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英雄の資格 _ 燃えた救い




 少女の胸から、赤い花のような鮮血が咲いた。



「な……?」



 なにが、起こった? 攻撃?

 敵の攻撃には、全て集中して対処していた。だからそんなわけ。


 いや、まて、一番最初の攻撃だけ、明確には察知できなかった。あれはただの運だけで避けられたようなもの。

 最初以外使わなかった以上、可能性はゼロに近いだろう。でもゼロじゃない。

 考えるべきは、あ、いや、それは、でも……。



 また……間違えたのか……?

 攻撃を、通してしまった……?



 ワタシは、また守れなかった……?



(あ……)



 ダメだ、倒れるな。挫けるな。ワタシは、ヒーローなのだから。

 まだ、少女は生きてる。ああ、でも、でもわかってしまう。あれは助からない。

 また、ワタシのせいで命が失われたんだ。助けられたはずの命が。

 また、守れなかったのだ。これも全部、全部、ワタシの罪だ。


 でも立ち上がらなければ。ヒーローなのだから。そうだろう。


 ……そうじゃ、ないのか?


 ……。


 ……そうだ。


 そうだよ。



「『発火(Ignition)』」



 ガチリッ、と歯車が噛み合う感覚があった。

 心の中で何か挟まってしまっていた硬いものを、強引に砕いて嵌まった感触。

 大事な何かが今、欠け落ちた。でも歯車の歯は欠けながらも綺麗に回りだす。これでいい。


 あの少女が何をしたかったのかは、何となくわかる。失っていたワタシの魔力が回復してるから。

 ()()()()()()()()()だろうか。そんなものはかなり珍しい。生きていれば、大事にされただろうな。

 ワタシは、その未来を守れなかった。もはやそれは過去に捨てられた空想に過ぎない。


 全回復した魔力を、そのまま全部使おう。後先なんか、考えない。

 こいつは、この化け物だけは、必ず滅ぼすのだ。今のワタシに残っているのはそれだけ。

 そう。これがいなくなれば、間接的にたくさんの人が守られるのだから。


 ああ……、違うな、ちゃんと自覚しよう。

 これは八つ当たりみたいなものだ。その後のことなんか、知ったことではない。

 魔力が空になったワタシが、その後のスタンピードを生き残れるのか。まあ無理だろうな。


 そしていつか助けられたかもしれない命を、守れる者を、全部見殺しにするのだ。最低だろう?


 怠惰で傲慢な自殺行為。大罪人だ。到底、天国には行けそうにない。別に、それはいいが。

 でも……そうなると、ヒメにも、お父さんにも、もう会えないのか。まあ仕方ない、よな。



 ……さあ、行くぞ。これが正真正銘、全力の必殺技だ。

 地獄に送ってやるよ。ワタシも、すぐそっちに行く。じゃあな。



 Hasta(また) la vista(会おうぜ), baby(ベイビー).





「スーパーノヴァ」





 全部燃えていなくなれ。















「あっつ……」


 魔法による環境への影響は可能な限り抑えてるけど、それでも多少は暑くなってしまう。

 まあ少し前まで魔獣で焚き火してたしな。丸腰だと普通に暑いのだよ。


 完全に魔力が空になり、魔力衣装も解けて普通の服で大の字に倒れ込む。

 塔の魔獣がいたはずのところには、()()()()()()()()()

 周りを巻き込まないように範囲を絞ったつもりだったが、絞りが甘くて範囲に入ってしまった小高い山ごと綺麗に整地されてしまった。


 これじゃ調査もクソもないな。まあ仕方ないか。

 そもそも情報持ち帰れるかわからんし。緊急以外の通信もいつも通りロクに繋がらんしな。


 あー、スタンピードが始まって、まだ1時間も経ってないくらいか。

 この地鳴りは、いったい第何陣目のものなんだろうな。


 よっこいしょ……っとな。


 身体を起こして、こちらへ向かってくる次の大群と向き合う。

 平均第二等級の群れ。およそ300といったところか。思ったより近づいてくるの速いな。

 できれば向こうにいるヒメたちを弔ってやりたかったのだが……時間的に無理そうだ。


 ……は。そもそも、なに言ってんだか。

 ほんと罪深いな。そんなことしてもなんの償いにもならないのに。


 ヒーロー失格だ。いやもう、ワタシはヒーローだなんて言う資格ないか。


 まあヒーローの残り滓として、やれることだけはやろう。

 魔力弾を撃つくらいなら多分できる。身体強化は無いよりマシ程度、か。十分だ。



 さあ、こいよ雑魚ども。ワタシの屍を越えなければ、先には進めないぞ。



 覚悟を決めて、踏み出す。


 The end is near, but today is a good day to die.


 終わりが近いが死ぬには良い日だ……なんて、な。

 きっとここがワタシの最後の戦場。最期の一仕事なんだろう。


 あるかどうかもわからないような、なけなしの魔力を練り上げ、戦闘の準備、を……?



 ……何の、音だ?








──『汚染(Pollution)








 大群が、為す術もなくヘドロのようなものに飲み込まれた。



「あ……」



 振り返り、そこにいたのは過去に何度も顔を合わせたことがある、魔法少女たち。

 集団戦のスペシャリストにして、この場において最高の援軍。



「第九部隊現着。これより第八部隊の救援に入ります。状況開始」

「お久しぶりです、大丈夫……ですか?」



 第九部隊の隊長『浄化』の魔法少女と、副隊長の『汚染』の魔法少女。そしてその仲間。

 第八部隊と同じく、ともに南方を守る、ワタシたちの心強い味方。


 全身の、力が抜けてしまった。もう、いいのか?

 もう頑張らなくて……いいのか……?


 ああ、でも。こんなの。結局、ワタシだけが助かってしまうなんて。また。またワタシだけ。

 ダメだろ、そんな……そんなの、ない、あんまりすぎる……。



「あっ…………ぅう……っ」

「え、え?」

「……」

「ぅ、ぐ……、大丈夫だ。救援感謝する」

「ええっと、どういたしまして?」

「……」

「ぇ……っとだな、戦闘状況は、さっきまで第七等級魔獣、いや、恐らくその上、第八等級の魔獣と戦闘。ワタシが消滅させたが、副隊長が犠牲に。あ……、違う、ワタシが、この手で」



「……我慢、しなくてもいいんじゃないでしょうか」



 『浄化』の聖女様が、ふわりと抱きしめてきた。

 やめろ、優しくするな。やめてくれよ。


 ワタシは、ワタシは……大罪人なんだ……。



「怪我はされてないようですけど、落ち着くために後方に下がった方が良いかと思います」

「ぅ……」

「あちらの副隊長さんも後方へ。治療を受けてもらいましょう」

「え……。あ……うちの副隊長は、もう……」

「傷は無いようですが、念には念を」



「……え?」




 救援のために一緒に来た、支援部隊の隊員に運ばれるヒメが見えた。

 その姿は、ボロボロの服以外は前と何一つ変わらず。


 その目が、うっすらと、







「……マリー?」







 ああ、ワタシは、いま何に感謝すればいいのだろう。

 ボロボロと、我慢していたものが溢れてくる。



 ワタシには、守れなかった。こんなのヒーローでも何でもない、ただの罪人だ。

 じゃあ、ワタシじゃなければ、だれが守ったのだろうか。


 そういえば、あの少女がどこにも見えない。

 死体も無い。果たしてあの少女は、本当にいたのか?

 あの希薄すぎる気配、幻だったんじゃないのか?


 いや、確かにいた。間違いなく、存在した。

 あの回復がなければ、あの魔獣を一撃で消し去るのは難しかったのだから。


 それに、そうだ。あの魔法。魔力を回復するだけだと思ってたけれど……。

 ワタシが傷を負ってなかったから気付かなかっただけで。

 本当は、魔力も肉体も、何もかも治してしまう途轍もない回復魔法だったのでは?

 だけど普通に考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 ヒメは目覚めた。死んでいなかったということだろうか。

 だとしたら、つまりワタシは、()()()()()()()()()



 ああ……いや、わかってる。それで罪が減るわけじゃない。わかってるんだ。

 相変わらず、ワタシは罪深い。最低すぎる。だけども。それなら。



 ワタシは救われたと感じてしまうだろう。

 この罪が、救われてしまう。



 そしてさらに。もしもそうではなかったとして、もしも。もしも。

 あの魔法が普通では考えられない、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 何もかも、丸ごと救われてしまうのだ。

 ワタシの取り返しのつかない罪も。ヒメの取り返しのつかない命も。



 そうだとしたら、全部、全部、あの少女、あの方のおかげ。

 ああ、そんなの。そんなの、神の所業じゃないか。



 ワタシは最低だ。罪深くも、赦されたいと願ってしまっている。

 もっと最低なことに、その救済がより大きなものであってほしいと考えている。

 それが、もっと神に近い御業であってほしい、と。


 どちらにせよ、ワタシたちは救われたのだ。

 きっとあの方は死んでいない。ワタシのあの時の感覚など当てにはできないのだから。

 いや、もしかしたらそんな感覚すらも超越してしまっているのかもしれない。己の尺度で考えてはいけない。


 どこに、いったのだろう。感謝を、祈りを伝えたい。

 みんなは見てない? そうか……見てないのか。


 あの違和感、存在感、不思議な神々しさ。

 もしかすれば、やっぱり、そうなのだろうか。



 ()()()()()()()



 ホント、ヒーロー失格だ。

 自分以外の力に、助けられたいと願ってしまうだなんて。


 ワタシなんか、力の責務も果たせない大罪人。





 罪深いワタシを、どうか御赦し下さい。救い主様……。






<英雄の資格>結

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