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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第五章 甦る正義の血脈
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第99話 真実は違った

真実が語られます。

第99話 ~真実は違った~

「あれは、七年前の事、私はザビエラ様の指示でザビエラ様の屋敷の警戒に当たっていました……」


アルマニアことアルザークは回想した。


ザビエラの屋敷は魔王アリジンの城の近くに構えられ、緊急時、いつでも城に出向くことが出来るようになっていた。

ザビエラには当時、容姿端麗な妻フレアと生まれて間もない女の子供がいた。

魔族の子供は一ヶ月は名前が付かない。

と言うのも、産後の魔族の子供は、その期間内に亡くなることが多かったため、亡くなったときに情が残らないようにとの考えからであった。

だが、愛する妻フレアとの間に出来た最初の子供である。

ザビエラにとっては名前が無くても可愛くて仕方がない。

そして、今、彼は、他の魔族の領地に対する侵攻遠征中である。

進軍が成功すれば、念願の魔准将に取り立てられる予定だ。

仕事も家庭もザビエラにとっては一番幸せな時期であった。



そして、ある日、悲劇は起こった。

現れたのはあの、デストロであった。

デストロはザビエラの妻フレアに横恋慕していた。

独身の時、デストロはフレアに何度も言い寄ったが結局、フレアはザビエラの妻となり、子供まで生まれた。

そして今回の遠征で成功すれば魔准将の座に一番乗りとなり、上位魔族としては順風満帆の地位となる。

デストロはそれを激しく妬んだ。

どうにかして、奴を引き(ひきず)り落とし、幸せの絶頂から地獄へ叩き落としてやろうと考えていた。

デストロはザビエラの進軍中、警備の目を盗み、ザビエラの屋敷に押し入ってフレアを襲い、犯した。

この時、フレアから激しく抵抗されたので、剣で手足を切り刻み、さらにその剣を心臓に突き刺して殺そうとした。

だが、それを止めたのがアルザークであった。

異変に気付いたアルザークが背後からデストロに近付き、剣を腰構えに持った状態でデストロの右太ももに体当たりをしたことで、フレアの急所は外された。

だが、フレアはかなりの重症に間違いはなかった。

デストロは、さすがに上位魔族の者だった。

アルザークの渾身の攻撃でも倒せなかった。

デストロは、アルザークの攻撃で足をやられ、動きが鈍っていたが、しばらくすると、何とか立ちあがり、アルザークに反撃する。

アルザークも下位魔族ではあったがザビエラ軍ではかなりの使い手であり、何とかデストロの致命的な攻撃をかわしたが、右腕と左足に怪我を負う。

だが、デストロがそれ以上の攻撃をアルザークに加えようとしたが、アルザークと同じ、ザビエラ軍の残留兵士が屋敷の異変を聞きつけ、こちらにやって来たため、体制不利と見たのか、デストロは屋敷の外へ移動を始める。

デストロは足を引き摺りながらも何とか、屋敷の外に出て、駆けつけた応援の兵士を全員返り討ちにしたが、アルザークから付けられた足の傷の事もあり、さらなる応援が来られては、対応出来ないと判断したのか、アルザーク達の所には戻らず、その場から一旦離れ、逃げ出した。


アルザークは、この時、

『いや、逃げたのではない、デストロは自分の配下の者を使って、必ず自分の口を封じにくるはずだ…奴はそういう奴だ…そして、自分に責任を(なす)り付けるのではないのか?』

そう感じた。


アルザークは、以前から、デストロの不審な行動を見ていた。

ザビエラと一緒にいる時、ザビエラの視線からデストロが外れた時に見せる、まるで、仇を見るかの如く、醜悪で憎悪に満ちた、魔族の負の部分を垣間見る様な、そんな表情を何度も見かけた。


『こいつは危ない』

そう何度も感じた。


こいつは、ザビエラが進軍で屋敷を長期に離れる、この機会を虎視眈々と狙っていたに違いない。

それが、こういった形でやってくるとは…


アルザークは、デストロが駆けつけた兵士達と交戦している時、フレアから、

『デストロが娘の命を狙っている、私はもうじき死んでしまう。どうか、娘を連れて逃げて欲しい。』

と懇願される。

フレアはデストロに斬り刻まれる時に、デストロから、娘の命も奪って、ザビエラに地獄を味あわせてやると言っていたことを告げる。


アルザークは考えていた。

元々ザビエラ軍の参謀の一人であり、智略にも長けていた。

奴の考えの上をいかなければ助からない…

ぐずぐずはしていられなかった。


フレアはどう見ても手遅れの状態であった。


怪我を負わされているが、今、動けるのは自分だけだ。

奴の事だ、恐らくは配下の者を幾つかに分けて、自分を逃がさないようにするだろう。

まずは、この屋敷に向かわせる部隊。

そして、自分が今から城に報告のために出向こうとしても、待ち伏せしているであろう部隊だ。

デストロは配下の者に、自分を見つければ、必ず、殺すように命じているはずだ。


自分を殺し、全ての責任を自分に着せれば、逃げおおせると思っているだろう。


そのためには必ず自分を殺しに来る。

自分が死ねば、ここにいる子供も後で殺されてしまう。

ザビエラは現在、遠方に進軍中のため、連絡をしようにも間に合わない。

自分と子供が助かるためには、フレアの望み通り子供を連れてこの地から逃げ延びるのが最善だと判断した。


生き延びようと…


子供の名前はフレアが死の間際に『キュリティ』と名付けた。

それは、魔族の言葉で『希望』という意味だった。

アルザークは屋敷の中にいた乳飲み子を連れて逃げた。

元々、戦闘行為が好きでなかったアルザークは途中で自分の屋敷に戻った。

まだ、デストロの手はアルザークの屋敷までは伸びていなかった。

だが、時間はなかった。

アルザークは、妻トゥーナに事情を話し、一緒に逃げようと告げる

トゥーナも戦いをする夫が嫌だった事もあり、すぐに夫の言葉に従い、荷物をまとめて逃げた。

このまま、家に残っていればトゥーナもデストロの手の者に殺されるのは目に見えていたからだ。


案の定、アルザークの自宅にもデストロの配下の者がやって来ていたが、間一髪で、その包囲網から逃げ出すことが出来た。


それからは、魔の大森林地帯を何日もかかって走って逃げた。

手傷を負っているため、中々早くは移動出来なかった。

すぐ海に逃げれば見つかる可能性が高いため、一旦、深い森の中を逃げ続け、西の端の海岸線に出た。

そこから木材と魔力で作った船に乗り、メトナプトラへ渡った。


もう二度と帰ることはないだろうという思いを胸に船を動かした。


最初はジャグ地区に入ったが、負の魔素の吹き出し口を探しながら東へ向け旅をしていた。

西は砂漠地帯、照り付ける太陽の中、到底、魔族の自分達が生きていくことは出来ない。

だから東へ歩いた。


アルザークの家にも1ヶ月前に子供ができていたのだが、すぐに亡くなってしまい、トゥーナも傷心状態であった。

そこへ、血だらけのアルザークが帰ってきた。

その腕には乳飲み子を抱えていた。

幸いにもトゥーナの身体から乳がまだ出ていた。

キュリティに乳を飲ませるとトゥーナも自分達の子供が生き返った様だと喜んだ。

夫から事情を聞き、トゥーナも自分達で育てることに反対はしなかった。

だが、乳飲み子を連れて逃げ続けることは困難を極めた。

変化の魔法を使って全員、人間の姿に変えていたが、魔力が無くなれば変化の魔法も解ける。

負の魔素の吹き出し口がそんなに沢山ある訳ではない。

プトラ地区の森の中で途方に暮れていたところ、通りかかったリスタルに見つかった。

既にアルザーク達は変化の魔法が解け、魔族の姿を晒していた。

魔力も底をつき、アルザークは怪我のせいで衰弱し、戦うことも逃げることも出来なかった。

トゥーナも衰弱し、乳も出なくなっていた。

そのためキュリティの命も風前の灯火であった。

人間は魔族の事を恐れている。

弱っていれば必ず殺される。

そう思っていた。

しかし、リスタルは、乳飲み子を抱えていたトゥーナを見るや、迷うことなく自分達を救ってくれた。

傷の手当てをし、食事を与えてもらった。

魔族と知ってなお、自分達に救いの手を差し伸べてくれたのだ。

リスタルはそんな男だった。


負の魔素の話をすると、

『自分達には毒だが、必要ならばいくらでも使ってもらっても構わない。』

と言われて幾つかの負の魔素の吹き出し口を確保してくれた。


何でも、このような吹き出し口を見つけた場合負の魔素が拡がらないように封印をする必要があり、その封印をしてもらう依頼をジパング王国の方へ連絡するらしいのだが、リスタルは一切、そのような連絡はしなかった。


そんな事もあり、アルザークはリスタルを心から信頼し、人間の姿でリスタルを支えることにしたのであった。


執事となり、名前もアルマニアと変えた。

愛情を注いで育てたキュリティも7歳となり、聡明な子供に育っていた。

キュリティには、そういった自分達の事情を小さい時から聞かせていたので、キュリティは自分の立場をよく理解していた。

そのため、皆の前では人間に変化をするようにさせていたが、嫌がることはなかった。

キュリティは、自分達が本当の親でないことも知っているし、ザビエラやフレアの事、デストロの事についても全て事情を伝えているとの事であった。


話を終えたアルザークは、

「私の話は以上です。私はザビエラ様のお子様を育てさせて頂いた事、本当に感謝しております。私の話が嘘だとお思いならば、このまま斬り捨てて頂いて結構です。」

と言って目を(つぶ)る。

アルザークの頬に一筋の涙が伝う。

本当の父親であるザビエラがここに現れることは絶対にないと思っていた。

未練がないとは言わない、仮りそめとは言え、キュリティと本当の親子のような関係を続けてきたアルザークにとってキュリティと別れることは身を引き裂かれる思いであった。

しかし、苦渋の決断を迫られる時だった。

キュリティはフレアから預かっているだけなのだから。

ザビエラが現れればキュリティとの関係を断ち切らねばならないのは当然であった。


「アルザーク!」

ザビエラはそう叫ぶと、アルザークに抱き付いた。

「許してくれぇ!アルザーク、私はお前が、お前がフレアを…子供を…殺したと…ずっと思い込んでいた…」

ザビエラも泣いていた。

話の途中から涙が出て止まらなかった。

死んだ妻の頼みを聞き入れ、自分の命を懸けて娘を助けてくれた男をずっと仇だと思い込んでいた。

何も知らなかった自分が情けなかった。

右も左もわからない土地で乳飲み子を抱えながら追っ手から逃げる日々、どんなに辛かった事であろうか…


ザビエラは、アルザークが本当の事を言っているということは、デストロの名前が出たときに既に理解していた。

デストロは、その後、進軍を取り止めた自分に成り代わり、進軍して功績を上げ、自分達の上位魔族の中では初の魔准将となっていた。

そのため、自分の上司的な立場となってからは、自分よりも年下で戦場の経験も少ないにも拘わらず、自分に対して不遜な態度を取り続けていたのだ。

今、その理由もそれまでの事も理解した。

最後まで自分を(おとし)めるためにしていたことだったのだ。


「本当にすまなかった。キュリティを逃がしてくれた上に、育ててくれていたとは…それなのに憎み続けていたとは、自分が情けない…」

ザビエラはアルザークに何度も謝罪した。

アルザークはザビエラの気持ちをよく理解していた。

妻を殺され、子供を拐われたまま、七年間、自分を仇と思い込み、恨み、憎み続けた毎日。

多分、デストロの策略でそうなっているだろうと思っていた。

案の定であった。


「ザビエラ様の事は、キュリティもよく知っています。どうか、先程オルビア様の仰られたように助けてあげて下さい。よろしくお願いします。」

アルザークはザビエラに頭を下げる。

本当はアルザークもキュリティ救出に行きたかった。

しかし、実のところ彼はデストロから受けた傷が元で剣を持つことが出来なくなっていた。

普通の生活は送れるが、戦えない身体になっていたのだ。


「わかった。必ず()()()()は助ける。」

と言って立ち上がる。

「ザビエラ様!」

アルザークがその言葉を聞くと、ザビエラに対し祈るようにして両手のひらを組み合わせる。


ザビエラが手に持った炎の槍『デスフレア』は死んだ妻の事を忘れないようにということと、自分が死ぬときはどうせ戦場であり、死んだときも最後には自分の側にある物にと付けた名前だった。


「ザビエラさん、魔界の者達は貴方のその武器が通用します。よろしくお願いします。」

とオルビアが付け足す。

ザビエラはそれを聞き頷く。


出発の時が来た。

アルマニアはバスを降り、頭を下げ、皆を見送る。


こうして、蔵光達は、狂信者の村『チャルカ』に向かうのだった。







これって、後書きですよね。

ト「ですけど、何か?」

他の方の見るけど『ブックマークお願いしやーす。』とか『次回は○月○日○時ころ投稿しやーす。』とか言ってるの見るんだけど…

マ「えっ?そんなことを言うということは、その為に、このコーナーを無くすという事でしょうか?」

えっ?あ、いや、それは考えてないが…

ト・マ「ホッ」

いや、文章的にかなり長いときがあるかなと…

ト「いや、まだ私達なんかは短い方じゃないですか?ヴィスコの時なんか、『ツッコミ講座』の回なんか、かなり、長かったと思いますけど?」

まあ、そうかな?って、今、これめっちゃ長くなってきているんですけど!

という事で、今後もこのコーナー形式で行こうと思ってます。

『使い方違うんじゃないの?』と思われる方はスルーして頂いて結構ですので、コーナーに出てくる彼らを温かく見守ってやって下さい。


ではまた次回をよろしくお願いしまーす。

⊂(・∀・⊂*)ヤー!

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