4話
だが、そこにあったのはお菓子ではなく先程の少女。まるで鏡写しのように佇んでいた。先程と違うのは彼女は左手に銀のナイフを持っていること。
あれ、彼女はいつの間に…。なんで、ナイフを…。
考える暇もなく、彼女は手に持っていたナイフを僕に向かって刺してきた。冷たい物が僕の中に入ってくる感覚がした。
ぐちゃ。
奇妙な音がお腹辺りから聞こえた。
「え……」
その音は止まることなく何度も掻き回した。どくどくと心臓の音が妙に大きく聞こえる。床の赤い面積が徐々に拡大していく。鉄の香りが鼻を掠める。
身体が熱い。これは血だ。赤い…赤い赤い赤い赤い。
誰かが僕の肩を掴んだ。だが、その感覚はもう感じる事がなかった。そっと後ろから耳元で囁かれる。
「ね、そこにあったでしょう?」
体から異物が抜けるのと同時に支えがなくなり、そのまま赤く染まった地面に伏す。
やっとの思いで顔を上げると、そこにはまったく同じ顔が二つ写されていた。一人の少女は右手で手を振り、もう一人の少女は左手のナイフをじっと見つめていた。
「あなた方人間は、私達人喰いにとっては甘い甘いお菓子同然の存在なの。これこそが【究極のお菓子】なのよ」
その言葉を最後に左手に握られたナイフが振り落とされた。
蝶の様に美しい少女達は、蜘蛛の様に獲物を糸に絡め捕食する。
「食べちゃった!」
「食べちゃったね!」
可愛らしい声が木霊するかのように立て続けに聞こえる森の中。
ゆらゆらと揺れる影が二つに分かれる。
彼女達は紅く染めた口で密かに笑ったのだった。