第4話 適正検査(体力テスト)
続き書きました。
第4話 ~適正検査(体力テスト)~
蔵光らの体力テストが始まった。
まずは腕力テストということで、最初は誠三郎がやや大きめの魔鉱機の前に立つ。
魔鉱機とは魔鉱石を主たる動力源とした機械で、魔力を含んだ鉱石を魔鉱機の動力回線にセットして使用される。
ギルドではこれら大型の計測魔鉱機のほか、受付用の魔鉱機など何種類かの魔鉱機が使用されている。
また魔石とは魔鉱石を精製したもので、その魔力の出力は10倍以上と言われている。
ちなみに魔石を使った機械『魔導機』も存在するが滅茶苦茶高価なため流通量は非常に少ない。
またここで、少し補足説明をしておこう。
魔法世界「マーリック」では、大きさや重さの単位としてgやkg、mやkmを使う。
gはギラム、kgはクロギラムと読む。またmはマイト、kmはクロマイトとなるので気を付けてもらいたい。
ちなみに、お金の単位はMと表記して『マスタ』と呼ばれている。
銅貨1枚が10M、白銅貨1枚が100M、銀貨1枚1000M、小金貨1枚が10.000M、大金貨1枚が100.000Mとなっている。
まあ難しいが頑張って覚えてもらいたい。
えっ?簡単って?あなたは頭が良いですね。
なので、『やや大きめの』という魔鉱機はだいたい一辺が3mくらいの箱形であり、全体が、特殊な金属製の機械で、誠三郎が立っている側の面には機械に向けて頑丈に固定された座席が一つ設置されている。
座席の向けられた機械の面からは金属製のバーが横向きに取り付けられ、その端部分は機械の方へ固定される形となっていて、一見するとトレーニング器機のようにも見える。
また、そのバーの上部には計測した結果の数値が表示される画面になっていた。
その機械の各面には同じような座席とバーが設けられていた。
計測方法はシンプルで、座席に座って前にある金属バーを押したり引いたり、違う面では別のバーを上げたり下げたりするのだ。
「ふん!」
座席に腰かけた誠三郎が、少し声を上げて金属バーを押したり引いたりしている。
あまり力を入れていない様子だが、周囲のギルド職員はどよめいている。
測定が終了した。
「あっ、ありがとうございました。大変素晴らしい結果でした。『押力430kg、引力580kg』という結果です。」
魔鉱機の横に立っていた黒いスーツ姿の男性検査官が興奮気味に結果を伝える。
「あぁ、どうも。」
どうやら誠三郎は重さの単位にピンときていない様子であったが、ゼリーが、その検査官に聞く。
「それってすごいんか?」
男性検査官はいきなりゼリーが喋りだしたので一瞬ビクッとなったが、そばにいたハーブの、
『この生き物は大丈夫だ』
という表情を見て安心し、一呼吸おいて説明を始めた。
「ええ、この数値はすごいってもんじゃありませんよ!普通、新人冒険者の平均は、押引力共に130kg位なんですから、この方の数値は非常に飛び抜けていますよ。」
と言って誠三郎の記録を絶賛した。
「へぇーそうなんや。まあ、黒緒神流の免許皆伝者やから当然やな。」
とゼリーはニヤリとしながら呟く。
「ささっ、次は若の番ですぞ。ですがあまり力を入れすぎないようにしてください。私も結構力を抜きましたから…」
と言いながら誠三郎が手を広げてテスト用の魔鉱機の方へ蔵光を促す。
「わかった。」
蔵光はそう言いながら、両腕をクルクルと回しながら座席に腰を掛ける。
そして、
「それではどうぞ。」
という検査官の言葉に従い金属バーを握った。
「ふっ。」
蔵光が、誠三郎の忠告通り、少しだけ力を入れてバーを前に押そうとした瞬間であった。
蔵光の座っていた座席がドーンという轟音と共に吹っ飛び、蔵光は後方へ弾けとんだ。
「どわぁ~」
一瞬あせる蔵光であったが、すぐに体を反転させ何事もなかったかのように、地面へ降り立った。
座席は、その太い金属製の接続部分が折れて芝生の上に転がっている。
最初は突然の出来事に何があったのか状況が把握できていなかったハーブは、蔵光の手に握られている金属バーを見て、
「そっ、そんな?!あれは5tの重量にも耐えられるよう特別な合金で作られた物なのに…」
ハーブは検査官らと目が飛び出さんばかりに驚いている。
検査官の男性職員に至っては、
「まさか冗談ですよね?この魔鉱機って最初から壊れてましたよね?」
とちょっと現実逃避を始めている。
一緒に裏庭へ来ていたアロマは、
「何か機械の不具合でしょうか?」
とハーブに尋ねたが、ハーブはこれを否定した。
「いや、違うと思います。あれを見てください、あの何か凄まじい力でねじ切られたような金属の断面を…、これがあの少年の力だとしたら、私達は今、とんでもない事を目の当たりにしていると思います。」
と即座に冷静な判断を下す。
さすがはギルドの副ギルドマスターである。
検査官の男性職員はおそるおそる計測機に近づき、測定値の表示画面を確認した。
「えーっと、とりあえず数値計の数値を確認して…って、はあ?!何この数値?人間が出せる数値じゃないんですけど!」
画面には最高値の『999kg』を表示した状態で壊れていた。
ちなみに計測機1tまでしか測れないため、この表示がMAXとなる。
蔵光は手に持っていた金属バーを腕力測定魔鉱機の横に置いた後、誠三郎とゼリーのいる場所まで戻ってきた。
「わははは、せやからセイノジも言うてたやん。力入れたらあかんて!」
ゼリーが腹を抱えて笑いながら、蔵光に突っ込む。
その言葉にムッとした蔵光はゼリーに近づき様、ゼリーの頭部へ、例のチンピラリーダーに繰り出したデコピンを食らわせた。
「ゲフゥ!」
ゼリーは変なうめき声を発しながら砲丸投げの鉄球のように、約10mくらい吹っ飛び芝生の上に落下した。
しかし、さすがはゼリー、蔵光の従魔である。
地面へ落ちた直後にすぐ立ちあがり、文句を言った。
「主ぃ~!それシャレにならんで!ワイやから大丈夫やったけど……まあええわ許す!」
とゼリーはすぐに蔵光の行為に対する追及をやめた。
「えっ?それでいいのか?」
誠三郎もゼリーの気持ちの切り替えの早さに肩すかし気味であるが、相手が蔵光なら仕方がないと誠三郎も納得する。
実は、ゼリーには衝撃耐性があるので、ある程度の衝撃には耐えられるが、普通の人間が先程のレベルのデコピンを食らうと即死であろう。
まあ、ゼリーがこんなに口や態度が悪いのにも関わらず蔵光に絶対服従なのは只単に主と従魔という関係だけではない。
それは蔵光がゼリーを従魔にした時のことにさかのぼるが、それはまた後程話すことにしよう。
「そっ、それでは、気を取り直して、つぎの握力測定に移ります。」
とやっと検査官も正気に戻ってきたようであったが、次の検査で再び意識が持っていかれることとなった。
次に検査官が取り出したのは、握力計だった。
かなりガッシリとした造りなのは、冒険者達の平均的な握力が高いことを示している。
そして、検査官も
「これは我がギルドが作った最新の握力計で、最大値500kgまで計測できます?」
と説明した。
「それでは拙者がまた最初に行かせてもらいますぞ。」
こう言って誠三郎が握力計を握る。
握力計からはギシギシという音がしているが、誠三郎も特に力一杯という感じの表情ではない。
計測が終わり、検査官へ握力計を渡す。
「はい、ありがとうございます。」
検査官が受け取った握力計の測定値を確認する。
「えーっと結果は…うぉっと、すっすごい、なんと320kg、過去最高ではないですか!これまでの最高記録はここのギルマスの280kgですから。」
「ああ、そうですか。そりゃどうも。」
そう答える誠三郎の表情に変化はない。
誠三郎もゼリーと同じく蔵光の強さの秘密を知っている。
自分がいくら超人的な力を持っていたとしても、どんな記録を出したとしても、彼の前では何の意味も持たないことを…
「では次に水無月様、どうぞ。」
そう言いながら、検査官は蔵光に握力計を渡す。
その手は震えていた。
そりゃそうでしょう、めっちゃ頑丈な魔鉱機を素手でねじ切る人ですから。
「ああ、ありがとう。」
そう言いながら蔵光が握力計を受け取り、計測部分を握る。
そして、少しだけ力を込める。
「ん?」
蔵光の瞼が少しだけ動く、それと同時に再び裏庭に激しい金属音が響き渡った。
バキン
「あっ、壊れた。」
「はー、またですか、」
さすがに今度は検査官も覚悟していたようで、驚きも少ない様子であったが、握力計の壊れ具合を見て表情が強張る。
「なんで、こんな壊れ方…有り得ない。金属部分が全て引きちぎられている…」
蔵光が握っている握力計は計測機本体部分に主となる太めの金属棒が一つと、補助となる金属棒が握り部分の両側それぞれに各一本ずつ、合計3本の金属棒で連結されていたが、その3本全てが本体からちぎれ取れてしまっていたのだ。
その結果、その場にいたギルド職員全員、しばらくの間、思考停止していた。
またその後行われたのは走力検査、瞬発力検査、持久力検査であったが、予想通り誠三郎は抜群の成績を残すと共に蔵光はその上を遥かに凌駕する(?)というか、全て測定不能という異例の結果となった。
ちなみに走力検査は100m走のタイムを計るわけだが、蔵光はスタートして一瞬でゴールラインを通過するため、手動では検査官が全く反応できなかったので、魔鉱機測定に切り替えたが、最速測定値の0.01m/100mで測定された。
瞬発力検査は、魔鉱機本体にある打突部分をその上部に取り付けられた魔石の点灯のタイミングで拳により打突し、その反応速度とその時に出せる一瞬の力を計測するというものであったが最初の点灯で魔鉱機が破壊された。
持久力については、40kmの距離を走行したが、息も切らさず10分足らずで帰ってきたため、魔鉱機により身体の生体情報を測定したが、持久筋力は測定不能であったという。
ちなみに蔵光いわく、
「かなり力を抜いたが、駄目だった。もっと修行して、一般人の平均的な力が出せるように努力したい。」
とのこと。
なお、生活面における力の使用については幼少の頃に鍛えられたため、食事のときの食器類の扱いや扉の開閉、掃除の時のホウキを持つ力などは、普通の人と変わらずに力を調節して扱えるようになっている。
だか、今回のような普通の生活以上の力を使う場合や戦闘関係の場合は本当に極力、力を押さえないととんでもない事になるのだ。
だからチンピラリーダーは、本当に死ななくてラッキーくらいに蔵光が加減してくれていたのだった。
蔵光の力の秘密は『超剛力』という神からの祝福スキルで、彼の一族がジパングに渡った理由にも繋がるが、話の流れ上もうしばらくその理由は伏せる。
午後からは適正検査(模擬戦闘テスト)だったが、これも検査官泣かせという結果になるのであった。
はぁ( ´Д`)読んじゃいましたか…ヒマな人
ゼ「そんなん言うたらあかんて!」
あっ心の声が漏れてた!