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[ You Can’t Unring a Bell ] _ 夢への覚醒

・・・





 私は、私が特別な存在なのだと思い込んでいた。



 だって、魔力に目覚めたのだから。世界に選ばれたのだから。



 私を中心に、世界が回っているように思えた。

 この世界が物語なら、きっと主人公は私に違いないって思えた。



 なんてことはない。そんなの、ただの思い違い。



 よくある話だともいう。


 か弱いはずの女の子が、ある日、不思議な力に目覚める。

 そして、男の子たちを差し置いて、みんなのヒーローになる。


 それはとても痛快で、胸がすくような、すごく気持ちの良い夢に思えた。


 もちろんそんなことに興味のない子もいるらしいけれど。

 私はそのイメージに魅せられてしまったのだ。


 そう、まるで少年のように憧れて。ホント、バカみたいに。




 そんな子供じみた夢想に、あまりにも青い幻想に、かなり長い間、囚われていた。


 それなりの才能で、それなりの成績で、それなりの期待を受けて、勘違いをしていた。





──お前たちは試験ケースだ。昔は固有魔法無しに魔獣と戦っていたが、今は原則的に許されていない。


──だから戦力が全く足りない事態になっているんだ。お前たちは、それを変える希望になれる。


──期待しているぞ。頑張ってくれ。





 楽勝だと。私なら当たり前にできると。


 そんな思い上がりは、あの瞬間、力づくで剥ぎ落とされた。


 現実を思い知らされたのだ。残酷なまでに。



 そうだ。私は主人公なんかじゃない。

 どこにでもいるような、ただのモブなんだと。



 例えば、意味も無くいつの間にか死んでしまうような。

 物語を引き立てるためだけの、単なる一般人のような。


 名前さえもつけてもらえないような。

 そのうち忘れられてしまうような。

 そんなくだらない存在なのだと。


 魔獣に、一方的に捕食されてしまうような。

 か弱くてくだらない存在でしかなかったのだと。



 そう思い知らされた時。

 私の輝かしい夢は。思い描いた未来は。

 あの震えあがるほどの熱は。

 一気に冷めて、どこかへ消えてしまった。


 それまでの私は、あの日、あの時に死んでしまった。

 今ここに残っているのは、魂が抜け落ちた身体だけ。


 本当ならそのまま身体も死んでいたのに。

 運が良いのか悪いのか、生き残ってしまったってだけ。



 何で生きているのかもよくわからない。

 なんでだろうな。よくわからないな。


 わからないけど、私みたいな終わり方するやつは、見たくないな。

 そんな思いが自然と湧いたから、私は教練担当として頑張ってきた。


 クソババアと言われながら、現実を知らないバカなクソガキどもに教えてきたのだ。


 お前らがこれから向かうかもしれないのは、地獄なのだと。

 生き残りたければ絶対に勘違いをするなと。思い上がるなと。

 そうじゃなければ、運が良くても私みたいになってしまうと。




 果たして、私が教えてきたことは本当に正しかったのだろうか。


 わからない。




 果たして、みんなを強くすることはできてただろうか。


 わからない。








 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 わからない。











──これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない! 早く配置に、




 切羽詰まったような、ヒビ割れた怒鳴り声。私たちを引き連れてきた、大人の声。


 これまでに何度も想定してきて、訓練した内容を思い出す。



 部隊の隊舎近く、市街地郊外にて魔獣を確認。中央への救援要請後、状況に応じて観察、戦闘を行う。



 そんなのあるわけないと思いつつ、何度も何度も、マニュアルをなぞるようにして、完璧にこなしてきた状況。



 そうだ。やらなければ。



 後方支援部隊における、魔獣相対時の、行動の、ため、私は、






 ……。私は?





 あれ……?





 私は、何をすればいいんだっけ……?











・・・










 ?


 ふと、眠りから覚めるような感覚。

 見えるのは見知った天井。自室のベッド。


 何か、夢を見たような。でもよく思い出せない。何が何だかわからない。

 目覚めは良いが、どこかスッキリしない気分。


 そもそも、さっきまで何をしていたんだったか。

 白昼夢を見るように、呆けてしまっている。



 えっと、自室だし、ここは隊舎か……。いや当たり前だが。


 太陽を見るに、今は早朝だろうか。

 空模様は、雲半分くらいの晴れ。まぁまぁいい天気。




 ……?




 何か引っかかった気がする。なんだろう、わからない。


 ……まぁいいか。



 ボーっとした頭を振り払うように、フラフラとクローゼットに向かう。

 隊服に着替えようと思ってたら、妙にボロボロな布切れが出てきた。


 ? なんだこれ? 隊服の切れ端? なんでこんなものが?


 よくわからない。

 というか何故か、私はマッパだった。私は裸で寝る趣味はないんだが……?


 まぁ、いいか……?


 とりあえず綺麗な隊服に着替えて出かけるとする。



 とりあえず今日は何の仕事だっただろうか。

 たしか教練だったような気がするけど、何をするかなかなか思い出せない。


 考えても浮かばないときは素直に人に聞く方が早いし賢い。

 そう、たしか同期のあいつも言っていた。まぁこれに関しては同意だ。



 事務に向かう途中、隊舎の壁やら床が、妙に傷んでいるのが気になった。

 あんな傷とか凹みとか、変な汚れとか、あったっけか?


 まぁ……いいか。あとで営繕に入らないとな。




 事務では大人たちがでんやわんやのお祭り状態だった。いわゆる、修羅場。

 なんでも、処理すべき書類やら日報がやたらと溜まっているらしい。……私は出したよな?


 まぁ事務は割とどこもかしこも激烈に忙しいので、例えば緊急性の少ない日報なんかは数日ごとにまとめて中央に送っているらしい。

 実際ヤバい連絡は別ルートで送られてるということなので、そこまで大した問題にはならないだろう。まぁあまり良くない慣習とは思うけど。


 果たしてこの日報クソ溜まり事件は緊急案件として連絡されるんだろうか……わからないけどされなさそうだな……。


 まぁいいか。えっと、今日の仕事は……。





 ? 休み?

 あれ? 全休?





 見間違いと思ったが、張り出されている予定表は休みになっている。

 隣には今日の日付が自動表示されている時計があるのだから、見間違いではない。


 ……でも今日って、この日で合ってたっけか? 故障か?


 よくわからない。


 周りを見てもあまり疑問に思っている様子はなさそうで、私の考えすぎなのかもしれない。






「……先輩?」



 首を傾げながらとりあえず自室に戻ろうとしたら、クソガキに遭遇した。


 なんか不思議とすごい久しぶりな気がするな。

 見るに、どうにも浮かない様子。何かあったんだろうか。




「先輩……先輩は……あの子がどこに行ったか……知りませんかぁ……?」


「……あの子?」




「っ! モヤシッ!! 先輩のバカッ!!!」




 突然ブチ切れられてビビる。なんなんだ今の。悪口か?


 ホントいい度胸してるなコイツ……。……。


 ……。……?




 うん?




「あ」




 あぁ、モヤシ、あのモヤシのことか。


 モヤシ、モヤシ。なんだか一瞬、ど忘れしてた。


 頭の中で何となく思い出す優先順位が下がってるような。そんな感じ。



「あの、先輩が付けたあだ名ですよねぇ……? ふざけてるんですかぁ……?」

「いや悪い悪い……今日は朝から頭がボーっとしてるんだよ……モヤシいないのか?」


「……。はい……」



 後悔が強く滲む、鎮痛な表情だ。

 仲直り、まだできていなかったのか。


 ……モヤシは、もしや、逃げたのか?



「あのっ、先輩、今日休みって聞きました……探すの手伝ってもらえませんかぁ……?」


「いいぞ」


「すみません……ありがとうございます……」






 ……。


 ああ、まぁ、ぶっちゃけた話。


 新人魔法少女の脱走は珍しいことじゃない。


 当たり前だろう。ついこの前まで普通の、年端もいかない少女だったのだから。


 いくら魔法少女になることでのアメがあったとしても。

 使命感や正義感、魔獣に対する怒りや恨みがあったとしても。


 厳しい組織での役割についていけない奴なんかいくらでもいる。普通のことだ。

 だからまぁ、何回も脱走して、何回も連れ戻される、というケースも少なくはない。


 一応、対魔獣組織は建前上、公募によって魔法少女を募っている。実態は全然違うが。


 つまりは国のための戦力なのだ。魔獣災害に対処できる、唯一の手段。

 だからこそ、そんな子供のワガママを、国が看過できるわけがない。


 必ず連れ戻される。逃げおおせたヤツなんかほとんど聞いたことない。

 だから、見つけたいだけなら私たちが探す意味はあんまりない。


 まぁ実際、上が動く前に下で対処する意味は大いにあるんだが。

 発覚すれば部隊の評価も下がるし、早い段階で見つけられるならその方がいいだろう。


 それが本人にとっても、部隊にとっても、一番マシな結果になるのだから。

 別に私個人の感傷なんか、くだらないものなのだから。ここでは考える必要はない。


 ……このクソガキにも、モヤシにも、悪いことしてしまったかな、みたいな思いは、魔法少女として不要なんだ。







・・・

次回<夢見る救い>

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