第43話 調査を終えて
第二章ももうすぐ終了です。
お疲れ様でした。
第43話 ~調査を終えて~
もうすぐ、辺りが真っ暗になろうかという頃、蔵光達が、ピータバ村へ帰ってきた。
セージ達が村の出入口の門の前で待機していた。
門のところにいたのは、セージとオードル、サーガスの三人だった。
三人とも森の方を見て、蔵光らの帰ってくるのを待っているのか、せわしなくウロウロとしている。
森の方から帰ってくる蔵光らを見て、
「ああ、無事で良かった。森の奥でものすごい音が聞こえてきて、ここら辺りでもすごい地響きがしていたんで、心配していたんですよ。」
とセージが声をかけた。
オードルとサーガスも頷いている。
それを聞いて、ヘルメスらは
『ああ、あの音だな』
と蔵光がギルガを地面に叩き付ける音を思い出した。
さらにセージは、
「それに、何かものすごく恐ろしい猛獣が吠えるような声も聞こえてたし、うん。」
と付け加えると、全員、
『ああ、あれね』
とギルガの咆哮を思い出していた。
セージがそうやって蔵光らに話しかけていると、ふと見知らぬ女性が皆の隣に立っていることに気づく。
20歳くらいの若い女性だ。
服装も軽装で、荷物も手に持ってはいない。
森から一緒に戻ってきたとは到底思えなかった。
「あれ?えっと、…この方は?」
セージが尋ねるとヘルメスが答えた。
「ギルガさんです。」
「あっ、えっ?ギルガさん?」
「はい、森の中におられたので、お連れしました。」
「えーっと、はい?あの全く話が見えてこないんですが?」
「見えなくて結構です。全ては終わりました。疲れたので中で休ませてもらえますか?」
「えっ?終わった?って?えっと、はい、…とりあえず中でお話の続きを聞かせていただきます。」
「お茶くらいは出してくださいね。疲れてるんですから。」
とニコッと笑いながらヴィスコが付け加える。
「はいはい、わかりました。」
そう言うと、セージは『やれやれ』というような表情で、蔵光達を村の中に招き入れ、村長のオステロ宅へ移動した。
村長宅の応接室では、村長の他、セージのパーティーの者達が待機していた。
とりあえず、ヴィスコの注文どおり、全員の席の前には、お茶が出されていた。
ちなみに食事はこの後にとるので、お茶うけはない。
セージが、蔵光達の調査の結果を聞いた。
「あの、さっき全てが終わったと言われてましたけど、一体どういうことでしょうか?あの谷へ行って、帰ってこなかった冒険者達は?」
セージの質問にヘルメスが答える。
「谷へ行った冒険者は全員見つかりませんでした。どうやら、森の魔物にやられたか、魔族の手に掛かって亡くなったのではないかと推測されます。」
「えっ、魔族?!」
「えっと、そう魔族です。」
「意味がよく分からないんですが、魔族が何故クライ渓谷にいたんですか?」
「えっと、それは…」
ヘルメスは話をごまかすのが苦手というか、話の伝え方があまり上手くない、なので、代わってヴィスコが説明を続けた。
「どうやら、魔族の者は、このクライ渓谷に住んでいるワイバーン等の魔物を利用して、自分達の領地で戦争をするつもりだったようです。」
「えっと、それは魔族同士でということかな?」
「ええそうです。でも、途中で戦争は回避されたみたいで、魔族はクライ渓谷から立ち去ったようです。なので、全ては終わったとヘルメスが説明したのです。ただ、その前に、冒険者達の何人かが魔族の者達と遭遇したみたいで、その時にどうやら……」
「全員殺されてしまったと?」
「はい、それを見ていたのがこのギルガさんなのです。」
とギルガを紹介した。
ヘルメスは自分で上手く説明出来なかった説明をヴィスコがしてくれたのでホッと胸を撫で下ろす。
「なっ、なるほど、そうでしたか。しかし、それにしても…お名前ギルガさんといわれました?よくそんな状況で助かりましたね?」
とセージが鋭く、突っ込む。
本来、女性が一人、クライ渓谷のような危険な森でいること自体不自然である。
当然、疑われる。
「この方は、まあ、言わば旅の方です、かなりお強い方で、世界各地を放浪しながら旅をされているようでして、ただ、今回、魔族に見つからないようにと思い、森の中に隠れていたそうです。」
ヴィスコがそう言うと、ギルガは、半袖のシャツの袖を引き上げ、肩の傷をセージに見せた。
「魔族にやられた。」
とギルガが説明した、言うとおり真新しい傷だ、体の大きさに合わせて傷口も小さくなっているので、かなり小さい。
ただ、それは確かに魔族のデストロにやられた傷に間違いない。
「そっ、それだけで済んで良かったですね…」
とセージが半信半疑で言うと、ゼリーが、
「ワイが治してやったんや。」
と自慢する。これも本当の話だ。
「すると、ワイバーンがこの村に来ていたのは自分達を捕獲しに来た魔族から逃げてきていたとも考えられる訳か…」
とセージが呟く。
と勝手に勘違いしてくれた。
この話には、嘘ではないが、紛らわしい言葉が一つだけ入っていた。
『ワイバーン等の魔物』
魔族が利用しようとしていたのは、ワイバーンでも、大カマキリでもなく、セージ達の目の前にいるギルガことギルガンダという古龍であったということだが、あえて『ワイバーン等の魔物』とヴィスコは表現したのだ。
だが、本来ギルガンダという古龍はワイバーンなんぞ全く歯が立たない超巨大龍である。
ただ実際によくわからなかったのが冒険者の行方である。
ヴィスコの説明では、魔族に何人かはやられたと説明していたが、これはギルガが実際、霧の中で隠れていたとき、生命体感知で魔族の兵士が人間と思われる気配を襲っているのを感じ取っていたそうで、ヴィスコの説明は全くの嘘ではない。
また、蔵光が現地で生命体感知をしてクライ渓谷やその周辺の人間の気配を探ったが、冒険者と思われる生存者は発見感知できなかった。
では誰が彼等を殺ったのか?
確かに、冒険者と下位魔族の兵士がクライ渓谷に入っていた時期が重なるので遭遇して殺された冒険者も他にいたかもしれない。
また、ギルガから話を聞いたが、人間は食べていないし、殺してもいない、というか直接は見てもいないとのことだった。
ただ、魔族の者については自分のテリトリーに入り、攻撃を加えられたので何人か火炎放射で焼き殺したと説明した。
人間には会っていないとすると、森の中でワイバーンや大カマキリにやられてしまったのだろうか?
それは全て謎に包まれたままであった。
ただ、セージも冒険者達のうち魔族の手に掛かって死亡した者以外は、ワイバーン等の凶悪な魔物の餌食になったと想像しているようであった。
というのも、村に出没するワイバーン等もかなり強力で、セージ達自身も対応しているが、かなり苦戦しており、村の人達の協力がなければパーティーが全滅していたのではないかというような状況も度々あったからだった。
なので、もし森の中でワイバーン等に遭遇してしまったとしたら、自分達も森の中に入っていった冒険者と同じ境遇になってしまっていたのではないかと思われたからなのだ。
それに、聞いたところギルガは蔵光の曾祖父の知り合いの娘であるとも聞いたので、この話を信用することにしたのである。
実際、微妙なところはいくつかあったが調査の内容は全て嘘ではないので、ジェムが密かに持っていた嘘発見魔鉱機も反応しなかった。
正直に言わなかったことは『ギルガが古龍の濃霧龍ギルガンダである』ということだけだった。
これを伝えたら多分大パニックになることは間違いないからだった。
なので、その部分は伏せたのだ。
まあ、世の中には言って良いことと悪いことが必ずあるから、本当だから何でも言って良いというものでもない。
嘘が言いたくなければ喋らなければ良いのだ。
まあ、今回の件は実際言わない方が正解だろう。
あと一話で第二章も終わりやなあ。
ゼ「へーそうなんや。あっと言う間やな。」
ホンマや。
ゼ「で、もう次の話できてんねんやろ?」
えっ?第三章ってこと?
ゼ「そうや、決まっとるやん。」
いや、まだやけど…
ゼ「カー、これやから初心者は…あのな、今からが勝負やで、ちゃんとせなあかーん!」
あかんですか?
ゼ「せや!」
……善処します。




