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水無月蔵光の冒険譚  作者: 銀龍院 鈴星
第三章 宿敵の兆し
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第49話 シャルデ検問所

検問に引っ掛かります。

色々まずいことがあります。

第49話 ~シャルデ検問所~

ヨーグへ向かう馬車の中で、誠三郎とヘルメスが話をしている。

ヴィスコが『魔素口探索魔導機』(通称マソパッド)を使って、蔵光やゼリー達と話をしているため、自然と話す格好になっていた。

誠三郎はヘルメスが、『魔導機の操作係をして蔵光の役に立っている』ヴィスコに対して羨ましいと思っていると言ったことについて、

「今回、ヘルメスらと旅というかクエストが出来て楽しかったぞ、まあ、この旅が出来るのもヨーグまでなんだし、役に立てなかったからとか気にしなくてもいいぞ。」

と言うと、ヘルメスは、

「えっ…あっ、そ、そうでしたね…もうすぐ終わりですもんね……」

と少し寂しそうな表情になった。

ヘルメスは、確かに今回限りということで、蔵光達にクエストを手伝ってもらっていただけ、というかギルドマスターのジアド・アロバスタの策略で逆に手伝わされていただけで、ヨーグでクエストの報告を終了すれば、今回結成されたパーティーは解散となる。

従って、それ以降はこのパーティーが続くという訳ではないことは十分にわかっていた。

しかし、今回のクエストは、ヘルメス達にとって今まで経験したことがない、これからも、経験する事がないだろうと思われるほど眩しく輝く貴重な体験であり、また、彼等と一緒に過ごした濃厚な時間は何ものにも換えがたいものであった。

それはヴィスコにも言えた。

魔導機の操作係、このパーティーで自分が存在感を示すことができたのは、非常に幸せであった。

なので、このままヨーグでパーティーが解散となることに対してすごく残念で寂しく、辛いという気持ちが段々と込み上げてくるのだった。



蔵光一行は、現在、ジヨーグ山脈の西端にある山道を通っていた。

ここはジヨーグの南北を繋ぐ街道として唯一の道であった。

ピータバ村へはこの街道か、蔵光達が通ったノースヨーグの街道を通るコースもある。

だが、日にちがかかっても、安全性や利便性の面からタスパからでもこの街道を使うのが現在の主流となっている。

街道は砂利道で、東側にジヨーグ山脈、西側をクワッテ山脈が挟み、山脈の間にある森の中を蛇行して通るように道は続いていた。

道幅は比較的広く、普通の二頭立て馬車が楽に離合出来るくらいの幅だったが、この街道には問題があった。

この間までは、ピータバから牛乳やチーズ等の農産物を運ぶ馬車があったため、道は整備されていたようだが、今回の騒動で、街道を通行する車両が減ったためなのか、道には雑草が伸び放題となっていたり、枯れた木がいくつか倒れて道を塞いでいるところがあったりと、かなり荒れた道となっていたのだ。

しかし、ゼリーが道を塞ぐこれらの障害物を回収、除去して、街道の整備を行ったため、街道は元の状態を取り戻した。

ちなみに通行は例の魔改造馬車のお陰で快適に進んだことは言うまでもない。

ただ、枯れた木については最近倒れたにしては数が少々多いように思えた。

なお、ゼリーは整備作業の間、

『ワイも皆とソファーに座って()()()としたいわ!』

とボヤいていた。


その山道の途中に検問所が設けられていた。

名前をシャルデ検問所といって通行料とかは取られないが、首都防衛のため北から入ってくる不審者等を阻止するための検問所であった。

検問所といっても結構立派な造りの建物で、三階建ての石造りで、街道を塞き止めるかのように東西に大きく拡がった頑強そうな壁は城壁のように建てられ、建物が途切れてからも、そこからは大きな柵が作られていて、脇から回り込まれるのを防いでいる。

もし、脇から抜けようとする者がいたとしても、魔石で作られた防犯センサーが柵の周囲に取り付けられていて、人の気配などを感知すれば、検問所や首都ヨーグに瞬時に知らせるようになっている。

建物の中央部分は街道の大きさに合わせるように、金属と木で作られた巨大な門が設けられている。

昼間は門扉を開いた状態にして、馬車等の通行の妨げにならないようにしているが、夜間は門扉を閉じて、通行を禁止している。

検問所は身分証明書を持っている冒険者だけでなく、身分証のない一般人も通るので、魔鉱機で審査して身分証の無いものには仮入領証を渡している。

騙したり隠したりしても犯罪者はこの魔鉱機ですぐにバレるようになっているため、誤魔化しは効かない。


御者のハッサンが馬車の中のヘルメスに声をかける。

「お嬢様、前方に検問所がありますが?」

ありますが?と言われても、『突破しろ!』とは普通言わない。

「わかった。」

と一言応える。


ハッサンは御者兼ヘルメスの従者である。

年齢が40歳くらい、小柄で、人の良さそうな雰囲気を持っている。

真面目でヘルメスの付き人として一緒にヴェネシア王国からやって来たが、最近は馬車に乗る人が増え、馬車がトンでもなく改造されたり、先程などは魔族が来て人間に変化して仲間になるなど、ヘルメスの周辺で一体何が起こっているのか気が気ではない。

ましてや、前方に見える検問所で魔族を連れている等と知られれば、大事になることは目に見えている。

そのために、ああいう言い方で声をかけたのだ


「このまま、検問所で審査を受ける。」

とヘルメスが言う。

だか、誤魔化しは効かない、一体どうするのだろうか?


貴族のヴェレリアント家の馬車だからと言えば、中にいる者達はそのまま審査無しでも通過することも可能であるが、ハッサンもどう扱っていいかわからない連中なので、ヘルメスの言うとおりにするしかない。

しかし、心の中では、

『お嬢様!大丈夫なんですか?!この人達?』

と心中穏やかではなかった。


「止まれい!」

丈夫そうな鎧に身を包んだ検問所の警備隊員から停止を求められる。

警備隊員は五人ほどいるのが馬車の中から確認できたが、体つきはバラバラで、それぞれの手には固そうな警杖を持ったり、いつでも抜けるよう腰の剣に手を乗せている者等、通行人に対して警戒している。

アーチ型になった門扉は高さが7~8mくらいあり、建物はそのまま門扉と同じ高さと形状で奥の方まで続き、トンネル状の通路を形成している。

門扉は本体部分が分厚い木製で、枠の部分や、(かんぬき)部分は金属製で出来ていて、しっかりとした造りとなっていた。

門の周囲は全て石壁で出来ていて、上部はそのまま、建物の3階部分となっている。


警備隊員の一人からハッサンが声をかけられる。

なかなか恰幅のある男で名前をイルタといって、実はこの検問所の所長であった。

「中に何人いる?」

「へえ、お嬢様とそのお知り合いの方達6名と従魔が一匹です。」

「はあ?6名だと?こんな小さな馬車にか?」

と言うと、部下と思われるガタイのいい隊員1に指示する。


「中を確認しろ!」

そう言われた隊員1が後ろの幌の隙間に手を入れて幌を開け、中を確認した。

すると、

「うわぁ!なっなんだこれは!」

まあ、驚くのも無理はない。

魔改造された特級馬車だ。

車内は異世界のように大きく拡げられ豪華に改造されている。

「どうした!」

他の隊員も慌てて馬車の後ろへ回り込む。


「おおっ!……なっ何だ、これは?一体!」

先程から同じことばかり言っている。

ボキャブラリーが少ないのか?


馬車の内部にも驚いたが、中に乗っている者達にも驚いた。

馬車の中には、若い女性剣士と思われるもの、魔法使いっぽい女の子、目付きの鋭い侍風の男、坊っちゃん風の少年、槍を持った騎士風の大柄の男、若そうだが目付きが大層悪い女がそれぞれソファーに座っていた。

あと、青い半透明の奇妙というか気味の悪い猫のような生き物も二本足で馬車内を歩いている。

ただ、隊員達は、ギルガを見た瞬間、全員が腰を抜かした。

ピータバでは抑えていた気配を、ギルガはここではあまり抑えていなかったため、隊員はその強烈な気配に当てられてしまったのだ。

人間の姿をしていても、やはり古龍、持っているオーラが違う。

ちなみに蔵光達は人間がいる街などを移動する関係上、常に気配を抑えているので、こんな事故みたいなことは起きない。

ザビエラも主人である蔵光に併せて気配を抑えていたので大丈夫であった。

隊員達は、ギルガの気配だけでなく、眼力(がんりき)にも気圧されていた。

ギルガなの眼は元々は金色だったが、色調をやや青っぽくしていて、力を抑え気味にはしていたのだが、それでもケタ違いの目力(アイパワー)だ。

どこかにいると言われる眼力では定評のある亜竜種のメデューサにも引けを取らないだろう。


「ひいぃぃ!」

隊員1から隊員4まで大の男4人が恐怖に声を上げる。

「ギルガ!抑えて抑えて!」

蔵光が気配を抑えるように促す。

人の国にいたときは流石に気配を抑えるようにしていたが、久しぶりの事なので忘れていたようだ。

ギルガンダは今まで自分を攻撃してくる者には

容赦なく殺してきた。

それは自分を守るためだけであり、ゼリーの時と同じく、自分からは人間と争ったり、襲ったりはしたことはない。

ただ、相手に少しでも威圧を与える感情があると、直ぐに反応してオーラを飛ばすこともたまにはあるので、今回はそうだったのかも知れない。

「わかった、すまない。」

ギルガの気配が静まった。

しかし、話はそれだけでは済まなかった。

警備隊員を気配でビビらせて腰を抜かせてしまったからだ。

「き、君達は一体何者だ?!!この馬車の責任者は?」

検問所の所長イルタが()(ただ)す。

まあ、そうなりますよね。


「私です。ヘルメス・カース・ヴェレリアント、冒険者ギルドの冒険者です。」

と言って左手の人差し指にはめているミスリル金属の指輪をイルタに見せながら自分の名前を名乗る。

「ん?ヴェレリアント?ヴェネシアの貴族の方ですな?一体どうしてこんなところを通っていたのですか?」

「クエストの報告でヨーグに向かう途中なんですが、この者達は私のパーティーの仲間と、後はクエストでの参考人として連れてきている者になります。」

「ああ、なるほど。では、貴族の方の馬車であればこのまま行ってもらっても構いませんが、どうされます?」

貴族の馬車は審査無しでも通れるが、ヘルメスは、

「一応、確認をお願いします。」

ヘルメスがこう言ったのには理由がある。

このまま、ヨーグに行けば、特に問題なく都内に入れるが、その後パーティーが解散すればギルガやザビエラ等、身分証明書が無い者は、その後の領内通過の際、検問所等で厳しい審査を受けることになり、下手をすれば正体がバレるおそれもあるため、ここで一旦仮入領証を入手しておいた方が良いと判断したからだ。

ヘルメスの予想では貴族の立ち会いがあれば仮入領証は簡単に入手出来ると思っていたからだ。

「わかりました。では、皆さん馬車を降りて、建物内に入ってください。」


こうして、全員が検問所の中で入領審査を受けることになった。




よく考えたら、ヨーグで、お別れですね。

ヴ「いえ、わかれません!」

えっ?いや、クエスト終わるでしょ?

ヴ「いやです!」

嫌ですって言ってもそれは……無理じゃないの?

ヴ「プー!」

プー?

ヴ「怒ってるんです!」

えっ?

ヴ「別れないように、うまくやってください。じゃ。」

はっ?えっ?あっ、ちょっと!うわ、行っちゃったよ。『うまくやって』って、何?

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