~夢への第一歩が第一歩過ぎる~
未経験女神歓迎!
異世界転生の案内をしたことがない方でも、丁寧な研修があるので安心してください。
イチから成長して、早い段階から異世界転生大使を目指すことが可能です。
あなたも異世界転生協会で活躍できる神材になりませんか?
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それで報酬は……と文章をつらつらと読み進めると、思わず声が出た。
「リリリリ、リンゴの果実だなんて!」
当時の私は悩むこともなく応募を決めた。
未経験、女神、大使でサイト内検索を掛けて、素晴らしい求神情報に出会った。
登録求神数、八百万のキャッチフレーズでお馴染みの転職案内サイト『メガミーツ』はさすがだった。
一応説明しておくと、『異世界転生大使』とは、生まれ変わりを控える魂を順番に次の世界へと誘う、新米女神が就きたいランキング不動のナンバーワンを誇る憧れの仕事。
まったく、どこもかしこも、異世界転生経験のある熟れた女神ばっかりを欲しがる。
まだお星様にもなったことない私みたいな女神には、これが千載一遇のチャンスというやつで、応募しない手はなかったのだ。
私が異世界転生大使になりたい理由。
それは悠々自適の安定生活を手に入れたいからだ。
この仕事は転生先の世界を説明して終わる、シンプルな業務だ。
かんたんな仕事なのに、資格保持者しかなることができないらしい。
それも、報酬は最高ランクであるリンゴが与えられる。
故に美味しい仕事なのである。
私は、リンゴまみれになって、食っちゃ寝の生活を送りたい。
日がな一日、延々と皮を剥き続けたり、擦り下ろしたりして遊んでいたい。
何が働くやりがいだ、何が社会貢献だ。
就職セミナーを受けて、女神を働かせる建前が駄菓子のように並べられていてぞっとした。
いや、むしろぞっとしなかった。
そもそも何だ、働くって。
傍を楽にする、から来た言葉らしいじゃない。
私は私が楽になるために仕事をする。
そう、自堕落な日々を送るために、私は私楽んだ。
そのための努力なら何だって惜しまない。
目が悪くなるほど異世界転生の教本を読みすぎて、眼鏡を掛けたら同級生から眼神なんてあだ名を付けられてしまったけれど、大したことではなかった。
名は体を表すから、私は眼鏡が外れなくなってしまったんだけど、異世界転生大使になるためなんだから、大したことではなかった。
ついでに言うなら、私のママも女神で異世界転生大使だ。
子である私が、純血の女神として異世界転生大使にならないワケにはいかない!
そんなこんなで熱意が通じたのか、憧れの異世界転生協会から内定通知をいただいた。
今、内定者懇親会で、導入研修を受けている。
私は、状況に浮き立っていた。
憧れの仕事に就ける第一歩目を、ついに踏み出した。
これからもっともっと勉強して、異世界転生大使になる。
一生食いっぱぐれのない資格を取って、手に職つけた女神になる。
あぁ、どこかの女神様が、お星様になって私を見守っていてくれていたりはしないだろうか。
これから先には何が待っているのだろう。
苦労はしたくないが、未来の悠々自適のためならば、多少の我慢だって覚悟している。
正直な心境を吐露しよう。
私はウキウキしていた。
否、ウキウキ言っていた。
絶望の縁に、立たされている。
私は、アウストラロピテクスに転生させられていた。
読んでいただきありがとうございます。
やりたいことをやりたいように書いてみる小説です。
新米女神さんを、どうぞ宜しくお願いします。