第6話 過去編1~水無月家の資格者~
いよいよ蔵光の秘密が明かされます。
第6話 ~水無月家の資格者~
今から5年前、水無月蔵光は、魔法世界「マーリック」の東の国、ジパング王国という少し変わった国の王国武術指南役、水無月航夜の長男として誕生した。
航夜は武術指南役として任命されるまでは、妻と結婚はしていたが、世界各地を忙しく飛び回っていたため、なかなか子宝に恵まれなかった。
武術指南役へ役職が変わり、しばらくして子供ができた。
待望の長子とあって、水無月家で蔵光は大層期待された。
というのも、これまでの航夜の実績が凄すぎたからだった。
ジパング王国という国は約2000年前にドリタニアという鍛冶の盛んな国から派遣された人々が作った国であり、ジパング王国が現在、鎖国状態となっているのは、情報の漏洩防止の他に重要な理由があった。
本来、鎖国というのは他国との通商や交通を制限して、周囲の国々から他国の人や物、情報を自国に入れなくしたり、逆に、自国のそれらを海外に流出させなくして、自国の思想や文化、経済などに悪影響を及ぼすのを防止して国の利益を保護をするというのが目的であるが、ジパング王国が行っている鎖国は、『ジパングの周辺の島々を含む他国への害悪の流出を防止するため』であった。
それは一体どういうことかと説明すると、ジパングという王国は、国が建国される以前、人々はこの大陸を『龍と黄金と宝石の大陸』と呼んでいた。
それは、文字通りの意味で、このジパングという大陸には、龍が集めた無尽蔵の金銀財宝が眠っていると言われていた。
龍が出てくる伝説や物語の中では、『龍は、金銀財宝に目が無く、龍の巣に行けば必ずそこには金銀財宝が存在する』と伝えられているが、龍には本来、金銀財宝には全く興味はない。
逆に、それらの財宝を求めて近寄ってくる人間に興味があった。
龍は人の欲を利用して、世界中から金銀財宝を奪い集めては手元に置き、それをエサにしておびき寄せられる人間を自分達の食料にしていた。
つまり、自分で狩りをせずとも好物の人間が勝手に自分のところへやって来るのだから好都合という話なのである。
そして、特に龍のメスが巣を作るときは、まず卵を生むための栄養をとるため、最初に街や村を襲って人間を食らうのだが、その時に必ずそこの金銀財宝を奪い、巣に持ち帰る。
そうすれば、卵を生み、孵化させる時も巣を離れる必要はなく、ゆっくりと卵を温めることができ、お腹が空いたとしても、人間が勝手に宝物を求めて巣へやって来るのだから、メスの龍は、巣に居ながらにしてそれらを捕食するだけで事足りるという訳なのだ。
また、龍は財宝を探し出すための特殊な目を持っていると言われており、冒険者等は巣の中の宝物の他、それら龍を討伐して『龍の瞳』と呼ばれるものを入手し、それを利用して作られた探査型魔導機による一攫千金を夢見た。
龍は財宝を奪う時、口から飲み込み胃袋へ入れる。
大量の金銀財宝を体内に収めても重さが変化しないのか、そのまま何事もなかったかのように、空へ飛び立ち、去っていくため、もしかすれば体内に胃袋とは別の『収納胃袋』と言われる大容量の収納器官を持っているのではないかとも言われており、世界中で極希に討伐される龍の死骸を研究機関に持ち込んで研究が進められている。
だが、まだわからないところも多くあり、それら大容量の器官を利用したもので作られていると言われるもので、市場に時々出回る『アイテムバッグ』という大容量収納ができる物もあるにはあるが数が少なく、それについても、かなり昔に作製されたものであり、新しいものは出回っていない。
元々、『大容量の器官』は龍の体内にかけられている魔法のひとつであり、『次元魔法』とか言われる魔法で、よくはわからないが、三次元(立体)の世界のものを魔力で二次元(平面)から一次元(直線)と段階的に変化させ、最終的には次元座標の個数を0(無し)にして固定するという意味不明な魔法らしい。
そのため、理論上、『無限収納』というのも可能ということらしいがこれを研究していたのは約300年ほど前に生きていたと言われるチョッコ・クリムという大魔法使いであったと伝えられているが、その魔法使いはある日突然その消息を断ち、それ以降は次元魔法の研究は進んでいない。
ちなみにアイテムバッグは全てこのチョッコ・クリムが作ったとされている。
話を戻そう。
今から約2000年ほど前のある日、世界中を大量のドラゴンが襲った。
ドラゴンは人間だけでなく、地上に生息する全ての生き物を食らい尽くし始めたのだ。
後に『龍の災厄』と言われる事件だった。
このドラゴンの暴走被害を食い止めるため、神から選ばれた者がいた。
それが水無月一族であった。
水無月家の長を中心に、水神の加護を受けた者達は、世界各地で猛威を振るうドラゴンを討伐し、最終的にはジパングといわれる大陸の奥地にまで彼らを追い込むことに成功した。また、彼ら水無月一族はその時に得られた龍の素材や財宝で巨万の富を手入れたことから、その地にジパング王国を興したと伝えられているが、すでに2000年もの月日が経っており、これらの話は架空の物語ともいわれていた。
だが…これらの話は実話であり続きがあった。
水無月家の長は、ドラゴン討伐がある程度終わった頃、この地からドラゴンを流出させないためジパングの大陸周辺に一族を住まわせ、ドラゴンの流出を『害悪の流出』と位置付け、それを監視し、阻止するのを仕事にした。
これが、ジパング王国が鎖国をし、水無月家がジパングに住み付いた本当の理由であった。
この地にはドリタニアの王族の一人が入り、ジパング王国の初代国王となった。
なのでジパング王国とドリタニア王国は兄弟国となる。
また、ドラゴン討伐の際、大量の武器を現地で作成する必要が生じたため、鍛冶の国ドリタニア王国は、多くの優秀な鍛冶師と兵士をジパングに送り込んでいたが、引き続きジパングの監視を継続するため、これらの者もこの地に残ることとなった。
結果、優秀な鍛冶技術や秘伝の技術、優れた剣術がこの地に生まれた。
この地で生まれた秘伝の製法で作られた武器は恐るべき殺傷能力を持ち、『カタナ』と呼ばれた。
それら刀剣類は『龍の硬い鱗や体を断ち切っても折れず曲がらず』と言われ、鎖国ではあるものの、たまに流出するカタナは高額で取引され、世界中でも大変な人気を得ている。
ジパングを含め、魔法世界「マーリック」は悪辣な環境を有する場所が多くあり、ドラゴンだけではなく他にも問題があり、第68代水無月家当主である水無月航夜は脈々と引き継がれた水神の加護により、家督の相続前には、隠密裏に世界各国から依頼を受け、問題の解決をしてきた。
『龍の災厄』の際に討ち漏らし、その後、生息増加していたと思われる『人喰いドラゴンの討伐』や、魔族が自分達の神である『魔神』を祀るために作ったが、出現した魔神が無差別殺戮を始めた『魔神城の壊滅』事案、『海の巨大獣ネペンテス討伐』等、多くの逸話を残している傑物である。
その男に世継ぎが生まれたのだから航夜はもちろん、先代の王鎧も喜んだ。
当然、一族の者達も期待した。
現在、王鎧はジパング王国の老中職(国王の相談役、国の政治を補佐)であり、その後、誕生した孫の養育を担当する。
航夜は息子に『蔵光』と名付けた。
これは水無月家が祀る水神様の一神体である『クラミツハ』と呼ばれる神の名前から名付けたもので『クラミツハ』は龍神ともいわれ、水や雨を司ると伝えられている。
現在、航夜は王国の兵士に対し武術を教える、『武術指南役』という役職に就いており、ジパング王国の厳しい情勢下、業務多忙であるため、蔵光の養育は祖父の王鎧が担当することになった。
老中という役職は、王の相談役、ご意見番であったが、その他の政務は自分の配下の者に任せていたこともあり、航夜よりは時間的に余裕があった。
王鎧はまた、ジパング王国全体の情報を集約する『忍』(仕王備とも言われ、王に仕え大事に備えるという意)の部隊の長でもあった。
各地に散っている配下の忍から情報を受け取り常に国の動向を知ることができるようになっていた。
従って、王鎧の元で養育される蔵光にとって王国の事を知るためには最適な環境でもあったのだ。
それと、王鎧が蔵光を自分の手元に置いたことには訳があった。
蔵光に限らず、代々水無月家の子供は生まれてすぐに母親の元から引き離される。
元々、水無月家は水神様の加護を受けてこの地に降り立った訳であるが、加護というのは大変にありがたいことではあったのだが、その力は非常に反則級というか神懸かっていた。
彼ら水無月一族が代々一子相伝で伝えているのが『水魔神拳』や『魔神拳』と呼ばれているもので、魔法を使った拳法であり、その力は神から授かっただけに絶大で、『龍の災厄』の際、大量に生息、跋扈していたドラゴンを瞬く間に駆逐し、壊滅に追いやった。
この拳法はドラゴンや魔物だけに限らず人間に対しても使用が可能で使い方によっては大変危険なため、水無月一族だけが伝承されることとなった。
伝承は水神様の洗礼を受け、資格を授かることにより、適正者、資格者と見なされる。
従って資格のない者はいくら子孫であっても伝承は認められない。
なお、伝承資格は生まれるときに、その者の体の一部にアザ(紋章)として出現する。
蔵光にはそれがあった。
適正者の資格として水神様から授かるものはアザ(紋章)とともに『超剛力』という恐るべき身体の力と水魔神拳を扱えるだけの『高魔力』と『高魔力操作力』等があった。
『超剛力』は誕生した時にすぐに発現し、物心がつかないうちは、力の制御ができず、そのままだと、母親をその力で殺してしまうことから、生まれてすぐに引き離される。
そして、その子供は同じ資格者で『超剛力』のスキルを持っている伝承者しか世話をすることができないため、蔵光の身柄は、第67代伝承者の王鎧に預けられたのだった。
蔵光には母親がいるが、物心がつき、力の制御ができるようになってから初めて面会ができるようになるため、蔵光は母親に抱かれる温もりというものを知らない。
授乳は、母乳を鉄の容器に移し入れてから飲ませる。
そうしないと身体を喰いちぎる程の咬合力(咬むちから)を持っていて危険すぎるため、母親の身体から直接授乳させることができないのだ。
また、蔵光は乳児の頃は、魔法で強度を上げた鋼鉄製の牢獄や檻のような部屋に入れられ、手に持たされるものは全て頑丈で、壊れにくいものを渡されていた。
食器、玩具は全て鋼鉄製でなおかつ、王鎧の魔法で相当の重量に変化させたものを持たせていた。
蔵光が投げてもすぐに地面に落ちるくらいの超重量だ。
少しくらい重たくても蔵光には何ら意味がなく、逆に超重量ならば投てき距離が短くなり、壁等に衝突する前に地面へ落下することで、周囲の壁等が破壊されるなどの被害が防がれるからであった。
そして、蔵光には物心がつき始めたくらいに、重量のあるものの扱いを徹底的に教え込み、次第に金属製であった食器などが、木製に変えられ、最終的には陶製の食器を割らずに扱えるようになっていた。
指先の細かい作業も訓練で出来るようになった。
蔵光はこの日常生活の訓練を五年間毎日黙々とこなしていた。
このように蔵光もそうであるが、代々の伝承者は生まれてすぐはこのような生活を強いられる。
そのため資格者の性格の傾向として『忍耐力があり、黙々と修行ができる者』というところがある。
そうした性格でなければ、厳しい修行や訓練についていくことはできないのであろう。
蔵光らの一族は正義感は強いが、反面、悪に対する理解力もあり、『悪即斬』ということはない。
状況を冷静に見極める眼『観察眼』の能力もあり、物の理を素早く理解し、情報を吸収する力は早く、量も多い。
蔵光は、力の制御が出来始めた5歳になる頃には、近くの森にすむ巨大な猪(体長約10m位)くらいは素手でその突進を止め、捻り倒す程の者となっていた。
ふーしんどかったわ。ポチ活動、辛いなり。
ゼ「ワイの秘密ももうすぐやな」
え?あんた秘密あったの?
ゼ「あるに決まっとるわ~!…やろ?」
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ゼ「…う、うん」