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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第四章 先見の乙姫
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第89話 ヘルメス、魔人となる

ヘルメスが魔人になってしまった。

色々と不都合が出てきます。

第89話 ~ヘルメス、魔人となる~

ヴィスコが空の散歩から帰ってきたヘルメスの異変を感じとり、マソパッドでヘルメスの魔力値を測定した。

その数値、実に『52万3,130マーリョック』

魔王族の子供クラスの魔力値を示していた。

「これって、マソパッドの故障?」

ヘルメスもヴィスコが最初は冗談を言っていると思っていた。

しかし、それは冗談でも何でもなかった。

ゼリーが、

「故障やあらへん。ホンマにヘルメスの魔力値が底上げされたんや。」

「魔力値の……底上げ……?」

「そうや、恐らくやけど、ヘルメス、お前、さっき(あるじ)の魔力操作を体全体で受けていたやろ?」

「えっ…ええ、」

「多分、それが引き金となってヘルメスの体の中にしてあった魔力栓が解放されたんや。」

「魔力栓……解放……で、でも、こんな、恐ろしい程の魔力は普通の人間は持てませんよ?!」

とヘルメスは反論する。

確かに、普通の人間なら、魔力値の上限は大体平均で2000M程度だ。

上位魔族のザビエラでさえも、19万Mくらいだから、いかにヘルメスの魔力が強大なのかが判るであろう。

「普通は、魔力値の底上げっちゅうても、そんなには上がらへん、せやけどな、ヘルメスは水無月蔵光っちゅうとんでもない程の魔力を持っている人間の魔力操作を受けてしまったんや、自分も知ってるやろ主の魔力値を?」

「あ、はい。一度ヴィスコから聞きました。」

「そうや、その膨大な魔力で体を操作されたら、実際、体の中身も変質してしまうっちゅうことや!魔力で漬けた漬物と(おんな)じや。体質は余程の事が無い限り元には戻らへん。せやから、魔力値も今の高いまんま固定されると思うで。」

と説明した。

魔力で漬けた漬物がどんなものかは分からないが……

「す、すると、も、もしかして、私、魔法が使えるようになるのかな?」

とヘルメスは遠慮がちにゼリーに聞く。

「それはどないやろかな?そもそも魔法を使うには適性っちゅうもんがあるからな、魔力値がいくら(たこ)うても使えん奴は、全く使えん。まあ、まだヘルメスは根元素理解もしてないし、まだまだ無理やな。ま、それだけ魔力値が高かったら、頑張りようによっては、どないなるかわからんけどな。」

とゼリーが答える。

「私、魔法使えるように頑張るわ!そう、これはいい機会よ、私はこの魔力値の高さを利用して魔法が使える剣士となり、冒険者のS級ランクを目指すわ!」

とヘルメスは意気込んだ。

「なるほど、魔法剣士か、それはいい、今後は私のいい、ライバルになりそうだな?」

と誠三郎が言うと、ザビエラも、

「ということは、私もライバルということですね?」

とヘルメスに言うと。

「いや、それは無理だし、いくら急に魔力値が上がったとしても、お二人に勝てる気が全くしませんので……とりあえず、私は先程まではノーマルの一般冒険者でしたので、目標はノーマルのS級冒険者を目指しますから…」

「えっ?ノーマルのS級冒険者?」

誠三郎とザビエラは少し肩透かしをされたようだった。


「はっはっはっ!これはおもろいわ、セイノジ、ヘルメスにフラれたな。」

「ああ、そのようだ。」

と肩をすくめておどける。


「私も蔵光さんの魔力操作で魔力値を上昇させたい!」

ヴィスコが叫ぶ。

まあ、そりゃそうだろ。

自分としては最高の魔法使いを目指している以上は、魔力もそれなりに高いものを持っていたいと思うのは自然な気持ちだろう。

だが、ゼリーがこれに待ったをかけた。

「ヴィスコ、お前の魔力値が上昇するのは構わんが、そしたら今後は誰がマソパッドを扱うんや?」

「あっ!そうだった。」

マソパッドを扱うには1200M~3000Mの狭い範囲であるが、ある程度の魔力値が必要である。

だが、今回のヘルメスくらいまで魔力値が上昇してしまうと、今度は逆に範囲外となり使用できなくなるというポンコツ…いや、マソパッド製作者の制限がかけられているのだ。


「何か、残念というか悔しいというか、何とかならないんですかねえ?」

とヴィスコがゼリーに尋ねる。

「うーん、今のところは難しいな…まあ、ジパング王国に帰ったら、また、技術開発部にでも掛け合ってみたらエエんとちゃうか?」

「ええーー?!それって、いつになるんですか!?」

とヴィスコが声を大きくする。

「せやなあ、何年か後かな?」

「ええーーーー!!?そんなに待てませんよ!!今すぐにでも魔力値を上げたいくらいなのに……」

とヴィスコが口を尖らせて()ねる。

「まあ、ヴィスコにはうちらには一番重要なポジションのひとつを受け持ってもらっているんやから、そんなに焦らんでもエエんとちゃうか?それよりも、今、やらなアカンことは、魔法の基礎訓練のほうであって、その方が魔力値を上げるより何倍も大切やで。」

とゼリーが諭す。

すると、ヴィスコもそれには納得した様子で、

「……わかりました。」

と言って(うなず)いた。


「しかし、ヘルメスの魔力値が魔王族級になってしまったら、今後は大変だな。」

と誠三郎がヘルメスに言う。

「どう言うことですか?」

ヘルメスが怪訝な顔をして誠三郎に尋ねる。


「ちょっと、ヘルメスが今持っている剣を見せてもらえるかな?」

と誠三郎がヘルメスの問いに答える前に、ヘルメスが腰に吊っている剣を見せるように要求する。

「えっ?剣をですか?」

ヘルメスは首をかしげながら、剣を鞘ごと腰から外し、誠三郎に渡した。

「すまんな」

誠三郎はそう言ってヘルメスの剣を預かった。

そして、鞘から剣をゆっくりと抜く。

手入れはしっかりとされてはいるが、欠けも目立ち、悲しいかな銘も入っていない二束三文に近い質の剣である。

流石にヘルメスもじっくりとそんな剣を見られたら恥ずかしい。

今までの貧乏パーティーの名残とも言えるものだから、本当は見せたくはなかったのだが…


「やはり、これじゃダメだな。」

誠三郎に断言される。

「それは、わかっています。お金も入ったことですし、後で武器屋に行って一番良いものを買いますから。」

とヘルメスが言い返す。

だが、誠三郎はさらに言葉を続ける。

「だから、それじゃダメなんだよ。」

「えっ?どういうことでしょうか?」

ヘルメスもこのヨーグならそこそこ良いものが手に入ると踏んでいた。

それなのに、ダメだとは、どういう意味なのか?

「ちょっと外に出よう。ゼリー、自分の体の中にカキノタでゴブリンロードが持っていた剣が残っていただろう、あれを一本貸してくれ。それとダウスが持っていた剣も。」

「ああ、わかった。」

ゼリーは誠三郎が何をしようとしているのかが、何となくわかっている様子で、直ぐに剣を空間魔法で取り出す。

ゴブリンロードの剣は、ヨーグの街の武器屋に全部買い取りさせる予定であったが、武器のレベルとしては中々のものであったが、数が多すぎて全ては買取りして貰えなかった物だった。

また、ダウスの剣は、ヘストロンというかなり希少な鉱石を使って作られた剣であり、蔵光の如意棒と打ち合っても折れなかったという業物である。


誠三郎はその二本の剣をゼリーから受けとると、宿屋の外に出て、結構な広さのある隣の空き地に移動した。


「先程、ダメだと言ったが、それはヘルメスの魔力値が魔王族級に変化したせいで、人間が使用する剣では対応出来なくなってしまっているからなんだよ。」

「えっと、それって意味がよくわからないんですけど、何か不都合とかあるんですか?」

そういうと、誠三郎はゴブリンロードの剣にヘルメスの剣を少しだけ打ち付けた。

キン、キン、キン!

剣は軽い金属音を立てている。

「まあ、見てみるがいい。このようにヘルメスの剣は私の手の中では特に異常もなく、多少打ち合いをしても問題はないが、例えばこれをヘルメスが持って打ち合ったとすればどうなると思う。」

そう言って誠三郎はヘルメスに剣を返す。

そして、大きなゴブリンロードの剣を構える。


「力を入れて打ってきなさい。」

「えっ?でも、」

「私は構えているだけだから、大丈夫だ、この剣に向けて打ってくれ。」

「わかりました。では…」

ヘルメスは誠三郎に言われた通り、自分の剣を誠三郎の持つゴブリンロードの剣に打ち付けた。

バキッ!

「あっ!剣が!」

ヘルメスの剣がモノの見事に折れ砕けた。

それに、言うほどにはあまり力は入れていない。

わかっていたことだが、流石に自分の持っている剣が折れるとなると気持ちが凹む。

「やはりな、じゃあ今度はこれを使ってみてくれ。」

そう言って誠三郎はダウスの剣をヘルメスに渡す。

「これをですか?」

ヘルメスが少し躊躇する。

数多(あまた)の人を斬殺してきたであろうダウスの剣だ、よく切れる剣だと言っても気分的にあまり良いものではない。

「気分が悪いだろうが、実験だと思って付き合ってくれ。」

「わかりました。」

「すまんな、で、それで、もう一度、このゴブリンロードの剣を打ってくれないか?」

「わかりました。」

ヘルメスは誠三郎が再び剣を構えると、再度、そこへ向け、横凪ぎに剣を打ち付けた。


キン!

ボトッ。

ゴブリンロードの大きな剣の先部分が地面に落ちる。

「えっえっ??」

そして、誠三郎の手元には真っ二つに切断されたゴブリンロードの剣の柄側が残っていた。


ヘルメスの予想は、ダウスの剣であればゴブリンロードの剣であっても、折れることは無いだろうし、まあ、うまく打ち込めば五分五分くらいで打ち負けないだろう程度に思っていたからだ。

それが、打ち負けないどころか、剣ごと叩き切ってしまったのだ。


「やはりか……ヘルメス、お前さんの魔力値が高過ぎるため、人間が普段使っている剣では魔力の影響をまともに受けてしまって直ぐに折れてしまうんだが、やっぱり魔剣だと何とか扱えそうだな。」

「ま、魔剣?!これが?」

ヘルメスはダウスの剣を見た。


「そうだ、そのヘストロンを使った剣は剣を使う者の魔力を帯びることによって切れ味が変わってくる魔法剣の一種であり、魔剣と言っても呪われることはないが、剣を振るう者の魔力を勝手に吸い取ってしまうため、魔力が足りないと直ぐに魔力が枯渇してしまうと言われている。なのでその剣は、人間の魔力程度では扱えない特殊な剣なのだ。扱えるとすれば、魔族でも上位の魔族か魔王族等魔力値が相当に高い者、そして魔人くらいか……」

「魔人……?」

「魔人とは、魔法に()けた人間が、突然に体質変化をし、上位魔族すら越えてしまう魔力値を持った存在となった者を言うようだが、私も今まで見たこともなかったし、噂の域を越えなかったのだが、どうもヘルメスはその魔人とやらになってしまったようだな。」

「わ!私が魔人?!」

ヘルメスも噂で少しは聞いたことがある。

魔族の魔力値すら凌駕する魔力値を誇り、魔王族でさえも、その存在を脅かされる者達のことを…

伝説の勇者などがこれにあたると言われているが、数百年前に一度、勇者が現れたと記録があるらしいが、その詳細はベールに包まれていた。









ゼ「ヘルメスもとうとう人間辞めたか。」

へ「辞めてません!」

ヴ「でも、魔力値は人間の物ではありませんね。」

へ「ヴィスコ!あなたも魔力値を上げたいとか言ってたじゃない!」

ゼ「まあ、魔人と言っても、魔族にいう魔人族と言うのではなく、正確には、『突発性魔力値増加変異型魔人』というもんや。」

ヴ「何か病気みたいな呼び方ですね?」

ゼ「まあ、人間からしたら病気の括りやな。」

へ「ひどい!体質が変わっただけなのに…」

ゼ「まあ、それが病気に見えるんやろな。まあ、エエやん、得することもあるで、多分やけど……」

へ「何故、多分なんですか?それに若干、セリフがフェードアウト気味だし。」

ヴ「あははは。でも今のところヘルメス、持っていた剣は折れるし、得はしてないね。」

へ「もー!ヴィスコ!気にしていることをー!」

ちょっと、ちょっと君達、勝手にコーナー始めてるやん?えっ、もうこんなに喋ってるし…だから、しゃべることあったら本編でしゃべれや!


ということで第四章はこれで終了です。

第五章はまた新たな冒険が始まりますので、よろしくお願いします。(;`・ω・)ノ

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