前編
あるところに、お日さまの光がぽかぽかとあたる大きな森がありました。
その森のはじっこに、みどり色の屋根の家がありました。
その家の中で、首もとに白い三日月もようをつけたクマさんが蒸しパンを作っています。
クマさんのおなべはとても大きいので、いつも作りすぎてしまいます。
今日もたくさん作りすぎてしまいました。
おやつのつもりが、クマさんだけでは食べきれないくらいのたくさんの蒸しパンができてしまいました。
まぁるいまっ白な蒸しパンです。
「せっかくほかほかにできたのに、もったいないなぁ」
そう思ったクマさんは、蒸しパンをのせた皿を大きなふろしきで包むと、外に出かけていきました。
クマさんは、お友だちと食べようと思ったのです。
クマさんの向かう先には、小さなおうちがあります。
そのおうちは、小さなエントツのついたまぁるいおうちです。
まぁるいおうちは、毛糸でできています。
雨の日も、雪の日も、ずっとほこほことしているふしぎな毛糸です。
そのまぁるいおうちには、ネコさんがひとりで住んでいます。
まっ白いふわふわな毛並みのネコさんです。
まっしろい蒸しパンと、まっしろいネコさん。
クマさんは蒸しパンを見て、ネコさんのことを思い出したのです。
ぽすぽすぽす
毛糸のドアをノックします。
「こんにちは。蒸しパンをいっしょに食べませんか?」
まっ白なネコさんは、いつもお日さまの当たる外のベンチでクマさんとお茶を飲みます。
お茶をしながら、ネコさんは森の中のお話をたくさんしてくれます。
ネコさんの毛糸のおうちは、まぁるいタイヤがこっそりついていて、森の中をあちこち動けるのです。
今はクマさんの家の近くですが、気がつくといろんな所に出かけています。
そんなネコさんのお話は、クマさんの知らないことがたくさんあって、おもしろいのです。
クマさんは、森の葉っぱで作ったお茶を飲んで、いつもふんふんと聞いているのか聞いていないのか分からないような返事をしながらネコさんの話を聞いています。
「クマさんの首元にある三日月みたいなお月さまだったんだにゃあ」
「ふんふん」
「その三日月のお月さまが、お星さまを連れてきてくれたんだにゃあ」
「ふんふん」
「空を見上げたら、お星さまがたくさんの小さな光を降らせてくれたんだにゃ」
「ふんふん」
「とってもキラキラで、やさしい光だったんだにゃ。クマさんにもお星さまの光を見せたいにゃあ〜。きっと好きになるにゃあ」
「ふんふん」
「じゃあ、夜になったら一緒に行こうにゃ」
「夜はねむいから、おうちにいる」
「にゃんでですかぁ」
クマさんはネコさんから聞くからたのしいのです。
ネコさんにはたくさんのお友だちがいます。
日のあたる森は、ネコさんの庭のようなものです。
クマさんはそんなネコさんのお話を聞くのが好きなのでした。
クマさんは、今日はどんなお話をしてくれるのかをたのしみに、ネコさんのおうちまで蒸しパンを運んできました。
お星さまを見に行った話が聞けるのでしょうか?
わくわくと、もう一度ドアをノックします。
ぽすぽすぽすぽす
けれど、毛糸のドアから出てきたネコさんは、とても悲しそうでした。
クマさんは、さっきまでのわくわくした気持ちがしょんぼりとしていくのを感じました。
「ネコさん、どうしたの?」
ネコさんのふわふわの白い耳がぺっしょりと、たれ下がっています。
「ネコさん、蒸しパン食べない?」
クマさんがふろしきのまま、蒸しパンをネコさんにすすめました。
ネコさんは首を横にふるだけです。
「ネコさん、ネコさん、どうしたの?」
クマさんがおろおろとしながら、ネコさんに聞きます。
「お星さまを見に行ったお話、聞かせてよ」
クマさんがそう言ったとたん、ネコさんが泣き出しました。
「にゃあぁぁ〜」