WE ARE THE WORLD
「ここは…」
墓地に一人の男性が立っていた。いつの間にかこんな所にいて、目の前には自分の名前の彫られた墓標
。
「僕は死んだのか?」
疑問の言葉。誰に向けた言葉でもない、自分への…。
と、そこへ、
「よう、新入り」
男性に話しかけてきたのは、サングラスをした黒いスーツを着た黒人の老人。
こちらを見てニコリと笑う顔は屈託がなく、無邪気な子供のようでいて、すべてを包み込むような優しさに満ちていた。
「何だ。キングオブポップなんて言われてた奴が。しけた雰囲気出してんじゃねぇ」
と、老人は言いながら背中をポンとたたく。だが男性は落ち込んでいた。
「そんなに死んじまった事が悔しいか? まあ好き好んで死ぬ奴なんていないだろうが」
「…そうじゃないんだ。そうじゃ……」
やっと返事をした男性に、老人はニコッとして男性に耳を傾ける。
「僕はずっと音楽が好きだった。子供の頃から。家族みんなで歌って、そしてみんなを楽しませる事が本当に楽しかった。でも…」
「でも?」
「いつからか、楽しませる事が出来ているのか分からなくなった。最初僕は自分が黒人だから悪いんだと思った。だから僕は肌を白くして、そうすれば一緒になれるんだと思った。でもそんな僕をみんなは奇異の目で見てきた。家族からも馬鹿にされた」
そこまで言って男性は俯いた。老人はただ黙って聞いていた。
「じゃあもっとフレンドリーに接しればみんなが認めてくると思った。だから僕は孤児やいろんな人に優しく接した。元からそういう事は好きなほうだったから。…でもそこでも僕は誤解され認められなかった」
老人はそこまで聞くと笑い出し、男性はそんな老人に腹が立った。
「何がおかしい! あんたも僕を馬鹿にするのか!」
「ああ。お前さんは馬鹿だな」
「何?!」
ますます男性は腹が立った。それでも老人は続けていった。
「肌の色? フレンドリーに? そんなモン誰も言ってない。お前さんは勘違いしてただけさ。誰もお前を馬鹿にもしてないし、認めてなくなんかなかった。それを一部の奴らにちょこっと言われてその気になって、それに気付けなかったお前さんは大馬鹿だ」
そこまで言われて男性は泣きたくなった。なんでそんな事に気付けなかったんだろうと。
それを察して老人は言う。
「でもよかったじゃねえか。最後にはみんなにお前の歌が、ダンスが、優しさが伝わっていたのが、みんながお前を認めていたことがわかって。じゃなけりゃお前のために歌を贈るもんか」
「え…」
言われてふと聞こえてくる歌。昔僕も歌った『WE ARE THE WORLD』が、世界中から溢れるように聞こえてきた。
その歌を聞いて、膝をつき声を出して男性は泣いた。そばにいる老人は男性の肩をたたく。
「今度はお前の番だな? みんなにお前の歌を届けようじゃないか。仲間のエルビスやジョン達も呼ぼう。伴奏は俺に任せろ」
「…ああ」
男性は涙を拭って立ち上がる。
「じゃあ月にでも行ってみるか。あそこからならこの世界みんなに歌を届けられる」
「いいね。僕も行ってみたかったんだ」
「それに…」
男性に顔を向け、老人はニヤっと笑う。
「『月でムーンウォーク』なんて洒落てるじゃねえか」
その言葉に男性は笑顔になった。
そして月からの聞こえる事のない歌は、世界中に降り注いだ。
『KING of POP』マイケル・ジャクソンへ捧げます。