第一章 出(3)
僕が住む村は首都から遠く離れた場所にある、小さな小さな村だ。名前すらもないほどに。
周辺にはこの村のような小さな村がいくつかあり、時に手を取り合いながら生存している。
首都グァグァラマスはナイア神の加護を最初に受けた人間の血族が代々治めているらしい。
ナイア神とはこの世界を作った三神の一神に含まれる創造神だ。
流転を司り、人間の多くが信仰している。
流転とは、生命の流れ、この世の時の流れ、全ての流れのことを指す。
ナイア神はこの世の全ての流れを創った神とされている。
神の言葉は人間の女のみ聞くことができ、それは時期も場所もまばららしい。
そして信仰心の深い人間はナイア神に認められ、治癒の力を授かることができる。
それらは全て、国民の9割が持っている新暦書に記されている。
この世界には人間以外の種族が多く存在するらしいが、僕の住む村には人間しかいない。
田舎に行くほどその国の種族しかいないというのはどこも同じらしいけれど、それも人伝に聞いた話であって、僕は村から一歩も出たことはない。
いわゆる田舎者というやつだ。
村の集落から少し離れた小高いところに、僕の住む家がある。
すぐそばには小さな聖堂があり、村の人々はここに朝の祈りと昼の祈りをしにくる。
今は昼の祈りの最中で、それぞれ好きな時間に好きなように祈りをしにきている。
僕はというと、聖堂の裏側で殴られていた。
鼻血が止まらないけれど、こういう時は上を向けばいいというのを学ぶくらいには殴られている。
僕よりも一回りくらい大きな体をした3人が、僕を囲むように立っている。
「おい、お前みたいなハンパもんがまだ聖堂にいんのかよ」
「お前が聖堂に入ったら身体焼けちゃうんじゃね?」
「悪魔はみんな聖堂に入れないらしいじゃん」
ゲラゲラと下品な笑い声が響く。
今日の朝だって聖堂で祈りを捧げたのに燃えてない、なんてどうでもいい言い訳はしない。
何を言ったって、こいつらには通じないってことはわかっている。
それに少なくとも、僕が半端者というは間違っていない。
それはロドフ神父に拾われたからとか、そんなことじゃない。
「こっち睨んでんじゃねぇよ!」
また殴られる。地面に突っ伏したまま、起き上がらない。
そうすれば舌打ちして去っていくのを知っているから。
今日もそうして3人は去っていった。
「いった…」
鼻血が止まらない。洗い立ての服についてしまい、ため息が出た。
また洗わなきゃいけない、しかも血は簡単に落ちない。
またロドフ神父に怒られるな、と思いながら立ち上がった。




