表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界傍観伝  作者: 譽任
3/22

序章第3節 重大な軍規違反



挿絵(By みてみん)


※Azgaar's Fantasy Map という素晴らしい地図作成サイトのおかげで小説を書く気が起こりました。現在、東の大陸ガルバギアのみで話が進んでますが、後に西の大陸であるウェスタニアの物語も混ぜていきます。




ーーーーーーーーーーーー





ギィルは転生前の朧げな記憶を思い起こしていた。


文化も文明も全く違うこの世界で、あの頃の知識が役に立った事に驚き、そしてやや自嘲気味に笑うのである。





それは最早、日を数えるのも億劫になりそうな忙しい日々の間に起きた。ここへ来てもう一カ月は過ぎたぐらいか、ただでさえ朝が早いのにも関わらず、日がまだ昇りもしない早朝に横からアベルが小声でギィルに耳打ちした。


「悪い、なんか今日調子が悪いみたいだ・・・」


「・・・熱があるのか?」


「いや、そういう訳では無いんだが・・・・・・その、これ見てくれよ」



そう言うとアベルはシーツを避けてギィルにズボンを見せた。


「・・・・・・・・・!アベル、お前・・・・・・」



アベルのズボンは下腹部から下にかけてビッシリと血がこびり付いていた。


「・・・はは・・・わかんねーよ、気づいたらこうなってやがったんだ・・・なぁ、ギィル、俺死ぬのかなぁ?」


そのあまりの惨劇にギィルも激しく動揺したが、その後に臭ってくる血生臭に少し硫黄のようなキツイ臭いがたちこめた時、転生前の記憶でその正体が何のかおおよそ推測出来てしまった。


「・・・・・・・・・アベル・・・お前、お、女だったのか?」


「・・・・・・!は?いや、え?・・・」



アベルは顔を紅潮させて否定とも肯定とも言えないような曖昧な表情をしている。


「・・・俺には姉がいたんだが、同じような事が姉にも起こった、詳しくは聞いてないが年頃の女は必ずこういう事が起きるらしい」



もっともこれは嘘とも本当とも言える。

ギィルの姉であるアリーネにも似たような出血は見られたが、姉の苦しい境遇を考えれば、誰かに酷い虐待をされて陰部を激しく傷つけたのかもしれないと思っていたのだ。



それであの時はそれがそういうものだと気づけずにいた。


しかし、今は違う。

何より今まで男だと思っていた人間がこんな事になったのだ、これは最早疑う余地はない。


「とりあえず汚れたズボンとその下は脱いで俺に渡せ、今日は俺の替えを貸すからそれに着替えろ」


「・・・・・・ああ」


顔入れが優れないのは激しく動揺した後なのからか、アベルは思いつめたように下を向いたままだった。そして突然、何かを決意したようにギィルの両肩を掴みそして小声で、しかし、はっきりと懇願した。



「なぁ頼む!この事は誰にも言わないでくれ!!」


「この事って?急に色々起こり過ぎてこっちも訳が分からないんだが?・・・全部か?」


「そうだ!全部!バレちまったら俺、追い出されちまうよ!」


「いや、そうはならんと思う・・・」


「えっ?」


ギィルは少し考えた後、アベルに言った。


「女なら衛生兵に転属出来るだろ、それに糧秣部隊でも女の班はあったはずだ」


「馬鹿!そんな事俺だって知ってるさ!」


「じゃあなんでこんな真似を・・・・・・」


「女じゃ出世出来ないだろうが!俺は軍人になって上に立つ人間になりたい!そうすりゃ金だっていっぱい貰えて・・・もう腹の虫が収まらないぐらいひもじい思いをしなくなるだろ?」


「そんなの女でもその気になりゃ・・・・・・」



「分からねー野郎だな!!!お前ら男が女を人間として扱った事が一度でもあるのかよ!!!」



・・・その言葉はギィルの核心を突いた。


死んだ姉は生まれてから死ぬまで、その身が保障される事など一度も無かった。幼くして一生懸命働き、その後男に買われたお金で家族を養い、挙句の果てに父親にも犯されて、最後は血を吐いて苦しみながら死んでいった。




アベルの言ったその一言の奥にギィルは姉の一生を見た。そして、心が締め付けられる程深い憎しみが込み上げる。アベルの一言に同調せずにはいられなかった。



「・・・分かった、だけど、ずっと隠し続けられる保証なんかないぞ」


「ああ、それは分かっている、階級が上がればもっとうまくやれるさ・・・」


アベルは自信満々に言うが、ギィルからすればそんな打算で行動していたのかと呆れるばかりであった。そして・・・


「あっ!お前、もしかして、あの時わざと俺にちょっかいかけて来たんじゃ?」


「あ、はは、ほら、お前さ、俺より女みたいな顔しているし、一緒だと安心かなーって」



こいつ・・・・・・その顔に先ほどの動揺に顔色は無く、いつものお調子者のアベルに戻っていたのを見て、ギィルは怒る気も失せてしまった。




それに、これは彼、いやアベルなりの処世術だったのかもしれない。確かに自分のような小柄な頼りがいの無い男と一緒に居れば自分が女性だという事も、そういう目で見られる危険性も低くなる。しかし、だからと言って今回のような事がもし、仕事中に起きてしまった場合、アベル()の存在はそこらにいる軍属全員に知れ渡ってしまうだろう。軍規に違反した場合の処罰方など俺もアベルも何も知らない・・・。




ギィルは少し思い悩むが幸い、まだアベルはアベルとして忙しく働けている。ギィルは仕事の合間にアベルが汚したズボンと下着を洗いながら、今後の事を思い、深いため息を吐く。




だが、そんな事よりも…。




「・・・俺、毎日女にボコボコにされていたのか・・・・・・」




一昔の記憶がぞわっと蘇ると、あまりの自分の情けなさに肩を落とすギィルであった。





ーーーーーーーーーーー




―クルナ平野



クルナ平野はかつては広大な美しい草原地帯であったが、度重なる戦争によって、荒廃し、今では砂漠化が拡大している。


ハビンガムにとっては貴重な鉱山物質を安全に確保できる唯一のルートであったが、それで財を築いた商人や傭兵軍人達がリフォルエンデという新たな国を立ち上げ、ハビンガムに対抗した事により、この平野における戦略的価値は消滅してしまった。



だが、戦略的に価値はないと言えど、戦術的にはそれとは言えず、その広大な敷地は戦をするに当たっては双方にとっても都合の良い場所であった。ただ、そこで暮らすハビンガムの最下級民達からすれば、その地は幾度と無く戦火に巻き込まれ、子供さえ真面に育てられない過酷な地として、人々を苦しめ続けているのもまた事実である。





ーーーーーーーーーーー




―リフォルエンデ最高評議会場




第二回ハビンガム侵攻作戦会議。




マルティネス・ハーバー元帥がウォン・リオン准尉を今回のハビンガム侵攻作戦の次席参謀官に任命した

事にも驚きの声が上がったが、それよりも驚かせられたのはウォンが立案したその作戦だった。



「ウォン准尉、これは一体どういう事かね?」


「はぁ・・・説明した通りですが」


「はぁ?君は今回の作戦を何時もの攻防戦と勘違いしているのかね?今回我々は進軍してクルナ平野を攻略する事こそ最終目標としているはずだ、なのに君の作戦はまるで敵が動くまでこちらもむやみに動くなとしている、これではまるで戦にはならんぞ!」



「はぁ、報復戦と見せかけて実はこちらから討って出ない、これも駆け引きで言えば重要な戦術だと言えるのではないでしょうか?」


「私やハーバー元帥がこのような堅実な戦術を選んだ理由としてもう一つ、アーレ・ブランドン軍の動向を警戒したものであるというのは、先ほども説明しましたが・・・」



「だから、それを踏まえた上で俺の軍をアーレ・ブランドンに配置しているだろうが、貴様、俺の軍では不服とでも言いたいのか!」



バハドゥル・プラサド中将はウォンに指を立て糾弾する。



「はい、しかし、今度は北西に広がるディアナイン神聖国の動きはどうしましょうか?」


ウォンのその言葉に周りから動揺の声が走る。



ディアナインが・・・まさか・・・

あの国が軍を出すなど・・・聞いたことが・・・



「詭弁だっ!!彼の国が過去に今までこちらに軍を向けた事など無いだろうが!」



「過去にないから今回も無いと言い切るとは危険な考えだと思いますが・・・」


「でも、確かにディアナイン神聖国が我々に軍を差し向ける可能性は低いと言えましょう」


「はぁ?・・・貴様我々をおちょくっているのか!?」


「いえ、私は皆様に我々が今ある現状を再認識して頂きたかったのです」


「リフォルエンデはその四方を強国に囲まれています、当然ながら常に他国との侵略に対し常に警戒せねば

なりません、確かに我が軍の力は今や絶大なものになろうとはしてますが・・・」



「他国と比較するのは間違っています」



「・・・・・・ウォン准尉、つまり君は今のままでは戦力不足と?」


ルークマンド・カタワル中将が核心を突くようにウォンに言葉を向けた。



「はい、ですので私はハーバー元帥推薦の身でありながら大変恐縮なのですが・・・」


「ハビンガムに侵攻するのであれば、アーレ・ブランドンに最低でも5万、ハビンガムに侵攻する際の軍事力は歩兵にして・・・10万の兵力が必要と推測します」




ふざけるな! 馬鹿げた数字だ!

今さらそんな兵力集められるか!!



ウォンの提言に周りから多くの罵声やヤジが飛び交う。




「しかし、ウォン准尉よ、この聖戦は最早評議会によって決議されたもので、今さら後には引けんだ・・・それに今回はあの新兵器だってある、いや、寧ろアレがある為の戦争と言っても良い、君はあの兵器の事は当然考慮しての今回の作戦立案である事を、今一度確認願いたいものだ」




ウォンのあまりの慎重論を諭すようにバンダラ元首が提言を求める。




これに対し、ウォンは心の中で舌打ちをする。

結局この戦争の目的は新たに作られた兵器の実戦による実験なのだ。




「こちらの情報、つまり、新兵器の効果範囲や威力などの情報が外部へ漏れている場合、これらは対策の仕様によっては無力化される危険性が大きいです」


「今回の私の立案はそう言った事も視野に入れての事だと言う事で、どうかお考えください」


ウォンはここで礼をして席に着いた。


当然、その後は反対意見が殺到し、ウォンが考えた作戦案は当然ながら棄却される。しかし、だからと言ってハーバーを今回の軍事作戦から降ろす事は出来ず、その参謀であるウォンは皆が納得できるような立案を再度考える猶予を与えられた。



・・・・・・・・・・





―リフォルエンデ


マルティネス・ハーバー元帥室にて



例によって従者を引き払ったハーバーがそれを見届けるとふぅーっと大きくため息をつく。




「まずは、第一段階突破と言った所かな」


甘さを抑えた紅茶を啜りながら納得したように言う。



「ええ、これであの場にいた人間全てに此方が四角四面である事を訴える事が出来たと思います」



それに応えるようにウォンがコーヒーを飲みながら返す。中身は砂糖をこれでもかと言うぐらいに入れ、コーヒーが3割に対してミルクが7という最早別の飲み物ではあったが・・・。




実は先ほどウォンが立案した作戦案は、棄却される事ありきで作成された慎重論であったのは言うまでもない。あのような極端なまでに強硬な堅実案を打ち出せば、これより侵略を行なおうとする進軍派がどう思うかは先ほどの展開通りである。



ウォンの考えた真なる作戦案は、これにより段階的に妥協案を提示してギリギリのラインで進軍派に譲歩を促し、出来る限り堅実で慎重な戦略案を呑んでもらう事にあった。




まぁ、体の良い時間稼ぎとも言えるがね・・・ウォンは心の中で呟く。



「ウォン准尉、君はやはり策士だな、剣の腕前は良く無いがやはりココは素晴らしい」


ハーバーはこめかみ辺りに指を叩き、ウォンにウィンクをする。



「元帥閣下、それは褒められているのでしょうか?」


「ああ、褒めているとも、強いヤツならどこにでもいるが君の代わりになれるものなど、何処にもいないのだからね」


「それで、最終的なおとし所はどの辺で線引きするつもりかね?」


「閣下、それに関しては・・・・・・」


「もう少し考えさせてはくれませんか?」



ウォンであればこのタイミングで最終的な作戦案をハーバーに提言する事は可能であっただろう、しかし本気で時間を要すると言うウォンの私心もまた本音である。



言葉がその効力を発するのは何も書類上の事だけでは無い。口に出したその瞬間から有効である事を、ウォンは知っていたからだ。



「そうか、だがあまり時間は無い、連中も待ってくれんだろうからな」


「ハッ、出来る限り善処致します!」



最敬礼と同時にウォンは元帥室を出る。

それからわざと軍服を乱して頭を掻く。



やれやれ・・・



従者が横に居るのにも限らず、元帥室のドアの前でそう呟くウォンの姿を目撃する者はまさしく動く渾名の

異名を知る事になるのであった。



ーーーーーーーーーーーーー




ウォンは深い思慮に更けていた。



ウォンの見出す戦術とは、『勝つ戦術』にあらず、『生きる戦術』である。双方ともに無駄に命を落とさずして如何に戦争を終わらせられるか、それが最もたる重要な課題であった。




これはウォンが戦争そのものが嫌いであると言う事が根本にはあるが、そこには他国との共生共存を築き、

出来る限り大きな衝突を避けたいとの思惑もある。


だがこの世界においてそれは常識外でもあった。



なぜ戦が起きるか?



それは他国の領土、そこから実る食料、文明文化、そしてその全てを奴隷として刈り入れ、莫大な労働力に

帰する魅力、略奪し尽くして更地にすれば新たに自国の種を撒くと言った可能性が原動力としてあげらる。



それはつまり、欲。

そしてそれはムンフの本性に最も等しい性とも言えた。




ウォンがそれに異を唱えるのは単純に人の泣き叫ぶ声や、血の臭い、全てを失い彷徨う子供・・・そんな光景を見るのが嫌だからである。結局のところ、ウォンは自分がどこまでも臆病者である事を痛感する、剣の腕が上がらないのも人の肉を断ち切る事に恐怖を感じるからに他ならない。



だから出来るだけ戦うのを避け、争う事を回避しようとする。勿論そんな事は奇麗事だと言う事も分かっているだけに、ウォンは深く思慮し、そして答えを見つけなければならないと考えている。




ウォンはまただらしなく頭を振り、そしてお決まりのあのセリフを・・・



「ふぅー・・・やれや」


その時だった。



今まさにウォンが頭を掻こうとした時、その手をグッっと掴む若者がいた。



「すみません!!助けてください!!!その、同僚が襲われて・・・」


その少年は金髪に大きな青い瞳をこちらに向け必死の形相でウォンに救いを求めていた・・・。





ーーーーーーーーーーーーーーー




―数刻前




「いいかお前ら、戦場では基本は槍だ!槍をとにかく前に出せ!」



糧秣部隊であれど戦場に出れば歩兵として駆り出される。その間、戦術を心得てなければ使い物にならないので多少の時間を切り崩し、こうして歩兵としての訓練を課されるのだ。



「まず、お前らに支給されるのは、この槍、そして剣、それでこの薄っぺらい革の胸当て、他は一食分の糧食だ!いいかどれだけ戦場が長引いても()()()()()支給されんからな!後方に帰還を許されない場合も覗いて考えて管理するんだぞ!!」



ここでも訓練を指揮するのは中級兵クラスの隊長である。



「隊長!質問であります!」


「なんだ?」


「あの、槍の使い方は分かったのですが、剣はいかなる時に使用するのでありますか?」


「はぁー?ハハハ・・・全くどいつもこいつもガキばっかだな」


「?」


「いいか?よく聞け!戦場じゃ敵も味方も大勢死ぬ、では死んだらその死体はどうするか?そもそもまだ生きてたらどうするか?…おい、そこの眼鏡!答えろ!」


隊長は目の前にいるラスカーに使命した。



「ハッ!生きている場合は剣で止めを刺します!そして敵が身に着けている物を物色し、使えそうなものがあれば持っていきます!!」



「・・・まぁ正解だ、要するに剣は殺し損ねた相手に使う為だと知れ!それと、欲をかきすぎてあまり物色に時間を取るな!先ほど戦場では一食分しか配給されないと言ったな?敵から取るべき物で最も優先されるものは食料だと考えろ!」



要するに殺し合って物を奪えと言う訳か・・・。



ギィルはその言葉を冷静に聞き入れていた。

他の者はと言うと血気盛んにして大声を上げたり、それで無くとも目を輝かせ、目の前に無い戦利品に心を湧き上がらせている様子だった。



そこに他人から物を奪う事への罪悪感などは微塵もない。少なくとも、奪う事でしか生きれなかった者達は・・・。




その後簡単な基礎訓練を終え、元の仕事に戻るまで少しの休憩時間が与えられた。



「しっかし、兵器開発とか言って最先端の技術力が終結しているってのに、歩兵は未だに槍と剣で戦えってかよ」


ラスカーが訓練用の槍を見てぼやく。



「仕方ないよ、歩兵は使い捨てだしな」


「使い捨てねぇ・・・どうせさっき言ってた薄っぺらい革当ても、戦場で死んだ兵士の遺留品だったって聞くぜ?血糊がべったり付いたやつは逆に固くなってより身を守れるとかな」


「冗談はよせよ・・・」


「冗談でも言いたくなるね!ったく、この国の連中は人の命を何とも思っちゃいねぇ!!ハビンガムにしてもそうだ、生まれてきたこの命を牛か豚だとかと勘違いしてるんじゃねぇの?」


「牛や豚の方がまだ飯が食えて仕事しないで良い分まだいいのかもしれない」


ギィルが珍しく相槌を打つ。


「はは、違いねぇ・・・だが、家畜はいずれ殺される、そして俺達末端の下等兵もいずれは・・・」


「おい、悪い方向に考えるのはよせ!訓練通りにしてればそんな簡単に死にはしないって」


「・・・おいクリス、お前本気で言っているのか?全くプルタニアってのは余程の間抜けの出が多いらしい」


「おい!今の発言撤回しろ!!」

「しねぇよ・・・お、やるか?」



「おい!やめろよ二人とも!」



言い争いになりそうな二人をギィルが叱咤する。



「でも、話に聞いたところだと近い将来『銃』というものが作られるって聞いた」



銃、ギィルが生前にいた時代で戦争の武器の代名詞と言えばそれであった。ここリフォルエンデでも新しい新兵器が実戦で大きく効果を上げるならば、それをさらに小型化させて、人の手にも扱えるような代物になる可能性は大いにある。



だが、それが何時の事になるかは誰も知らない。



「へっ、そんなもんよりこっちの方がよっぽど殺傷能力があると俺は思うけどね!」


ラスカーは壁に向かって小さな石を投げる。

それは十分な威力を持って石は粉々に砕け散った。



それが合図かのように数人の男達が俺達の前に立ちふさがる。




「おい!貴様ら・・・貴様らの中で『女』がいないか?」



・・・・・・ギィルはその問いにぞっと顔をこわばらせた。勿論、視線をアベルの方へ向けたりはしないが。


「は?・・・いや、この中っていうか、女性宿舎ならいっぱい居るんじゃ?」


「違う!お前らの中に女が居るかどうかを聞いている!」


「フヘヘヘ、アグバウ様・・・やはりここから女の匂い、それも血に鉄を混ぜたような雌の臭いがプンプン臭いますぜ・・・」


「そういう事だ、貴様らの中で性別を誤魔化して軍属になった奴がいるらしい、これは規則違反だぞ?」


アグバウと呼ばれた男はニヤニヤしながらこちらを見下すように立ちはだかる。


「いや、女っても・・・なぁ?」

「はい、全く身に覚えが・・・」



ラスカーもクリスも互いに顔を見合わせ、一体何の事かと首を捻っている。アベルは具合が悪いらしく、話は聞いているだろうがずっと下を向いていた。


クソ・・・!



ギィルは葛藤していた。

アベルには借りはあっても貸しは無い。

ならば、いっその事突き出してしまえば・・・そうでなくても黙認してしまえば良い。そう思っていた。



だが・・・・・・。



『お前ら男が女を人間として扱った事が一度でもあるのかよ!!!』



アベルが放ったあの言葉を思い出す。



ここでアベルを見捨てたら、あの時彼が罵った『男』達と同一である事を自らが認める事になるのでは?という疑念を抱かせずにはいられなかった。


「・・・女はお・・・いえ、女は私であります」


ギィルは敬礼をして一歩前に立つ。



「ほぅ・・・貴様か、確かになかなか良い顔しているな、それで、性別を偽って軍務を行った場合、どうなるかは分かっているんだろうな?」


「ハッ、謹んで処罰を承りたく・・・」


「んー…んんんー???」



言葉を言い終える前に先ほどの鼻が効く男がギィルの全身を這う様に嗅ぎまわる。


「アグバウ様・・・こいつは『女』じゃありません、女のようにしなやかで良い顔立ちしてますがね」


「なにぃ!?」


アグバウは顔を高ぶらせ、ギィルの前に立つ。そして・・・・・・。



「・・・・・・いっ!!!!」


ギィルの股間を右手で鷲掴みする。



「…き、貴様ぁ!!!」



今度は残った左ででギィルの左頬を思いっきり引っ叩いた。



「「「ギィル!!!」」」


ギィルは抵抗する暇も無く、軽く横に吹っ飛んだ。



「この俺を騙すとは・・・上官における背信行為とみなしてこの場で殺してやろうかーあーーーん!?」


蹲るギィルの首を掴み、追い打ちをかけようとするアグバウ。



「・・・・・・に、逃げろ・・・早く」



ギィルはかろうじて呟く。



「アグバウ様・・・・・・『女』は、あいつです!」


小柄で鼻の効く男、アッチナーク中等兵がゆっくりと指を指す。


「ほぅ、こいつが・・・」


アグバウ上等兵は興味を失ったようにギィルから手を離す。


「貴様は性を偽ってこのリフォルエンデ軍に忍び込んだ、これは重大な軍規違反である、よって・・・」


「犯す!!」


アグバウは舌なめずりをしながらアベルに突っ込んで行く。


「やめろおぉぉぉぉ!!!離せぇぇぇぇぇ!!」


アベルの悲痛な声が響き渡る。


「おい、口を塞げ!周りを取り囲め!!!」


誰と無く声を上げ、一味と思しき者達がアベルの周りを取り囲む。



「へへへっ、アグバウ様、終わったら次は俺にも・・・」


そんな下種な声が飛び交うなか、アベルの悲痛な叫びも元を絶たれるように聞こえなくなった。



くそっ・・・!



誰かに、誰かに助けを求めないと・・・!



ギィルは殴られた衝撃からなんとか立ち直り、必死になって助けを求めるべく、その場を走る。


必死に、必死になって連中よりも上の階級の軍服を、それでいて助けてくれそうな人物を・・・!




いた!!



ギィルの前には今まさに軍帽を少し上げて頭を掻こうとしている人物が。



ギィルはその手をぐっと掴み、息をするのも忘れて必死に叫ぶ!



「すみません!!助けてください!!!その、同僚が襲われて・・・」



ギィルが掴んだ右手の持ち主は、その丸眼鏡から驚きの表情をギィルに見せていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ