第36話 陰謀の影
事態が急変していきます。
第36話 ~陰謀の影~
ちょうど二日前、蔵光らがカキノタ村を立つころ、昼過ぎにはデストロがエルザの屋敷に戻って来ていた。
「エルザ、至急、魔造魔素結晶の製作にかかってくれ。ドラギゴが殺された今、そうのんびりもしておれん。恐らくドラギゴを殺ったのはザムザードレの者達だと思う。我らの計画が漏れたのかも知れない。」
「確かに、今の時期、ドラギゴに手を出すってのは奴等しかいないでしょうね。でも、魔素結晶を造るには大量の負の魔素が必要よ、今の私がストックしている魔素の量ではギルガンダ用の魔素結晶を造るには絶対量が少ないわ。どうするの?」
「その事だが、今回の計画に協力してくれる方がおられてな…」
「えっ?今回の計画は極秘のはず?大丈夫なの?」
「その点は大丈夫だ、その方はベドグレイ様だ。」
「えっ?あの魔王アリジン様の従兄弟のベドグレイ様が?」
「ああ、こんな非常事態だ俺があの方に頼み込んだんだ。良かったよ、非常に協力的だったよ。」
デストロは笑顔を見せた。
「そ、そう、わかったわ。それなら今日、明日中に何とかできそうね、じゃあ今から私はベドグレイ様のお屋敷に行ってくるわ。」
エルザは一瞬、変な感じがしたが、事態が急を要しており、今から魔造魔素結晶を作成することで、頭が一杯のようであったためか、特に気にも留めず、慌てて自室を出ていってた。
「ふっ、まあしっかりやってくれ。」
デストロは不敵な笑いを浮かべていた。
……その二日後……
ここは、エルザの屋敷内、エルザはデストロの前の机の上に、大きさが約10cmくらいの魔造魔素結晶を置いた。
新型の魔造魔素結晶は砂粒程度でゴブリンをゴブリンロードへ進化させ、さらに隷属化させることができる代物らしいが、今回の魔造魔素結晶は、隷属化させることはできるらしいが、進化させる魔法は時間がかかるため定着が出来なかったようである。
それでもデストロにすれば満足のいく出来であったようで、
「エルザ良くやった!これで我が領土も安泰だ。」
そう言って労をねぎらう。
「いえ、まだです。まだ、ギルガンダの居場所が……」
「ザビエラから聞いたぞ、クライ渓谷が怪しいそうじゃないか?」
「えっ?あ、はい…」
エルザはドキリとした表情となる。
ザビエラは確かにクライ渓谷は怪しいとは言っていたが、デストロには不確定な情報は伝えないはずだと…
なのに、何故この事を知っている?
確かこの屋敷では、ザビエラはドラギゴの発見場所へは行くことをデストロに伝えるよう兵士に伝言していたけど…
何かおかしい?
「エルザ、では、それを持ってザビエラとクライ渓谷まで、行こうではないか。早くギルガンダを手に入れて、ドラギゴの敵も討ちたいところだな。」
エルザはこの時まで、デストロの考えが読みきれていなかった。
魔王アリジンに仕え、魔将軍ラバンザの下で魔准将としての地位は確立しているが、今回のギルガンダ従魔計画を持ちかけられたのには驚いた。
ギルガンダとは古龍種で推定年齢2300歳、伝説の濃霧龍ともいわれ、名前の通り自分の体の周りに認識不可の魔力濃霧を発生させ、近付く全ての者に、その存在を感知されることなく喰らい尽くすとまでいわれた龍である。
エンペラースライム程、危険視されることはないが決して相手をしてはいけない龍として名高い。
だからこそ、そのギルガンダを従魔にするなどと…ましてや、それを使って隣のザムザードレの領土に侵攻しようとは…
確かに、ギルガンダを従魔にすることができる可能性はあった。
天才魔族とまでいわれたエルザが開発した、『魔造魔素結晶』
これは、高密度に圧縮した負の魔素を結晶化したもので、砂粒程度の大きさでも、結晶化の際に組み込んだ従魔法で、下位の魔族のように従魔法の使えない者でも、簡単に従魔化した魔物が手に入るという優れもので、ドラギゴが持ち出した新型はさらに、魔物の進化を促し、上位の魔物へと進化させるという代物だった。
それに、デストロが目を着けた。
ザムザードレとは、確かに領土争いはしているが、現在はその関係は安定しており、内容はよくはわからないが、魔王アリジンはザムザードレと何やら交渉しているともいわれていた。
そんな中でのギルガンダ従魔計画だった。
エルザは少なからず、この計画には疑問を持っていた。
魔物を従魔にするためには、魔物の体内に魔素結晶を埋め込まなくてはならない。
なので、デストロが、いかにしてギルガンダの体内に魔造魔素結晶を入れ込むのか、その方法も明らかにされておらず、部下の開発者の中にもギルガンダの従魔計画を疑問視する声があったからだ。
当然、国情もあるが、実際面、相手はあの古龍種だ、自分達よりも遥かに高い魔力を持ち、その外皮は超硬質であるといわれており、今回の魔素結晶が、果たして体内までどうやって打ち込む事ができるのかということに一抹の不安があったのだ。
ただ、その反面、自分の開発した魔素結晶がどこまで古龍に通用するのかという期待感も少なからずあった。
そこにエルザが今回の計画の本当の狙いに気付けなかった理由でもあった。
「デストロ、今回のギルガンダ従魔計画について質問があるのですが?」
エルザは胸の中で引っ掛かっている事があったがそれが何だかよくわからない、質問もありきたりな質問になる。
「何だ?」
「魔素結晶をギルガンダの体内に入れ込む手段なのだが、どうやって体内に魔素結晶を入れるおつもりですか?」
「ふっ、そんなことを気にしていたのか。あれにはな、1ヶ所だけ弱点というか体の柔らかい部分があるらしいとの言い伝えがあってな、そこへ我々が開発した魔石砲を改良した、魔素結晶砲で奴の体内に打ち込む予定だ。」
「大丈夫でしょうか?」
「ああ、一度だけお前からもらった魔素結晶を使って試し打ちをしたが、厚さ5cmの鋼鉄の板に穴を開けたよ。」
「わっ、わかりました。」
エルザは魔素結晶砲などというものは初めて聞かされることだった。
『私の知らないところで、そのような物を作っていたとは…』
本来ならば事前に教えてもらえると思われるようなことも、今の今まで全く聞かされていなかったことに、エルザはデストロに対し不信感と違和感を覚え始めていた。
「さあ、行くぞ。」
「ザビエラは?」
「先にクライ渓谷へ行かせている、そこで合流だ。」
デストロがクライ渓谷へ行く。
その事に、エルザは何か大事なことを忘れているような気がしていた、先程からの違和感が消えない。
「えっ?、あっ、はい、わかりました。」
エルザは考えていた、これまでのことを…
その思考から抜け出すことに少し遅れた。
一瞬の言葉の詰まりだった。
これに気付くにはデストロには十分であった。
これが、エルザの致命的な言葉となった。
エルザはこれまでデストロに対し、絶大な信頼を寄せていた。
だが、つい先日…そう魔造魔素結晶の製造を急かされた時のことだ。
何故か魔王族のベドグレイの屋敷の敷地内にある負の魔素の排出口から出る魔素を使って製作をするよう命令されたのだ。
ベドグレイは魔王族、それも魔王アリジンの息子に次ぐ、第二王位継承権を持つ人物で、虎視眈々と王座を狙う者でもあった。
今までアリジンとの間には友好的な接点はなかったはずであり、ましてや、ザムザードレ侵攻計画を一緒に進めていくなど、本来ならば有り得ない話である。
今回、デストロの指示に従って魔素結晶製作のため、ベドグレイ宅の負の魔素の排出口を使わせてもらったとはいえ、この計画は魔族どころか魔王を凌ぐ古龍の従魔化計画、これが成功すれば魔王アリジンの力が絶対的なものとなる。そんなことをベドグレイが素直に協力するわけがない。
それを立案したとされる新進気鋭の魔准将デストロもドラギゴの殺害事件があり魔素結晶製作をエルザに急がせたが、このベドグレイが非常に協力的だったという…。
何故ベドグレイなのだ?
デストロもアリジンとベドグレイの関係をよく知っているはずだ…なのに何故?
それらのことを総合的に整理する…
エルザは魔造魔素結晶の開発でもわかる通り、非常に頭脳明晰であり、魔王アリジンの参謀としても一目置かれている存在であった。
しかし気付くのが遅かった、自分の目先の成果を優先させたために…
そして、そのエルザが、デストロから感じる違和感から導きだした答えが…
「まっ、まさか、まさか?デストロ…あなたは一体何をしよぅ…」
ザクッ
エルザの胸に痛烈な痛みが襲う。
エルザがデストロの方へ振り向いたとき、デストロの剣がエルザの心臓を貫いていた。
「ぐあっ?」
声にならない声、それと同時に、エルザの口から血が溢れる。
エルザが、苦痛で眉間にシワを寄せながら、デストロの顔を凝視する。
そして、その裏切りに対し、その目が憎しみに満ちる。
エルザは最後の力でデストロの両腕を掴んでいたが、次第に力を失い、やがてその場に倒れ付した。
「存外、頭のいい奴というのは損をするものだな…」
デストロはエルザを突き刺しながらも、その顔はいやらしくニヤついていた。
エルザはデストロの一突きでその場で絶命し、用意していた魔造魔素結晶はデストロの手に渡った。
デストロはその魔造魔素結晶を持ち、自分の配下の者達を引き連れ、最後の仕上げのためクライ渓谷へ向かっていった。
怖いねー
ゼ「まあ、自業自得ってとこやな。」
ゼリーは口が過ぎて、蔵光からデコピンされる感じかな?
ゼ「あれは、スキンシップ!主の愛情表現や!」
殺人級やけど?
ゼ「ワイは人やないから大丈夫や!」
何、その訳のわからない根拠?




