第98話 狂信者の村とザビエラの過去
まさかですよ。
第98話 ~狂信者の村とザビエラの過去~
プトラ地区の領主リスタル・ピスタ・メトナプトラから、恐るべき話が語られた。
「ここ、三ヶ月程になるのだが、このリサの街に住んでいる五歳から十歳にかけての子供達が20人程、行方不明となっていて、その内の五人が遺体で発見されているのだ。」
「な、何ですって?!それは本当なのですか?」
ヘルメスが驚いて声を上げる。
「ああ、残っている15人も未だに発見されていない状況で、目下、私のところの衛士達も捜索に出ているが皆目見当がつかない状態なのだ。」
その話を聞いたオルビアが口を開く。
「わかりました。私が視ます。」
「おお、!」
オルビアの言葉に、リスタルの目が大きく見開かれ、そこに何かを期待する眼差しが見られた。
オルビアがリスタルの執務室の窓から外を視る。
「チャルカ…」
「ち、チャルカだと…あそこは…確か…」
リスタルの顔に緊張が走る。
「そうです、あの太陽神ラーの化身が現れ、数々の奇跡を起こしたとされる村です。」
「そこに何が?」
蔵光はヨーグのラー神殿でラーの姿を見た。
人間の姿をしていたが、男か女かわからないような中性的な姿をしていた…
元々は太陽神ラーには偶像崇拝はなかった。
だが、プトラのある場所に人の姿をしたラーが現れたという伝説を元に神の像が造られた。
ヨーグのラー神殿にもラー神の像が安置されていた。
その伝説の発祥の地がチャルカという村であった。
「人が何かに祈っています。ああ、これは…、何と酷い…」
オルビアが窓に向けた視線の先に映るヴィジョンに口を押さえる。
「祈るということで、思いあたる事があるとすれば、『七つの棺』といわれるカルト教団でしょう。最近になって信者が増え、今では、あの村のほとんどが信者になっているとか…」
とリスタルはヘルメスと蔵光に説明する。
「そのチャルカという村はどちらに?」
と蔵光が尋ねる。
「ここから約120kmほど西に行ったところにある人口が200人ほどの村です。」
オルビアが未来の透視を終えた。
「囚われた子供達は全てチャルカにいます。キュリティも一緒です。彼等は『七つの棺』の生贄にされるために拐われたようです。」
「な、何と、それは本当なのか?」
「はい、間違いないと…彼等の前で子供が殺されるところが視えました。」
「そ、そんな…」
「ただ、これはまだ一週間先の話です。彼等は拐っても直ぐには殺さないみたいで、拐ってから1ヶ月ほど置いてから儀式に使うようで、子供達の体に、不浄の祈りを捧げ、穢れが付いた子供を捧げているようです」
「そんなところまで解るのか?」
ヘルメスが驚く。
確かに恐るべき能力だ。そんな能力がモグル達に渡ってしまっていたとすればとんでもないことになっていただろう。
「こうしてはいられない。ヘルメス行こう。」
「うむ…。」
「ヘルメスさん、剣を持って行って下さい。」
「いや、私は…」
ヘルメスは自分には剣が無いと言おうとしたが、先にオルビアが話す。
「貴女がダウスとかいう者の剣を使うことに対して抵抗があると言うことは聞いて知っています。ですが、今回は申し訳ありませんが、その剣を持って行って下さい。」
「えっ?でも、あれは…」
ヘルメスがダウスの剣を使うことに抵抗があることはオルビアも十分に知っていた。
だが、敢えてそれを使えと言う。
そこにはオルビアしか知らない真の理由があった。
しかし、それは敢えて言わない。
「子供の命がかかっています。貴女は人の命よりも、くだらない迷信や験担ぎを取るのですか?」
「!」
貴族も騎士と同じように曰く付きの不浄な剣を持つことを嫌う。
だが、冒険者は騎士とは違う。
実際に現場で使える剣を使用する。
それは国と誇りを守るためではなく、自分達の命を繋ぎ、弱者の命を救うために持つ。
浄、不浄は二の次だ。
ヘルメスは試されていた。
騎士としての誇りを取るのか、冒険者としての実をとり、子供達の命を救うのかということを。
「そんなもの…」
ヘルメスの気持ちは決まっていた。
「ゼリー!聞いているか!あの剣を!」
ヘルメスは『水蓮花』でゼリーに話し掛ける。
「待ってたで、ヘルメス!お前かっこエエで!」
凄く近くで声がする。
ゼリーが突然、目の前に揺らめきながら現れた。
透明化と気配遮断の魔法を使って、一緒に部屋まで付いてきていたようだ。
「!!な、?」
ヘルメスとリスタルが驚く。
蔵光はゼリーの気配は遮断されていても気付いていた。
また、オルビアも既に、ゼリーがそこに現れることを知っていた。
「はいよ、大事に使いや。」
とゼリーがヘルメスにダウスの剣を渡す。
ヘルメスはそれを受け取る。
腰のベルトに取り付けるための金具もヘルメス用に新調されていた。
ヘルメスが、それに気付く。
「これは?!」
「まあ、道中、何があるかわからんからな、使わんにしても、いざっちゅう時のためにな…」
ゼリーはこんな事もあろうかと、用意していたのだ。
「すまん、恩に着る。」
「蔵光さん、あなたは今回は出番が無いかも知れませんよ。」
とオルビアが蔵光に言う。
「えっ?どういう事?」
蔵光がオルビアの謎の言葉に変な顔をする。
「ふふふ、内緒です。さあ、行きましょう。では、伯父様また、今度、顔を出します。さようなら。」
オルビアが部屋を出ながらリスタルに別れの挨拶をする。
「あ、ああ、」
リスタルもこの状況に唖然となっていた。
数分後、魔導バスに全員が乗り込んだ。
『中の間』でオルビアが予知した事を皆に説明する。
「現在、このリサの街で起こっている失踪事件は、チャルカという村にある『七つの棺』というカルト教団による仕業であることがわかりました。彼等はリサを含め近くの街などから多くの子供を拐い、その命を生け贄に魔界から低級の悪魔を呼び出し村人に憑依させています。その数、ざっと150。」
「ええー!憑依って?」
「ひ、150って村人200しかいないのに…」
トンキとマッソルが驚いている。
まあ、冒険者をしていてもこんな事件はめったにある事ではない。
「魔界って、ホンマにあるんかいな?」
とゼリーが言うと、オルビアは、
「魔界とは、この世界とは違う、別の次元の世界です。こう言えばあなたなら解ると思いますが…」
「おっ?、おお!?わ、わかった。」
ゼリーが妙な顔をした後、ハッとした顔になる。
「そして、この元凶は『七つの棺』の教祖バゾニアルアジカンという魔界の住人です。」
「バゾニアルアジカン?舌噛みそう。」
ヴィスコが眉をひそめる。
「魔界の言葉で『死の尖兵長』という意味らしいです。」
「という事は、この悪魔が憑依した村人達が、この世界に侵攻する最初の兵隊という事か。」
と誠三郎がその意味を悟る。
「しかし、何故子供を狙う?許せん!」
ギルガが苛立っている。
過去の村の事を思い出したのであろうか。
「彼等の中では、子供を生け贄にした方が、多くの悪魔を呼べるらしいです。」
とオルビアは説明する。
そして、
「その拐われた子供達の中に、先程の執事アルマニアの子供キュリティという娘がいます。ザビエラさん、どうかこの子を助けて下さい。」
ザビエラがそう言われて妙な顔をする。
「『キュリティ ギダウズ マテゾウナス ザビエラ』」
オルビアがそう言うとザビエラが興奮したように立上がる。
「そうか、やはりそうだったのか!くそ!アルザークめ!」
慌ててバスの外に飛び出そうとするザビエラをオルビアが制止する。
「待ってください!ザビエラさん!貴方は、大きな思い違いをしています!」
「!?どういう事だ?」
ザビエラがオルビアの言葉に引き留められる。
オルビアの言葉には不思議と力がある。
「そ、そんな事が…」
トンキも驚いている。
「どうしたの?何なの、オルビアは一体何を言ったの?…」
「どうもキュリティという娘はザビエラ様の生き別れた娘さんらしいです。」
「ええーー!!ウソーー!?」
ヴィスコもそうだが、他の者もこの事実には驚いてしまった。
言葉の意味は
『ザビエラ、キュリティは貴方の娘。』
であった。
オルビアは魔族の言葉で言ったのはオルビアが予知と『遡視』によって知り得た事実のため、言葉の意味はわからないことから、どうしても伝える時に、原語をそのまま伝えることになってしまったのだ。
ただ、キュリティがザビエラに関係する人物であるということがわかったのと、彼が彼女を救う予知が出たため伝えたという事らしい。
ザビエラの話によると、アルマニアは本当の名は『アルザーク』といってトンキよりも前にザビエラの軍に所属していた魔族の者であった。
トンキと同じように戦いを好まないタイプの男であった。
だが、ある時、ザビエラが遠方へ進軍中、同じ軍の部下から連絡があった。
『アルザークがザビエラの自宅を襲い、ザビエラの妻を斬殺、娘を連れ去った。』
との内容であった。
ザビエラはやむ無く、進軍を中止し、急いで自宅へ戻った。
そこで見たものは、凌辱されたあと、無惨にも切り殺された愛妻の姿であった。
また、生まれて間もない娘、名前も進軍が終われば名付けようとしていた娘を連れ去っていた。
どこへ行ってしまったのか、全く消息が掴めなかった。
愛妻をなぶり殺しにされ、娘も連れ去られたザビエラのショックは大きかった。
アルザークに対する恨みは相当であったが、所在がわからないため、その怒りの矛先は戦場へ向けられた。
娘はもう死んだものと思っていた。
それが、生きているとわかった。
あの憎きアルザークの元で育てられていた。
最初、アルザークを見かけた時に一瞬だけ、アルザークではと思ったが、他人の空似と思い、気持ちを抑えていた。
そう思った矢先に、娘が生きている、キュリティは自分の娘だと告げられた。
娘との再会を喜ぶよりも、妻を殺したアルザークを血祭りに上げる事こそが本懐と思い、バスを飛び出そうとしたのだった。
「ザビエラさん、話を聞いて上げてもらえますか?」
「えっ?」
オルビアの言葉にザビエラはハッとする。
『中の間』にアルマニアが入ってきていた。
オルビアがバスのセキュリティを解除し、アルマニアを中に引き入れていたのだ。
アルマニアも最初、何故、オルビアが自分をバスの中に入らせたのかわからなかったが、部屋の外でザビエラの正体を聞かされて、初めてバスの中に連れてこられた意味を知った。
あとは、本人が聞かされていた事実を話していたが、実際に起こった事との違いを確かめるため、じっと聞いていた。
「アルザーク!貴様!よくも…」
ザビエラは興奮している。
「ザビエラさん、落ち着いてください。殺すなら話を聞いてからでも出来ることでしょう。」
とオルビアが諭す。
「……わかった。話を聞こう。」
ザビエラはしぶしぶといった態度でソファーに座り直す。
アルマニアがザビエラの前に立った。
そして、膝まづき、涙を流す。
「ザビエラ様、お久しぶりでございます。軍を勝手に抜けたことをお詫びしますと共に、何故私があなた様の子供を育てていたのかという事を説明させてもらいます。」
アルマニアことアルザークは、静かに話し出した。
その話の内容は、ザビエラにとって全く予想だにしなかった事であった。
ザビエラにそんな過去があったなんて。
ト「全く知りませんでした。キュリティさんの名前が出てきたとき、何か魔族の言葉に似ているなと思ってました。」
マ「でも、何か様子がおかしいですよね。」
おっとと、それ以上は言わないようにしようや、マッソル君。
とりあえず、何か訳有りの次回をまた見て下さいね。
ではΣ(゜◇゜;)さいなら~!