5.今のカズは少し冷静さを欠いていた-きみにそう言ってもらえると-
全44話予定です
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チトセと会話が出来ない今、カズはレイリアをチトセに重ね合わせているのだ。そしてそんなレイリアの大切な家族だからこそ、それを奪う事は出来ないでいるのだ。
「そっかぁ、何て言えばいいんだろ、分かんないけどこれだけは言わせて。お姉ちゃんと弟を助けてくれてありがとう」
そう言ったレイリアの顔は意外にも晴れている。
カズは、
「二人をこんな風にしたオレを、オレを許してくれるのか?」
今のカズは少し冷静さを欠いていた。こんな事はいつもの彼なら絶対に言わない事だ。
だが、
「許すか、と言われれば許せないよ。でも、何て言うのかな、生かしておいてくれた事には感謝してる。そしてあたしはさっき、カズの言う事をなんでも聞くって決めたんだ。だから、助けてくれてありがとうって思うの。その思いだけは誰にも縛られない、あたしが思う気持ちだよ」
レイリアの口調はとても穏やかだ。それ程に大人になったのか、それ程にカズに傾倒しているのか、それは誰にも、恐らくレイリア自身にも分からないだろう。しかし、彼女は確実に変わっていた。
「ありがとう、少し、少しだけ救われた気がするよ。じゃあ続けるよ」
――きみにそう言ってもらえると救われた気がするんだ。
カズは説明を続ける。
今回の改修のポイントはまずレイリアが単独でレイドライバーをコントロール出来るようにする事である。
これには本来ならサブプロセッサーが間に入って信号のアブソービングを行うのだが、サブプロセッサーのアレックスは男である。つまり、子宮のシステムを構築できないのだ。なのでもし仮にレイリアが操縦するとなった場合、痛覚のアブソービングは出来るが、逆に言うと、その他の第六感と呼ばれる繋がりや直感的な行動は使えない。しかし、それは今のシステムでも同じなので、直接操縦できるようになるだけ性能向上、とも言える。
今回の改修は前述の操縦の件も入っているのだが、もう一つ、レイリアの機体にしか出来ない事を施す。それは、コアユニットに四肢の操縦信号を直接渡すというものである。つまり、通常時はレイドライバーに接続するのではなくサブプロセッサーを介するものの、コアユニットの運動系に接続する、という事なのだ。
これにより元々が同調率の高かったレイリアの機体がよりダイレクトに動くようになる。
「だが、これには少々副作用がある。それについても話しておかないとフェアじゃないから話すよ」
カズの言う副作用、それはコアユニットへの負担である。
コアユニットは四肢がない。それはレイドライバーにセットされる時に四肢を切り落としてまさしくレイドライバーの[部品]にされたからである。
では負担とは?
それは四肢、更には体幹を動かすときに子宮のリンクと同時に運動神経系の信号をコアユニットが受け取る事で、レイドライバーは確かに動くのだが、その分、痛みとしてコアユニットにも伝わるのである。
「だけど、痛みというよりはチクチク刺される感じって言ったほうがいいかな。ただ、お互いに慣れるまでは二人羽織状態になる、と言ったほうがいい。信号を受ける側のコアユニットの方に負荷がかかるんだ。それはもちろんコアユニットにも話をつけるつもり」
そう言ったカズに、
「ねぇ、一つだけ、一つだけお願いがあるんだけど」
レイリアはそう応えた。
[なんだい]のカズのあとに、
「一言だけ、お姉ちゃんに伝えてほしい言葉があって」
しばらくの沈黙。それはそうだ、パイロットとコアユニットとの接触は禁止されているのだから。だが、
「内容によるかな」
と言ったのだ。
――接触じゃあないからいいと言えばいいんだろう?
ちょっとチトセの事を思うと心が引きずられるが。
「ありがとう、って。ただそれだけでいいの。お願い出来る?」
「あぁ、分かった。伝えよう。それから切り落とされたきみの腕だけど、前にも聞いたけど研究所預かりでいいかな? 余り気分のいいものではないだろうけど、実験に使わせてもらいたくて」
というカズの言葉に、
「いいよ。カズの好きにして、ね」
そう応えるレイリアはいつもの彼女と少し雰囲気が違う。
――この感じ、やっぱり千歳だよな。
カズはそう感じていた。[あたしがコアユニットになるよ]と言ったあの日の千歳にそっくりなのである。まるでどこか諦めたような、それでいてカズを包んでくれるような、そんな不思議な感じ。それをカズは感じていた。
だが[どうしたんだ]とはついぞ聞けずに次の話へと移っていったのだ。
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