呼ばれるようになった。

 魔力適合してから学校いってないからあんまり経験ないけど、なんかニックネームで呼び合う友達みたいな感じ。少しだけ昔を思い出してこそばゆい。


 ってなことをそれとなくカルちゃんに言ったら

「……。単純……これはただのミラーリングに過ぎない……」

 ってバカにされたんだけど。まぁ実際バカだけどさ……。


 カルちゃんはいわゆる猫かぶりだ。計算高い小悪魔、といった感じ。

 私相手に猫かぶっても意味ないと理解してからはすごく辛辣になって、小悪魔というか大悪魔になったけど。


 広報に来た目的は、対魔獣組織の総本部、第一部隊に接触するため。

 滅多に表に出ない魔法少女の最上位、『執行』を見極めるため。


 究極に正しい計算は未来を見る。でもそれは正しい情報があってこそ。

 情報が不十分だと計算は失敗する。だから情報を集めに来た。

 って言ってた。


 最初の完璧な広報的アイドルキャラもそんなために振舞ってたみたい。

 まぁ完璧だったかもだけど……内面を知っちゃったら全然似合ってないよね……。


 カルちゃんが計算する未来は、いつも悲観的だったらしい。

 限られた情報からじゃ最大限の楽観的シナリオでも、最低のエンディングしか見いだせない。


 カルちゃんはダウナーな雰囲気ながら意外にもハッピーエンドが好きで、バッドエンドは許せないタイプ。

 ずーっと考えてて、このどうにもならないような世界を変えようと本気で計算してる。

 だけど、情報が足りなくて困ってる。計算するための情報を引き出すための計算をしなきゃいけない。

 それは、はた目から見たら必死に空回りをしてるようにも見える。



 なんか、私とは正反対だなって。


 私は全然考えないのに、勝手に知ってしまう。

 識るべきでないことを、どんどん覚えてしまう。

 使い道のない情報が、意味もなく溜まっていく。

 でも私にはどうしようもない。だから何もしない。


 役立たずの欠陥品。ただ見てただ覚えるだけの無能な機械。

 私がそう定義し、私のラベルに書いた。


 それをバカにして、冷笑しながら剥がしたのが、カルちゃんだった。

 二人なら変えられないものを変えられる。なんて言って。


 ほんと、なんていうか。

 カルちゃんってば計算高いリアリストのフリしたロマンチスト。

 私のことをバカにするけど、実はカルちゃんもだいぶバカじゃないかと思う。

 何気にゲームオタクだし。まぁ私もだけど。




 そして、いろいろなことが急激に動き出した。


 周りの大人やほかの職員の人が驚くのも無視して、まずカルちゃんは猫かぶりを放り捨てた。

 それから、裏に表にとカルちゃんは私を連れまわしまくった。私たちが情報の発信源となれるよう掛け合うために。


 情報を、反応を引き出すための計算された問いかけ。私はそれを蓄積し、識別する。

 いわば記録付きのウソ発見器のようなもの。つじつまが合わなければすぐわかる。不要な社交辞令をすぐ切り捨てられる。

 私の情報をもとに、計算された行動が繰り返される。最善の結果のために、最短で最速の環境構築がなされる。



 そしていつの間にか私は……私たちは内外に向けたイメージ戦略をコントロールする立場に立っていた。



 いや、え、これどういうことなの……?





・・・





 実のところ私ってば結構すごいらしい。


 例えばなんだけど。

 オタクなら誰しもやってるだろう推しコンテンツのTier表とか、私も実はこっそり作ってたりして……。

 えっと、そう、魔法少女の最強ランキングとか……。魔獣の区分はあるしそれをもとにして、この人この辺かなぁとか……。

 いや、普通やるよね? でもこんなの絶対表に出せない。普通に考えて失礼すぎるし……。


 いやまぁ、ネットの海では探せば前からそういうのいくらでもあったりしたけど、それを公式の立場にいる私がやったらさすがにダメだろうと。


 とか思ってたのに。




 カルちゃん「出せ」

 私「はい……」




 カルちゃんに世間話でちょっと話したら、あれよあれよとこんな感じで、なんか、無理やり出されちゃいました。しにたい。


 絶対やばい。私の立場で、こんなオタクノリの勝手なラベリングしたら絶対えげつないクレーム入るに決まってる。

 むしろ当事者の人たちとかから殺される(比喩的にも、下手したらガチでも死ぬ)んじゃないかとビクビクしてたんだけど……。


 ……あれから五年くらい?

 なんか普通に受け入れられてるよね。なんで?


 なんなら対魔獣組織の人たちも普通に使ってる。いや、ありえんでしょ……。


 不思議に思って聞くところによると、もともと前線部隊では魔獣等級に対する何々相当の隊員っていう、何となくの指標を付けてたみたい。

 私の黒歴史ノートにあった魔法少女等級(笑)は私の魔法特性も相まってかなり正確らしく、じゃあこれでいいじゃんと。


 まぁさすがにおえらいさんたちの反発は多少あったらしい。

 でも対魔獣組織を動かしてるのは魔法少女なので禁止するまでには至らなかったというか。


 これは一例だけど、私が勝手に魔法とかで集めてた情報は、実は宝の山だったってわけ。


 私を利用して、カルちゃんはいろんなことを表でも裏でも動かした。

 計算して、理想の未来を作ろうとした。


 それは傲慢だけど、決して私たちに悪いものじゃない。

 私たちが魔法少女のイメージを変え、魔法少女は昔よりずっと身近な存在になった。

 魔力により物理的に、認識阻害により精神的に、普通の人と一線を引かれた私たち。

 それを、昔と違った形で近づけた。


 傷つく人、傷つけられる人も増えたかもしれない。

 傷つける人も……もともとそういう人だったかもしれないけど、増えたかもしれない。

 だけど、お互いの疲弊した空気感は確実に薄らいだ。より良い形に、近づいているんだって。



 救いを感じさせない日常を、本当の平和と呼ぶ。

 カルちゃんはそう言ったから。私もそうだなって思ったから。



 少しずつ、確実に。上手く進んでいるって。

 そう思った。思ってたのに。




 ……私は気づいてはいけないことに、また、気づいてしまった。

 私はそれを、伝えてしまった。




 偶然。ずっと会ってなかった相手との、偶発的な対面。

 もしかしたら、それは計算されてたのかもしれないけど。

 私は、計算された通りの識別をしてしまったのかも、しれないけど。



 気づいてしまった。今の『執行』は偽物だと。

 魔法による、影武者なのだと。



 しばらく前から、カルちゃんの調子は悪かった。考え事ばかりしていた。

 そしてその私の言葉は、致命的に背を押したのかもしれない。


 以前初めて『執行』に会った時のカルちゃんは、傍目から見ても静かに興奮してた。

 だけどあの時とは違った意味で……この時のカルちゃんは何も計算されていない反応を見せた。


 今にも死にそうな、絶望的な表情を。




 いったい何があったのかはわからない。

 カルちゃんは同じ関東にある第十四部隊へと、療養送りになった。


 所詮、私たちは仕事上の関係だったから。

 私が考えても仕方ない。だけど考えてしまう。


 もしかしたら、折れてしまったのではないかと。

 ゲームのオタクのように、フラグ的な意味でもだけど。


 たぶん心が。



 きっと、この世界のハッピーエンドの絶対条件が失われてしまったんだろう。



 もしかしたらカルちゃんは四国送りになるのかもしれない。精神的な療養目的で。


 ……私は考えるのが苦手だから、別にダメージは受けない。

 わからないから、ただ、何も考えずに、仕事をする。


 カルちゃんがいなくなっても仕事はあるから。あらかじめ決まっているスケジュールがずっと先まである。

 幸いにも広報動画は撮り溜めてあるから、特に問題なく定期更新できる。すぐには問題にならない。

 人と直接会ったりするやつは何とか調整した。私も経験を積んでそれなりの調整能力は付いてきてるし。


 何とかなるものだなって。いなくても、何とか、なってしまうものだなって。


 考えない。考えたくない。どっちかは自分でもわからない。薄情な奴だな、とは自分でも思うけど。

 気持ちの整理がついて、ようやくお見舞いに行けたのは、それから何十日も経ってから。

 面会謝絶だったけど、無理やり押し通った。今の私は結構すごいから、頑張って押したらなんかイケた。




 ……見る影もなかった。

 小悪魔みたいに計算された得意げな表情は、どこにも存在しない。

 ベッドに横たわり動かない身体。

 光の無い目。考えることをやめてしまったかのような抜け落ちた顔。

 

 身体に傷はなさそうだった。ということは、内科的な話なのかもしれない。

 考えても仕方ないことだけど。私がここにいても、何の意味もなさそうだったし。


 本当に、なんだろうか。

 私がこの時、何を考えていたのかもわからない。



 パチン、と軽くカルちゃんの頬を叩いた。

 なんの反応も返ってこなかった。



 普通なら、涙の一つでも流すのかもしれない。

 だけど私の心は何の反応も示さなかった。


 何も考えずに、病室を後にする。


 結局、私は何もできなかった。

 変わったように思えて、何も変わってない。

 無能、欠陥品、ガラクタ。かつて自分に貼ったレッテルのように。


 機械のようで実は人間だったあの子とは真逆。

 やっぱり私は人間のふりした機械のような奴だったってわけ。






・・・






 その、帰り道。

 まだ第十四部隊の敷地内。



 私は、不思議な魔法少女とすれ違った。



 ふらふらと、転びそうになりながらもなかなか転ばない、危なっかしい女の子。


 魔力があるのに魔力が無いようにも見える、一見したら見間違いかのように思える、変な少女。



 でも、わからない。……本当に魔法少女なんだろうか?


 強烈な違和感。

 なんとなく、なんとなくだけど、目が離せなかった。






――『(Identifi)(cation)






 より明確に、真剣に、能動的に、その存在を覗き込む。

 機械のように正しく、より深く、それが何かを識別する。



 そして。私は、見てしまった。見つけてしまった。


 見逃すべきか、見逃さないべきか。

 認めるべきか、認めないべきか。


 ……思考が勝手にめぐる。


 考えても仕方ないのに。

 私が考えることに、意味はないのに。


 フリーズしたかのように、無能なガラクタが立ち尽くす。



 より、機械的な救済装置が。どこかへと行ってしまう。







・・・






 どれくらいの時間が経ったのか。

 ふと、私はカルちゃんの病室に戻ることにする。

 いつも通り何も考えてない。


 ただ、伝えたほうがいいなと思ったから。






 ハッピーエンド、あるかもよって、ね。






・・・

- Calculated Reaction - End.


Next.

'"Or Are They Ephemeral In The End?"'

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