第66話 魔物増殖しました
クワッテ鉱山決戦再開!
第66話 ~魔物増殖しました~
「主ぃ、ここ封印してしまうか?」
「うん、ただ、魔素口をこのまま封印出来ないんだよ。」
蔵光は少し残念そうに言う。
「えっ?なんでや?」
「封印には手順があって、まず、拡がっている魔素口を別の場所から切り取った岩などで塞いでおかないと地脈の乱れが止まらず、負の魔素がドンドン増えていくことになるんだ。」
「ほお、要は封印の前に、地脈の乱れを正常に戻さなあかんちゅうことやな?」
「そのとおり、で、それから敷き詰めた岩を『膜』で蓋をして、固定し、安定化させた後に封印の結界魔法を施すというのが一連の流れなんだ。」
「ということは、今は、岩をヒビの間に入れていないのでグラグラの状態やと…」
「そう、だから少しずつ『膜・凍』を解いてから、ひび割れの隙間に岩を敷き詰めて塞がないとダメなんだよ。」
「なるほどな、ようわかったわ。じゃあ、早うやってえや。」
「それが、ちょっと問題が…」
「なんや、まだあるんかいな?」
「これだけの規模のひび割れを、ここの坑道内の岩だけを無作為に削って塞げば、この場所以外の地盤がスカスカになってしまって、この坑道を支えきれずに坑内全体が崩壊してしまう恐れがあるんだよ。」
「それって、ヤバイやん。」
つまり、このまま凍結した状態で封印すれば、いずれは凍結部分の魔法が解けて、結界内にはひび割れ、未修復の魔素口から負の魔素がドンドンと噴き出し、溜まっていくことになる。
そして、封印の結界魔法が500年後に解けたとき、本来ならば敷き詰められた岩が、長い年月の間に固定され、地脈が安定化しているのだが、それが無いため、500年間分、溜まりにたまった負の魔素が一挙に噴き出し、一種の大災害を引き起こす恐れがあるという訳なのだ。
「なので、どうしようかと……」
と蔵光が思案していると、ゼリーが、
「そしたら、坑道の外側にある岩を持ってきたらどないなんや?」
「外から?………うん、それならいけるかも!ただ、ちょっと時間はかかるかも知れないけどね。」
「よっしゃ!」
ゼリーは再び『水蓮花』を使ってヴィスコを呼び出す。
「ヴィスコ!避難終わったか?」
「もうすぐ、終わりますけど、そちらにアサッテ君とザビエラさんが向かいました。」
「えっ?何やて?マジか?……主、どないする?作業結構危ないんやろ?」
作業手順はこうだ。
まず初めは、坑道の外で『水化月』を使って大量に切り取った岩石を、いくつもの『水球』で坑道内に運び込み、このホールまで持ってくる。
その後、少しずつだが、『水恵・膜・凍』を部分的に解除しつつ、持ってきた岩で補修、そして、再度『水恵・膜』をかけ直したあと、結界魔法で封印という行程をホール全体に施していくのだ。
そのため、現場となる坑道やホールには水球に包まれた岩がいくつも飛び交うので、確かに危険は伴う、他に人間はいないに越したことはない。
「うーん、しょうがないなあ、二人とももうすぐ来るんだろ?」
と蔵光が言うと直ぐに、二人が現れた。
なんて、タイミング。
まあ、恐らくはマソパッドの記録を確認してやって来たのだろう。
「蔵光様!……っと、これは!?」
ザビエラが凍り付いたホールを見て驚く。
蔵光がやり過ぎて天井まで凍らせているからだ。
また、後から来たアサッテもホールへ入るなり声を上げる。
「蔵光君!…うわ!なんだ、こりゃ?!」
蔵光は、アサッテに魔石の事などは伏せて、とりあえず、坑道内が魔素口の影響で崩落しそうなため、凍らせたこと、今からそれを修復するので、全員に坑道の外へ出てもらったことなどを説明した。
「ということで、全員ここから出てもらって、安全を確保してからの作業になるので、作業にミスがあれば、ここは当然崩壊し、山の外側も大きな山崩れを起こす恐れも考えられるので、気を……」
と蔵光が修復のことについて説明していたところ、妙な感覚に襲われた。
「なんだ?これは……急に気配が増えた?」
徐々に増えたというより、気配がなかった場所から多数の気配が現れたのである。
「なんやこれは、魔力値は結構強めやな…」
ゼリーが生命体を感知したがら魔力は先程の魔石のほどでもなく、いわゆる魔物の気配だった。
「こ、この気配は地脈あらしか?、さらにもうひとつ、いやもう一種類、別の気配が……巨大な魔力が感じられる………。」
とザビエラは地脈あらしとは別のさらに大きな気配を察知していた。
「もう一種類って……?なんかめちゃくちゃいっぱい気配が感じられるんだけど?」
さすがにこれだけ多いとわかるのだろう。
アサッテが言ったとたんに、薄明かりの中には無数の気配が充満する。
ホールの中にはいつの間にか地脈あらしのビッグワームともうひとつの巨大な魔物が姿を現していた。
「あっ、あれはモグラだ!」
とアサッテが叫んだ。
モグラといっても、穴を掘る可愛い哺乳動物を想像してはいけない。
ここで言う『モグラ』は『土竜』または『潜竜』と表され、つまり、亜龍種にあたる爬虫類系統の魔物である。
体長は大体20mくらいはあろうか、頭部は地中を進むために発達した超硬質の嘴状の口があり、龍というより、亀の頭部を連想させる。
体の造りは竜種に近いが翼は無く、トカゲに近い体つきで、前足はモグラに似た巨大な鉤爪を持ち、地中を高速で進む、100万を超える魔力値を有し、硬い外皮と硬質の爪による攻撃のほか、『土砂つぶて』、『風切り』といった魔力を含んだ攻撃をしてくると言われている。
その『モグラ』が、ビッグワームと一緒にあらわれたのだ。
流石に、ビッグワーム程の数ではなかったが、それでもかなりの気配を蔵光は捉えていた。
そこに、ヴィスコから『水蓮花』で連絡が入る。
「ゼリーちゃん!こっちに、もの凄い数の魔物が出てきたんです~!」
「何やと?!そっちもか?」
「そっちもかって?ええ、何とか、ギルガ様と八鬼さんに対応してもらってます、あっ、今!何か誰か応援にきてくれたみたいです、何とか、なりそうです。」
「わかった!そっちはそっちでなんとかしてくれ!こっちも今は手が離せんから!」
「わかりました!」
坑道の外でも魔物が出てきたようであるがギルガと誠三郎がいるので確かに何とかなりそうであった。
あと、助っ人も来たみたいだし。
「主ぃ~、これって?やっぱり?さっきの魔石に付与ていた空間魔法のひとつ、『次元魔法』とちゃうかと思うんやけど?」
「次元魔法?」
「ああ、そうや、ただ、ちょっとこれはワイが普段使ううとるやつと違うかも知れんけど…」
「えっ?違うって何それ?」
「ちょっと考えを整理中なんで、とりあえずこの状況を先に何とかしてから説明するわ!」
「そうだな、あまり衝撃を与えると崩落の危険性があるから気を付けないと…」
とワサワサと地面から這い出てくる魔物に対峙する。
「蔵光様、とりあえず手分けして倒していきましょう。」
とザビエラが言うとアサッテも、
「ここは任せる、俺はここ以外で出てきている奴を倒しに行ってくる!」
「わかった!よろしく!」
蔵光がゼリーとホールに残り、ザビエラとアサッテが他の採掘場所や坑道に発生した魔物を駆逐しに向かった。
「主ぃ、これっ?」
「ああ、1000匹くらい、いるかも?」
ホールには地面から涌き出てきた魔物で溢れかえっていた。
生命体感知で感知したが、ホールの外にもかなりの数の魔物がいることがわかる。
ビッグワームは地表ではかなり速度が落ちるが、代わりに強粘性の糸を口から吐き出し、相手に絡み付かせて動きを止めさせてから攻撃する。
なので、奴等は蔵光らに向かって一斉に糸を吐き出す。
『水盾』
クライ渓谷で蔵光の曾祖父水月が使用した技だ。
ギルガの炎をも防ぐ水の盾である。
当然、全ての糸を防御する。
次にモグラだが、その動きはビッグワームの比ではなかった、糸が吐かれた方向とは違うところから、かなりのスピードで蔵光達に飛び掛かる。
蔵光がするりと攻撃をかわす。
モグラの表情は凶悪な顔となり、その目は真っ赤になり、口からは負の魔素が漏れ出ている。
「凶暴化している?!」
蔵光の実家の研究室では、魔物が凶暴化すれば基本の魔力値が10倍以上に跳ね上がるが、レベルの低い魔物が凶暴化すれば命が短くなる恐れがあると言われている。
ちなみにモグラは亜竜種であるが、魔力値が高い割にはあまりレベルの高い魔物ではない。
知能レベルも低く、元々おとなしい性格で魔族とかに使役されたりもするレベルである。
「何や、こいつら、全部が凶暴化しとるんか?それに何か、ザビエラが言うてたみたいに連携した攻撃してくるで?」
ここではあまり、『水化月』や『滴』等、結構な衝撃を起こす恐れがある攻撃は出来ないので、蔵光はまだ、攻撃体制には移行していなかったが、ようやうく、
「仕方がない、『水恵・膜』!『魃』!」
「えっ?それって?」
ゼリーの表情が固まる。
『水恵・膜』は水の膜を張る呪文であり、『魃』はゼリーを死の直前まで追い込んだ恐ろしい呪文である。
数秒後、ホールにいた全ての魔物が静かになった。
モグラは全て、気道に水の膜を張られて窒息死し、ビッグワームは体全体から水分を抜かれてカラカラの脱け殻のようになっていた。
「やっぱり、この技はアカン、最強や…」
ゼリーが大量のビッグワームの死体を見て、蔵光の恐ろしさを再認識する。
ホールへザビエラとアサッテが戻って来た。
「いやぁ、何匹か倒したんだけど、途中で何か皆死んでしまっちゃって、一体どうなってるの?」
とアサッテが不思議そうにしている。
ザビエラは、この状況を見て、誰の仕業かを直ぐに悟る。
水魔神拳の恐ろしさを伝え聞いていたが、一瞬でこれだけの規模の魔物を倒す蔵光を初めて見て驚愕している。
そして、あとひとつ気付いた事があった。
地下にいたはずの地脈あらしの生命体反応が全くない。
「く、蔵光様、も、もしかして、地下のビッグワームも……」
「ああ、あれね、うん、ついでに、あ、外のもね。」
「えっ?外の、もですか…?つ、ついでにですか…?」
「うん」
「アカーン、主はやっぱり規格外やー!」
ゼリーの声がホールに響く。
そのやり取りを見て、アサッテも気付いた。
「あ、あの、も、もしかして、これって?全部、蔵光君がやったの?他の場所のとか、というも聞こえたけど?」
「うん、地下とか外とか、こことは別の場所にいる、魔物を同時に相手にするのは初めてだったから大丈夫かなって思ってたんだけど、結構巧くいったよ。」
「ま、マジか……」
アサッテは目を見開いて、蔵光から大量の魔物の死体に目を移す。
「に、人間か、あんた……?」
まあ、そう言いたくもなる。
ゼリーが前日に蔵光が言っていたことを思い出した。
「もしかして、考えてた方法って、この事やったんかいな?」
「うん、目の前の敵とかに複数で魔法を仕掛けるのは以前から出来てたんだけど、別の場所、例えばここだと、ホール以外の坑道とか地下の深いところとか…多数の魔物を感知しながら遠隔で仕留めるのはやったことがなかったんで…」
「はっ、?あきれたわ、とんでもないことを考えてたわ、この主は…」
とさすがのゼリーも、今回の蔵光の離れ業に驚く。
なので、当然ヴィスコから『水蓮花』で再び連絡が入る。
「ゼリーちゃん!なんか、出てきた魔物達、何か急にぜーんぶ死んじゃったんだけど?」
「大丈夫や、主の仕業や!」
「えーーーっ!!?」
ヴィスコの驚く声がした後、何やらヴィスコの後ろではガヤガヤと騒がしくなったので通信を閉じる。
「とりあえずは、終了だ。後は………」
蔵光は、この後、拡がっている魔素口の修復作業をこなし、ザビエラは残存する負の魔素の回収、ゼリーは鉱山内外の魔物の死体回収にあたり、それぞれ無事に終了した。
もう既に日は傾き、クワッテ鉱山には夕日が差し掛かっている。
鉱山はようやく静けさを取り戻した。
やっぱり蔵光すごいと思う。
ヴ「アサッテ君も言ってましたけど、人間じゃないかも…」
いや、一応強い人間の設定ですから。まあ、知識とかはまだまだ未熟ですけど、そこはゼリーが対応してくれているから…
ヴ「さすが、ゼリーちゃん師匠です。」
みんな、気付いているかどうか知らないけど、ゼリー師匠は、旅が始まってからも知識とか、思考が成長しています。
まあ、蔵光だけでなくゼリーも秘密ありなので、目が離せないです。痔壊も、いや次回もよろしく。




