第31話 ゴブリンロード襲来
蔵光の新技炸裂です。
水覇様とどう違うのか分かりませんが…
第31話 ~ゴブリンロード襲来~
「大変です!」
次の日の早朝、日の出が始まろうかとする頃、カキノタ村の村長のモルドが蔵光達が寝泊まりしている村長宅の一室へ血相を変えて飛び込んできた。
当然といえば当然だが、蔵光はこの異変に少し気付きかけていたが、結界が村を守っているため特に気にも止めていなかった。
しかし、村長が部屋に入ってきたとき、外に妙な気配がし始め、というか、どうも生体感知で感じる様子がおかしいので外を確認することとした。
村の結界は周囲が5km以上あるが、その回りに、物凄い数のゴブリンが終結していた。
その数およそ一万匹。
結界の中には村の住民の住む家屋や倉庫、集会所、井戸、用水路等生活に必要な施設の他、田や畑もある程度の広さで確保されている。
それ以外の畑等も結界の外にあるにはあるが、余程の事が起きない限り、自給自足状態は確保されており、基本的に飢餓状態になることはない。
しかし、今回の場合は、余程の事であった。
蔵光達がいなければ、数週間、いや数ヶ月間に渡って結界内で籠城しなければならない出来事である。
蔵光も、これは予想外で、結界があったことで少し安心しきっていたのか、生体感知を緩めすぎていたのか、感知のミスと言える。
「何だこりゃ?」
蔵光が驚くのも無理はなかった。
それは、只のゴブリンではなかった。
普通のゴブリンではなく上位種となる、ハイゴブリンやホブゴブリン等が多数を占め、その中にはゴブリンウィザードやゴブリンロード等もかなりの数含まれていたのだ。
ゴブリンウィザードとは力はやや弱いが、ゴブリンの中でも知能が高く、火や水等の元素魔法の他、催眠、毒、麻痺、鈍化などの補助魔法を使う厄介な存在である。
また、ゴブリンロードとは『準王』と言われる程の強力個体で、ゴブリンキング等と同じく、ゴブリンを統率する能力を持ち、魔法は勿論、物理攻撃も強烈で、本来はゴブリン1千体~1万体に1体の割合で出現すると言われている。
ちなみにキングは100万体に1体。
ゴブリンは魔物の中でも最弱と言われているが、彼等は単なるその延長ではない。
魔力値や体格、腕力、全てにおいてゴブリンとは違うため、全く別の個体と思ったほうがよい。
それぐらいの差があるのだ。
そのゴブリンロードがこの中に約500匹くらいいる。
普通の街でも軽く壊滅するレベルの高さと数であるが、普通、このようなことは自然では起こり得ず、異常なことなのである。
何故だかわからないが、ゴブリンどもはノースヨーグ砦の門がある建物付近の方角、つまり、東方向から、急に現れた。
昨日、東から歩いてきたが、そのような大群を見てはいない。
見たのは魔族だけだ。
なので本当に、急にわいたと言ったほうがしっくりくる感じであった。
蔵光の生体感知の違和感はこれが原因だった。
「何なんですか、これは?!」
ヘルメスやヴィスコもただならぬ空気に、村長の家の中から外へ飛び出して来て、この状況に大声を上げて驚く。
ゴブリン達は周囲の森から次々と現れる。
戦闘力が高く、素早さが突出しているハイゴブリン、体力値が高く体格も通常のゴブリンの数倍あるホブゴブリン等、それぞれ、手には剣や大きなこん棒を持ち、結界の周りに黒い塊のように張り付き、金切り声のような叫び声をあげている。
ゴブリンウィザードは長い詠唱魔法を唱え、強力な魔法攻撃をしている。
ゴブリンロードは片手にハイゴブリンよりも大きな、それでいて切れ味も数段上と思われる剣を持ち、その剣による攻撃とともに、火や氷の魔法で結界の表面を破壊しようとしていた。
まあ、水無月家の結界なので、まず破られることはないのだが、こんな光景を見たら普通の人間ならば精神的にやられてしまうだろう。
「とりあえず片付けるか。」
蔵光が、結界の西側でゴブリンの数が少ない所から結界を抜ける。
だが、それを見ていた近くのハイゴブリンどもが物凄い速度で蔵光へ近付いていく。
しかし、その速度は蔵光にすれば、赤子の歩みと同じで脅威にもならなかった。
『水激・零座!』
蔵光がそう言うと、蔵光の右手の指の先から、超高圧で筋状の水が飛び出した。
そして、その水は光の筋のように、蔵光へ飛びかかろうとしていたハイゴブリンの体と武器を豆腐かプリンを切るように滑らかに切り裂いた。
それは一体だけではなかった。
蔵光の右手の指全てから射出された水は超高圧のため手前のハイゴブリンを貫いても勢いが止まらず更に奥へ、奥へ、奥へ、と後ろにいるゴブリン全てが、細く伸びた筋状の水に、レーザー光線か何かで切断されるように何十体という単位で切り倒され殲滅されていく。
勢いが強すぎて周囲のゴブリンを倒した後でもさらにその周りの森の巨大な樹木も切り倒されていく程の威力であった。
その名の通り、
『零座』…座る者すら零
立っている者はもちろん、しゃがみこんで避けようとする者にも等しくレーザーの水が襲う。
結界は村を半円球形のドーム状に村を包んでいるため、蔵光は結界沿いに左回りでゆっくりと周りだし、まるで競技場のトラックを周回するような格好となっていた。
「グギャ」「ギャー」「グァァ」「ゲェー」
さまざまな断末魔を上げてゴブリンは死んでいく。
ゴブリンウィザードだろうが、ゴブリンロードだろうが全く関係ない、詠唱後の魔法は瞬時に打ち消され、彼の者の体を解体し、跳び跳ねてくる者は空中に滞空しているときに、その強靭な肉体をバラバラにしていく。
言うなれば、猛スピードで走行している新幹線に裸で突っ込んで行くような感じである。
蔵光は、水魔神拳を使って大量のゴブリンを恐ろしい速度で退治しながら、
『しかし、これだけのゴブリンが今まで噂にならずにこのような状態で現れるとは…一体?』
と急に湧いたゴブリンの謎に疑問を感じざるを得なかった。
『何者かの仕業か?考えられるとしたら魔族か?』
蔵光は魔族達が話していた、『実験』というキーワードが頭に浮かんでいた。
『もし、このように大量の、しかも高位の魔物を操ることが出来るのならば、ギルガンダ1体くらいなら操ることが出来るのではないのか?もし可能だったとしたら…』
という考えが浮かぶ。
そのような考え事をしている間にもゴブリン達は作業のようにレーザーの水で切り刻まれていく。
村の周囲には切り刻まれたゴブリンの死体と大量の血が散乱し、すごく血生臭い臭いが漂う。
「うおースゲー!」「何だありゃ?!」
結界内では村人が蔵光の魔法無双に歓喜の声を上げていた。
「す、凄すぎる、あんなに高威力の魔法があんなに長い時間継続できるなんて…普通の人間ではあり得ない。」
ヴィスコもその現状を驚きと興奮で見ていた。
それはそうだろう、ヴィスコのいう通り、
『水激・零座』のような高出力の魔法を休むことなく、村を一周する間、放出、行使し続けるなど、通常の人間、いや魔族でも無理な芸当だからだ。
ヴィスコが恐る恐る隣にいた誠三郎に聞く。
「ヘルメスから強いとは聞いてはいましたが、あんな人間離れしたように強いなんて、一体何者なのですか、蔵光さんという人は?」
「うーん何者かと言われれば一応人間だが、我々とは全く次元の違うお人だな。」
と誠三郎はドヤ顔で答える。
「そうやな、主はワイ、つまりエンペラースライムを瞬殺しようとした人やからなあ。」
ゼリーもドヤる。
「あっ!」
ヴィスコもゼリーが前からエンペラースライムだと言われてはいたが、実際は、ゼリーのそのかわいい容姿と魔力が感じられないという理由で、余りというか、ほぼ信じてはいなかった。
『変わった魔法を使う、変わった姿のスライムだな』程度の認識だった。
しかし、今回のような蔵光の水魔神拳の魔法を見て初めてゼリーが本当にエンペラースライムではないのかと認識しはじめた。
「じゃ、じゃあ、ゼリーちゃんがエンペラースライムっていう話は…本当…?」
とおそるおそる尋ねる。
「せやから本当や、って最初から言うてるやん。」
「ひ~!」
それを聞いたヴィスコは恐怖の表情を浮かべ、声にならない悲鳴をあげる。
ヴィスコはようやくゼリーがあの厄災と言われ、一体で国をも滅ぼすとまで言われた最凶最悪のエンペラースライムであるということを理解し、その場で白目を剥き、退けぞった。
そんなコメディみたいなやり取りをしている間に蔵光が村の周囲を回り切り、村に迫ってきていたゴブリンどもを全て討伐し、再び結界の中へ戻ってきた。
「ゼリー!」
蔵光がゼリーに声をかける。
「ゴブリンの討伐は、右耳とかで証明になると聞いているんだけど…」
蔵光がゼリーに言うと、
「あーあれな、でもこの数の耳…えっ?ワイがやるの?ちょっと待ってえや、いくらなんでもこれは…」
蔵光がニッコリと笑う。
それを見てゼリーが目を逸らす。
「わ、わかったて、右耳残して片付けたらエエんやろ。」
そう言うとゼリーは体長が100mのエンペラースライムの体になって村の周囲に転がっているゴブリンの胴体や内臓、腕、足、、頭などを喰らっていく。
「ホンマ、スライム使いの荒い主やで。」
とボヤきながら、ゼリーは自分の体内に取り込んだゴブリンを解体して右耳だけを分離した後、右耳を体内の収納空間へ収納し、後の体は強酸で溶解吸収した。
本当は必要ないのだが…
ヴィスコはゼリーの正体がエンペラースライムであると理解して最初はビビりまくっていたが、よく考えれば蔵光の従魔であり、まず人に危害を加えない存在だとわかると少しは落ち着いてきていたが、ネコ化を解いたゼリーの本来の姿を見て、
「ギャーやっ、やっぱり本物のエンペラースライムって目茶苦茶怖い~!」
と涙目になっていた。
また、ヘルメスも同じで、蔵光の活躍や、ゼリーを見て、
「いっ、一体貴殿方は、冒険者になって何をしようとしているのですか?というか、そもそも、それだけの強さがあるのに、何故冒険者になる必要があるのですか?」
と誠三郎に聞いた。
「うーん、そう言われればそうなんだが、まあ、若も表向きの肩書きとかが必要になるときがあるからかな?」
「表向きの肩書き?」
「あっ、これ内密にね。」
と誠三郎は口の前で人差し指を立てる。
ヘルメスの言葉通り、確かに蔵光のような恐るべき力を持つものであれば、わざわざ冒険者などにならなくとも、国にでも雇われていれば、いざというとき、その力は国の有益な力となる。
国側としても、その存在が国にあるだけで十分な戦力であり、そのために国はその者へ大金をはたいてでも、国に止めておく必要性と理由があり、そうすることが国防等の国益を生じさせる要因にもなるからだ。
だが、それ程の存在なのに、そうしない蔵光達のことを『何故』と訝しむのだ。
だが、誠三郎はヘルメスに『答え』を言った。だが、ヘルメスは誠三郎の言った言葉の半分も、理解できていなかった。
というよりも、ヘルメスは、ジパング王国のことや水無月家のことをあまりにも知らなさすぎなので、わかろうはずもない。
それは『ジパング王国の鎖国』というのも、ひとつの理由ではあるが、最大の理由は、『水無月家と世界中の国との関係性』にあり、その内容が超極秘事項であるからである。
例えばカキノタ村の村長がした水覇の話は村長しか口伝されていない極秘の話であるが、水無月家の活動で言えば氷山一角であり、実際、このように水無月家が絡めば、ひとつ、ひとつの話がぶっ飛び過ぎているので表に出せないものが非常に多い。
ゼリー凄すぎるな!
ゼ「何がや?」
ゴブリン掃除
ゼ「あれは、ワイにしたら『あかーん!』や。」
そうなんや。
ゼ「そらそうやろ、かわいい水玉のワイがあんな原始生命体に変わるんやで、主も酷いわ。」
自分でかわいいとかいう
ゼ「プリティやろ」
………




