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[ You Can’t Unring a Bell ] _ 夢半ばの声

・・・





「なんか先輩のそれってぇ……八つ当たり入ってませんかぁ……ゥっぐ……」



 天気模様は晴れのち曇り。気温もちょうど良く教練日和だ。


 目の前でぐったりして吐きそうになってるのが、最近来たばかりの新人。

 もう一人いるが、そっちは少し離れた地面でバタンキューしている。


 たった4時間の戦闘教練だってのにもう音を上げるなんて、だらしないな。

 実戦だと数時間ぶっ続けで戦うことなんかザラにあるというのに。



 ……まぁ私は10分も持たずに使い物にならなくなったんだがな。はは。



 とにかく本当はもっと詰め込みたいんだが、支援部隊にはとにかく人手が足りない。

 本来であれば魔法少女にしかやれないこと……つまり魔獣との戦闘の練度をあげることが最優先になるはずなのだが。

 対魔獣組織は活動範囲が広いので、大人たちだけではなかなか手が回らない。なので私たちも事務方の仕事もしなければならないのだ。

 私も教練担当ではあるが、当然それ以外の仕事も色々山ほどあったりする。

 特に私たちは支援部隊、最優先は前線の支援なのだから。前線の手を煩わせてはならない。


 ……まぁ前線も前線で結局人手が足りずに事務処理とかのもろもろに追われてるって噂ではあるけど。



 それでも、だ。

 後方支援といわれる以上、前線部隊以上にそこらへんの雑事はしっかりとやっていかなければならない。



「1時間休憩だ。その後は寄付物資の確認振分処理を予定してる。先に行ってるから後でちゃんと来いよ」

「うっへぇマジですかぁ……あれめんどいからやだなぁ……」


 クッソ生意気な態度で文句たれるクソガキ。

 新人の自覚足りないだろコイツ……。


「オイコラ、上役への返事はキチンとしろ。規律違反で懲罰会議あげるぞ」

「はいはぁい……すみませんでしたぁ……承知いたしましたでありますぅ……」

「そこで寝てるやつもちゃんと連れてこいよ。ブッチしたらコロすからな」

「ちゃんと行くでありますよぉ……」


「あとその口調はマジで腹立つからヤメろ。ブッコロすぞ」



 一瞬、脳裏にムカつく顔がチラついたが、脳内でぶん殴って消したので問題ない。

 あの無駄に有能だったミリオタ同期のことなんかどうでもいいのだ。クソが。



「てゆーかぁ……それって今日は他の先輩方の仕事じゃないんですかぁ……」

「数が多くて終わらなかったらしい。ちゃんと中身を調べないわけにもいかないし仕方ないだろう。あいつらは朝勤だからあがらせて交代だ」


 実際問題、民間支援を受けたからこうも人手が取られてるってのは本末転倒な気もするんだが。

 とはいえ拒否もできないわけないし、現実として物資は足りてないんだから助かってる面もちゃんとあるって話で。


 あとアレだ。

 ぶっちゃけた話、魔法少女は少女というだけあってどいつもこいつも子供なのだ。私も含め。


 特に支援部隊は経験の浅い新人魔法少女ばかりだから、そんなガキに複雑で高度な事務仕事なんか任せられたものじゃないってのが大人たちの基本的な考えであって。

 決められたものを確かめて決められた場所に持っていくだけの振分作業なんかは、ちょうどいい作業として私たちに振られることが多いのだ。


「てゆーかぁ……あの人らぶっちゃけサボってるんじゃないですか?」

「サボってて遅れたんならちゃんと私がシメといてやるから安心しろ」




──?




 ふと気づいたら、気絶して床を舐めてた方の新人が顔だけ起こしてこっちを見ていた。


 白い肌に痩せた身体。なんていうかこいつは、スーパー貧弱なモヤシって感じの陰キャだ。

 私と軽口を叩いている目の前のクソガキと比べて、正直なところ全体的な能力に難ありの問題児。

 無駄にやる気だけはあるのだが、とにかく無駄が多いので空回りばかりしてるやつ。

 何をやらせても上手くいかないから割と上も扱いに困ってるって噂なんだが……。


 今もなんか必死こいて立ち上がろうとしてるものの、なかなか立てずバイブレーション中。


 あ、ペシャった。いま顔面からイッたな…。



「あーもぅ生まれたての小鹿みたいじゃん。あの子だけでも今日は休ませたげよーよぅ」

「ダメだな。時間になったらちゃんと来いよ。もう私は行く」



「……」

「……」



 視界の端でプルプル震えてる変なモヤシがどうなろうと、私には知ったこっちゃないのだ。



「……」

「……」



 別に私にとっちゃどうでも……。



「……」

「……あぁ、そういえば作業室に仮眠用の簡易ベッドがあったっけか。関係ないけどな。……独り言だ」


「……あっは。てゆーかぁ、やっぱ先輩ってば、ツンデレ?」

「うるせぇ」



 休ませたり早退させたりすると事後報告の事務処理がめちゃくちゃめんどいんだ。外野からつつかれる材料にもなるらしいし。

 だからまぁ、長時間作業中の小休止として仮眠をとるのは許されてるので、どうせ休ませるならそっちにした方が良い。それなら日報にも書く必要ない。

 作業の進捗報告自体は全体としてまとめて出すので、その分を他がフォローすればいいだけの話だ。

 はっきり言って大人たちにとって魔法少女の個人成績なんざ、対魔獣における魔法の練度以外どうでもいいのだから。

 その辺は適当でも何ら問題ない。ないったらないのだ。


 だから別に私が優しいわけではない。そんなもん一ミリも存在してない合理的な判断ってやつ。



 おいやめろなんだその生暖かい目は。コロすぞ。






・・・






 曇り、ところにより雨。そんなスッキリしない空模様。


 今日は教練も全休なので、つまり私の休みってわけなんだが。


 いや、本当は休むべきじゃないんだろうな。魔獣はいつ現れるかわからないのだから。

 私たちは直接魔獣と戦うわけじゃないけど、前線部隊が動けば私たちの仕事も増える。

 なんだかんだ溜まってる書類仕事やその他の雑事だって腐るほどあるのだ。やることは山積みってわけで。


 あとアレだ。休んでるとこ見られると外野から、何でサボってるんだ!って文句言われるし。

 私たちが子供だからか、魔法少女に認識阻害がかかってるからか、直接言われることは滅多に無いけど。


 まぁでも、だ。部隊への苦情は大体私たち魔法少女に対する苦情なのだ。

 苦情の窓口に立ってる大人たちから恨みがましい目に見られることもちょくちょくあるのだし。


 そんなわけでなんかあんまり休み気にもならず、街に出るような気分でもないので隊舎の敷地内をブラブラしてるわけだが。





「あれれぇ、先輩休みじゃなかったんですかぁ?」





 なんかクソガキに捕まってしまった。めんどくせぇな……。


 えーと、書類の入ったダンボールを持ってるこいつの、今日の仕事って何だったか……。

 備品管理の大人たちの助っ人だったっけか……?


「それ、帳簿か?」

「んーなんか期限切れとかで破棄するらしいですねぇ。ちょっと数多いんで、魔力のおかげでその辺の男より力ある私たちが力仕事してるってわけでぇ」


 なるほど、保管期間の過ぎたやつか。3年だか5年だか、取っとかないといけないやつな。

 つーかなんでイマドキ紙ベースなんだ……? 何台もパソコンあるよな……?



「手伝ってやろうか?」

「いらないでぇ、ありますぅ」

「その口調やめろっつってんだろコロすぞ」


「やだなぁ先輩ったら怖い怖い。大丈夫ですよぉ別に私一人でやれるんで」


 心底ムカつくガキだ。こいつたしか13歳くらいだったか。

 私がこいつくらいの時はもうちょい規律というか礼節を弁えていたぞ。たぶん。



「……つーか、あいつはどうした?」



「?」

「あのモヤシだよ」


「モヤシ……? モヤ、うーん? ん? あぁー、あの子のことですかぁ?」



 そう、あのモヤシとコイツはたしか途中からルームメイトになってたはずだ。

 だから大体シフトもおんなじ感じで割り振られてるはずだが?



「あの子には作業室で次の作業のマニュアルを読んでもらってますねぇ」

「うん? だったらお前もそのマニュアル読まなきゃいけないんじゃないか?」


「まぁ別に初めての作業じゃないですしぃ」


「うん……?」



 ……あ、なるほどな。

 なんか妙に納得してしまったが、要するにあのモヤシは未だに仕事を覚えてないわけだ。


 こないだみたいに一緒に作業する機会もたまにあるが、アレはとにかく覚えも要領も悪い。

 例えば両手に物を持っているときに他の物を取ろうとして十秒くらい右往左往するタイプ。


 ぶっちゃけアホだ。

 なのに無駄にやる気があるぶんタチが悪い。


 あと戦闘面でも、良いところが全くない。

 魔力の使い方もヘッタクソで身体強化は特にイマイチ。

 身体の動かし方も未だにド素人と変わらない。戦闘教練ではいつも地面とお友達だ。


 魔法少女は魔力に適合して、大体2~3割くらいが3年ほどで固有魔法に覚醒し、前線に行く。

 でもあのモヤシは一生無理なんだろうな。奇跡的に行けたとしても無駄死にが関の山だ。



 ……まぁ私もイキってて無駄死にし掛けてたクソ雑魚なんだがな。はは。



 自分ならやれるって思って、根拠の無い自信だけで、戦場に行って。


 何の役にも立たないどころか、周りの足まで引っ張って。


 本当に、何のために努力してきたのか。


 なんで……。




「……なんで魔力に目覚めちゃったんだろうなぁ」




 あのモヤシも、私も。




「魔力さえ無ければ、ただの役立たずなだけの一般人でいれたのにさ」



 魔力に目覚めてしまったからには、魔法少女としての役割が求められる。

 役立たずでは、存在している価値がないのだ。


 無能でいることが、赦されない存在になってしまったのだから。





「……あの子にもいいところあるんですよ。あんまり悪く言わないでもらえますかぁ」


「おん?」



 ?


 ……ああ、あのモヤシの悪口でも言われたと思ったってことか。



「つーか、なんでお前が怒ってるんだよ。意外とお前ら仲いいのか?」


「……」

「……?」


「……んーまぁそれなりにぃ? ルームメイトなので?」


「ふーん……まぁ悪かったな」



 照れてるのかよくわからんが。まぁ私にはどうでもいいことか。


 だけどきっと、こいつらもいつか離れることになるんだろう。


 新人同士がずっと同じ部隊でつるめることなんか、まずない。

 私とあいつも全く違う部隊に配属されて、全く違う道を歩むことになったのだから。


 分かり合えたって絶対に離れ離れになる。


 その道がまた交わることは、ないのだから。


 そういうもんなんだ。





・・・

次回<夢は幻の中>

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