第9話 過去編4~巨大猿キングドリル~
今までの過去編の表題をちょっと修正しました。
前のは少し話の触りが分かりにくいと思ったので
第9話 ~巨大猿キングドリル~
『負の魔素』が溢れ出ていた大岩の裂け目を塞ぎ、地脈の正常化も終わらせたが、蔵光はこう言った。
「まだありそうなんで、それを探して塞ぎながら進もう。」
蔵光の話では、この森には、まだいくつかの地脈の乱れとそれに伴って負の魔素が溢れ出ている場所があるみたいだ。
だか、現在の蔵光の探知能力ではどこで魔素が吹き出しているのかはわからないようである。
「そんなに多くはないようだけど…全部塞ぐとなるとちょっと時間がかかるかな。」
蔵光は人差し指で鼻の頭を掻きながら言う。
「そうですか、しかし厄介ですな。」
誠三郎はこう考えていた。
『キングドリルを倒すとなればかなりの魔力を消費することは間違いない。しかし、あまり魔力を使いすぎると魔素の封じ込めや地脈の乱れを正常化するために使うための魔力が足りなくなってしまうのではないのか?そうなればまた、再度、この森に来てなくてはならないが、さらに今回と同じような魔物化した獣が増えていて、それらを討伐すれば個体数がさらに減少し、それこそ生態系を壊してしまうのではないのか?いや、そもそも若は、あの狂暴なキングドリルを倒すことができるのか?』等々。
しかし、誠三郎は大きな勘違いをしていた。
自分の前にいるのは、その辺よりただちょっと魔力が多くて、少しだけ力が強い人間ではないということを………
「どうされますか?」
誠三郎は蔵光の考え方により自分の立ち回りが変わってくるため、討伐や封印の方向性を確認する必要があった。
「うーん、とりあえずこのまま真っ直ぐ行った先にキングドリルがいるみたいなんで、そこでサクッと倒してから、考えるよ。」
「わっ、わかりました。」
誠三郎は蔵光の言っていることが、時々理解できないときがある。
『はい?サクッっとだって?若はちょっとキングドリルのこと、甘く見すぎじゃないの?』
誠三郎自身、蔵光の水魔神拳免許皆伝という非常に重要な試練であることから、今回の討伐が大変厳しいと思っているだけに、気の引き締まりもいつも以上であった。
『キングドリルの魔力や攻撃力がどれくらいのものか見当がつかない以上、若には万全の体制でキングドリルの前に立たせてあげたい。そのためにも私が何とかしなければ……』
とか、考えていた。
にもかかわらず、これまでの蔵光が魔物化した獣を倒すスピードが尋常でないくらい速くて、誠三郎は、
『ああ何だかな、ちょっと考えてたのと違う。余裕ありすぎるんですけど。』
と思ってた矢先のこの言葉、
『サクッっと』
って、揚げたての豚カツか!熱、厚か!
とか何とか誠三郎が考えていると、蔵光の感知圏外にはまだたくさんのヒヒがいたのだが、その感知漏れのヒヒを蔵光が次々と倒していくのが見えた。
「おっ、お待ちくだされ~、若~!それは私の仕事ですから~!」
誠三郎は慌てて蔵光の後を追う。
蔵光の恐ろしい程の討伐速度を後ろから見ながら
『あぁもう、生態系をかなり壊しているな…』
と思う誠三郎であった。
ここで、今後の話の展開のために、魔法世界『マーリック』における魔力の法則や規則性のことを話しておこう。
この、魔法世界『マーリック』では魔力は魔力値として魔鉱機等で計測できるようなシステムになっている。
魔力値の単位はMで表される。笑うな~
まあ、魔力値や魔力操作能力が高ければ、当然その持ち主の強さは正比例する。
つまり、魔力を持っている者と対峙したとき、もし自分が相手より魔力値が少なければ、自分の攻撃力はその差によって減少し、効力が段々と無くなっていく。
逆に相手より魔力値が高ければ、相手に対する魔力攻撃力は高くなり、魔力の浸透率も多くなるという訳である。
マーリックの人間は普通、魔力値が1M~100Mの間で生活をしているが、これは魔法が使いこなせるというレベルのものではない。
最低限、魔法を使いこなせるレベルの人間は魔力値50M以上は必要である。
ちなみに人間の魔法使いが持つ魔力値の平均値は500Mで、最高値は2000M位が大体の頭打ちの数値である。
アイテムバッグを作ったと言われる大魔法使いチョッコ・クリムでも2500M程であったといわれている。
また魔族といわれる種族がこの世界には存在するが、彼らの魔力値は人間とは桁違いで、魔族の子供の平均値が5000M程度で、大人が平均値30000M、上位魔族の平均値(限界突破した個体)が12万Mくらいから50万Mあたりになる。
魔王種族クラスは幼体で50万M、成体で150万Mといわれている。
ちなみに、ドラゴンとかは別格で、災害クラスとなり、200万M~1000万Mともいわれているが、詳しくはわかっていない。
しかし、ドラゴンとかは魔力値が高くても、魔法操作能力があまり高くない場合が多く、また、知能が発達している個体でなければ、特に脅威ではないといわれている。
なので財宝を集めて巣に持って帰るのは恐ろしいのだが習性のレベルであり、人間が欲に刈られて財宝を取りに行かなければ危険性は少ないのだ。
まあ、巨大なワニが川に住んでいても、近寄らなければ襲われたり、積極的に戦わなければ恐くないのと一緒ということなのである。
後は魔神とか、神様とか、それ以上で、神クラスとなり天災(自然災害)級、M値は地上の魔鉱機では計測不能となる。
魔法行使と魔力操作能力については、簡単に説明すると、まず魔法は、
頭(知識=魔術式、呪文、その他術式等)
身体(魔力総量)
の関係と考えて、まず、
頭から魔法の総術式(全ての呪文)を引き出し、身体からは魔力を引き出す(抽出=分離+摘出)、そして、次に頭では呪文選定(根元素理解が必要)、身体では魔力の維持(保留+継続)を行う。その後、第一詠唱(魔力制御(威力、範囲、数量)+魔力操作(質量変換=魔力+根元素))+第二詠唱(発動)=魔法行使(放出)
という手順となる。
よってスキルによる攻撃力強化や防御力強化は、
魔力+攻撃行使=攻撃力強化
魔力+防御行使=防御力強化
となり、単純な魔力行使となり、魔法の行使には当たらない。
よって『魔法操作能力』とは、
魔力抽出力、魔力維持力、魔力放出力、魔法制御力、魔力等質量変換力、魔法定着力等の全ての総称で、例えば魔法操作能力でいう「行使」とは魔力放出力の部分にあたる。
前述の通り、一度の魔法の行使に必要な呪文詠唱は2回で、一度目の詠唱で、抽出した魔力と根元素(火とか水といったものの元)を結合(質量変換)、その後の詠唱(2回目)で変換した魔力を放出行使するという手順となるがこれらは、一連の詠唱により発動となる。
「定着」は結界魔法とか永続魔法等に使用する。
これらは、次元(空間)魔法とか、時限(時間)魔法とかのジャンルに区分されるので、術式は多少残ってはいるが、詳しい内容については、それらを研究していたチョッコ・クリムが失踪したことで、その研究内容が失われたのは痛いところであると研究者の間では言われている。
根元素理解とか魔法操作能力とかは魔法を使用するには必要なことなので魔法を使いたい人は、メトナプトラの首都ヨーグにある魔法学校などで教えてくれるので通ってみるのもいいであろう。(魔法学校は世界中にあります。マーリックですが…)
以上が今のところわかっている魔力のことであるが、個体によっては自分の魔力値を操作して、通常の値よりも低くして魔力値を偽装したり全く魔力が無いように隠蔽する者がいるということを覚えておいてもらおう。
誠三郎も魔力はあるが、大体普通の人間の平均値よりは少し高めといったところである。
なので、魔力感知とかは多少できるようで、蔵光の魔力値がどれ程のものかは詳しくはわからないが相当すごいことはわかるようである。
しかし、キングドリルの魔力値がどれ程のものか、また、魔力差はどれくらいのあるのか分からないだけに非常に心配なのである。
いくら免許皆伝といってもやはり10歳の子供である。誠三郎に心配するなという方が無理なのである。
しかし、この森はかなり広くて深い、蔵光の生体感知は、溢れている負の魔素の影響でうまく感知ができていないみたいで、奥の方にはその感知しきれなかった更に多くの魔物化したヒヒや猛獣がひしめき合っていたので、もうかれこれ2時間以上戦い続けている。
だか、蔵光の呼吸に乱れはなく、また誠三郎にもない。
「強いのはわかっているんだけどなぁ。どれくらいの強さなのか見当がつかないからなぁ」
と誠三郎は襲ってくるヒヒの首を跳ねながら呟く。
誠三郎は、ここに来るときの蔵光と王鎧とのやり取りを思い出していた。
『蔵光や、ちょっと大きなお猿さんと遊んでおいで。最後は倒していいから。』
というものだった。
「遊び相手じゃねえし!」
誠三郎が回想に浸っていると、前方に誠三郎にも感じられる程の非常に強い魔力が感じられた。
「若っ!」
「わかってる、この奥に潜んでいる。」
蔵光は既に今回の討伐対象であるキングドリルの正確な位置を捉えているようであった。
「では御武運を!」
誠三郎は最後の雑魚ヒヒを斬り倒すと、その場に止まった。
蔵光もその少し前に進んだ後、その場で動きを止めた。
上空は先程と変わらず雲一つない快晴であった。
だがその下、今、蔵光達が立っている前の、木々が生い茂っている奥からは、そんな爽快な気分ですら一瞬で掻き消すような非常に邪悪で濃い負の魔素溜りのような気配が漂ってくる。
そして、『バキッバキッ!』っと、その方向から太い木々が折れてなぎ倒され、何か非常に巨大なものが段々と近づいて来ていることがハッキリとわかる大きな音が聞こえてきた。
かなりの大きさだ。
その様子から相手もこちらの気配を感じ取っているようであった。
ギャオオオオー
森の中全体に響き渡るかのような、恐ろしく巨大な咆哮が周囲の木々や地面を震わせると同時に、突然、蔵光らの目の前にキングドリルが邪悪な姿を現した。
その体躯は優に50mはあろうかと思われる巨大なヒヒであった。
しかし、その残忍で狡猾そうな顔つきはもう既にヒヒのそれではなかった。
顔貌は凶悪そのもので、暗い目は狂気を映し、口からは多くの生き物を喰らい尽くしたかのような腐臭と、大きな犬歯は赤黒く染まり、一瞬で人を恐怖に陥れる。
体つきはその巨体を支える強大な筋肉の塊と、返り血で染まったどす黒く長い体毛がさらに恐ろしさを増加させる。
すぐに邪悪な者と判断できるほどの容姿である。
キングドリルの口や体からは血の腐ったような生臭い臭いの魔素が湯気のように立ち上ぼり周囲を包み込む。
『このような怪物を10歳の子供が討伐できるのか?』
誠三郎は思った、
『若に何かあれば、私が命をかけて若を守り抜く。』
と。
しかし、そんな誠三郎の気持ちとは裏腹に蔵光は、
「セイさん、ちょっと遊んでくるよ。」
といって足を前に出した。
「えっ?」
誠三郎が蔵光の言葉に反応したとき、既にキングドリルの頭部付近を如意棒が襲っていた。
ガィィィン!!
金属音のような音がする。
キングドリルが蔵光の攻撃を右腕で受け止める。
どうやら腕の力だけでなく魔力で身体の防御力を上げているようであった。
「やはり魔力が高いのか?」
誠三郎が唸る。
またキングドリルも黙って突っ立っているわけではない。
蔵光の身体を捕らえようと腕を振って手を伸ばす。
しかし、蔵光はキングドリルの手から繰り出される物凄い速度の攻撃をスルリ、スルリと余裕でかわしている。
恐るべき反応速度だが、誠三郎はふと気が付く。妙な感覚に汗が吹き出て頬を伝う。
「あれって、若はまだキングドリル相手に魔神拳を使っていないぞ?」
魔力を使えば通常よりも力や速度が増して、感覚も鋭敏になるのに…なぜかスキル『超剛力』しか使っていないのだ。
「あ、遊んでるだと……」
怪力だけではない、恐るべき格闘センスが水無月一族にはあった。
ゼ「さっき、何してたん?」
エアコン掃除。
ゼ「あー室内温度適正操作魔鉱機のことやな」
ちっがーう!ことはない。?