第3話 ギルドカード
少し進みました。
第3話 ~ギルドカード~
ギルドの検査官による犯罪歴確認と倫理質問、常識質問が終了した。
結果は…
誠三郎は余裕、蔵光は散々だった。
ゼリーは従魔なので必要無しとのことで実施されなかった。
「ふっ、余裕やな」
ゼリーは受付前のソファーでゴロゴロしていた。
その仕草は普通の猫とあまり変わらず愛らしいが、先程の『従魔種別登録』でのゼリーの取り乱し様から、この180度の変わり様を見て蔵光は少しイラッとしていた。
しばらくして…
「お待たせしました。これがギルドカードになります。」
と言って、ギルドの受付嬢が両手で木製のトレイを持ち受付カウンターに戻ってきた。
カウンターに置かれたトレイの上に乗せられた物を見て真っ先にゼリーが突っ込みを入れる。
「これって、カードちゃうやん?指輪やん?」
そう、まさしく、それは紛れもなく、絶対に、間違いなく、100人が100人ともゼリーと同じ答えになると思われるくらい指輪だった。
指輪は、やや青みがかった色の金属製で、形は上部が平らになった八角形で表面には龍の刻印といくつかの綺麗な宝石が埋め込まれていた。
「あっ、あのぉこれって…」
蔵光が戸惑いながら、ギルド嬢に尋ねる。
「はい、これがギルドカードになります。以前は本当にカード型の登録の証明書でしたが、元々荒っぽい仕事ですから、紛失も多くて、再発行が増えたため、紛失防止の観点から『身体密着型ギルドカード』として現在の指輪タイプになりました。本来ならギルド指輪と呼ぶところでしょうが、今までの馴染みのある呼称を使わせてもらっています。」
とギルド嬢は説明した。
確かにこれだと落としにくい、というか指とか腕を切り落とされなければ大丈夫であろう。
「こちらの指輪はギルド冒険者として必要な個人情報が入力されています。情報は冒険者が指輪を装着すると本人の生体情報を読み取り始めます。そしてそれが終了すれば、指輪は本人の所有物となります。この指輪のサイズなのですが、最初は大きめに作られています。そして、これは装着した瞬間に本人の指のサイズに自動的に変化するように指定魔法がかけられています。また、何かのトラブルで指輪を奪われた場合や、指輪を奪った者若しくはそれを買い受けたり、譲渡された者がその指輪をはめたとしても、生体情報を再度読み取り、本来の所有者でなければ指輪本体が崩れ落ちるように設定されていますので、仲間内での指輪の取り違えには十分気をつけて下さい。」
とギルド嬢は指輪の説明をまくし立てた。
これを聞いていた蔵光の目がキラキラと輝いている。
実は、蔵光は魔法オタクだった。
武者修行といっても蔵光を負かせるような猛者は親族を除いて、まずこの世にいない。
その理由は、今後明らかになるが、とりあえず滅茶苦茶強い家系とだけ言っておく。
蔵光が冒険者となり、旅をする目的は武者修行もあるが、本来は見識を深めることが第一の目的であり、そのうちの一つが『珍しい魔法や未確認魔法の確認とできれば習得』であった。
実は蔵光は特殊な事情から、水魔法やその派生魔法しか使えない。
そのため他の者が使っている魔法が珍しくまた羨ましくて仕方がない。
だから、それらの魔法の習得のため日々研究研鑽を続けているのだった。
結果、魔法オタクが爆誕した。
今回も当然、指輪にかけられた魔法に興味があるのだ。
「指定魔法だって?こんな小さな指輪にサイズ変更魔法や生体情報読み取り魔法、所有者以外が装着した時は崩壊する魔法って、複数の魔法が重複してかけられているなんて…すごい。」
蔵光は素直に感心している。
まあ、蔵光の魔法オタク話は長くなるので今は止めておこう。
しかし、今度はまた別のオタクが顔を出す。
「これってミスリル金属か?」
と誠三郎が反応した。
実は誠三郎は、とこれまた金属、鉱石オタクであった。
「鈍い青色の金属の滑面に虹色の光彩、そして小さいながらにこの重量感、まさしく幻の重金属ミスリル。これは素晴らしいですぞ若!それに指輪の表面に取り付けられた小さな宝石はいずれも魔石、これに先程説明のあった指定魔法が入れられているようですな。」
いつもクールな誠三郎が指輪を見て興奮している。
誠三郎の実家である、八鬼家は元々、侍の家系ではなかった。
蔵光の実家の水無月家の家来としてつかえていた一級鍛冶師の一族であった。
何故八鬼家は鍛冶師の家系ながら、現在は侍なのかというと、水無月家がとある理由でジパング国に送り込まれた際、最初は、戦いで刀が折れたりした時に新しい刀を水無月家の当主以外に補充供給するために帯同していた。
しかし、八鬼家の打ち出す刀は切れ味、耐久性に優れてはいるものの、それらを使いこなせる者が少なく、水無月家本家や分家の他、限られた者しか扱うことが出来なかった。
そこで、戦闘に使える人員を確保するため、一時的に鍛冶師兼当主守護役という武士の役職をもらったことが始まりとされている。
当時、八鬼家の者達は鍛冶師のみであったが、その後、水無月家から剣術の手ほどきを受け、独自の流派を確立し、今の地位を不動のものにしたのだった。
といっても元々は鍛冶師の一族であり、八鬼家は今でも鍛冶の仕事をしているし、鍛冶に関しては誠三郎も一通りのことはできる。
また鉱石などの目利きも優れているため、特殊な金属や希少な鉱石を見ると鍛冶師の血が騒ぐのか、これらの物には目がないのだ。
「ミスリル?」
蔵光は初めて耳にする名前だった。
誠三郎は蔵光が指輪に興味を示しているのを見て話を続けた。
「はい、この指輪の材料の名前なのですが、希少重金属のミスリルと言いまして、非常に産出量が少なく、高額で取引されています。この金属は魔力、つまり魔法を透しやすく、表面の龍の彫刻の目の部分などに取り付けられた魔石に魔力が込められやすくする仕組みになっているようです。このミスリルは龍金属とも言いまして、龍の住み処に長く置かれた金属が変異したものとも言われています。」
と説明した。
「へぇー、すごいんだね。」
と蔵光は目をキラキラさせ素直に感心している。
そして二人は、ミスリルの指輪をそれぞれ自分達の指にはめた。
蔵光は左の人差し指、誠三郎は左の中指だ。
指輪は、すぐに反応し、それぞれの指のサイズに変化した。
そして龍の彫刻の目の部分の魔石が一瞬だけマリンブルーに輝く。
生体情報を読み取ったのを確認したのか、ギルド嬢は蔵光達に声をかける。
「これであなた方は正式なギルドの冒険者となりました。改めて紹介させていただきます。私は冒険者ギルドタスパ支部の受付嬢をさせてもらっておりますアロマというものです。今後ともよろしくお願いします。また、受付カウンターの女性職員はハーブと言いまして、このタスパ支部の副ギルドマスターをしています。」
と説明した。
「えっ?副ギルドマスター?」
蔵光は、先程から受付で対応してくれていた女性職員が副ギルドマスターと聞いて驚く。
ハーブも指輪をはめるのを確認すると受付カウンターから蔵光達のところにやってきた。
「驚きましたか?ですが、新人と言えども冒険者登録をされるとなれば審査が必要なので、採用に関する重要な判断は私のような者がしなければいけないのです。」
とハーブはアロマの説明を補足した。
「なるほど、よくわかりました。」
と蔵光が納得した。
「それでは、今から、実技検査の準備をしますので、しばらくお待ち下さい。実技検査は最初、体力テストになります。腕力や走力、握力、瞬発力、持久力等を測定し、その後は模擬戦闘をしていただくことになります。」
とハーブは説明すると受付カウンターの奥にある事務室の方へ移動していった。
その後、アロマが実技検査の補足説明を始めた。
「この実技に関する適正検査で冒険者の職業コースやクエストレベルの設定を行うことになっています。」
「職業コース?」
「はい、皆さんの適正にあった職業、つまり力や戦闘の技量が高ければ戦闘職、情報の収集能力が高ければ情報収集家、あと魔力量や魔力操作能力が高ければ魔法使い等の職種があり、それぞれの職種には上位職も存在します。」
「へぇーそうなんだ。」
蔵光は聞き慣れない単語がポンポンと出てくるので目をパチパチさせている。
「はい、また体力テストの結果によってFランクの指定クエストの内容が変わってきます。」
「Fランクって?」
「ランクというのは冒険者ギルドにおける冒険者の実力や能力を区別するため、便宜上作られたシステムです。ランクは全部で9階級あり、一番下がF級で最上級はSSSとなります。冒険者はすべて最初はFランクから始めることになりますが、階級はギルドの発注するクエストをクリアするごとに冒険者の評価が変化し、社会貢献度も加味されて上位に上がることになります。またFからE、CからBランクに上げるときは指定クエストや面接試験など必要なテストを受けていただき、合格すればランクアップとなります。」
「なるほど、ということは若と私は現在Fランクということですな?」
誠三郎がアロマに確認した。
「その通りです。ですから頑張ってCランクを目指して下さいね。」
「は?」
蔵光と誠三郎が変な顔をした。
まあそうであろう、普通ならFの上はEだ。
「ああ、説明不足でしたが、水無月様達は今回推薦状がありましたので、Fランクの指定クエストに合格すれば自動的にCランクへ上がるようになっています。」
「そっ、そうなんだ。」
蔵光達は納得の表情でうなずく。
「ということは、推薦状がない者は?」
と誠三郎。
「はい、Eランクとなります。推薦状はある程度、国や首都などからその実力が認められた方へ発行される物ですから、ランクもそのような位置付けとなるわけです。あとその指輪も同じく、推薦状があればミスリル金属、なければゴールドとなっています。」
「へぇ、そこでも区別されているのか?」
「はい、国や首都から認められた方と一般申し込みを同じ扱いに出来ませんので。」
「なるほど、そういうことか。」
「はい。ですから、推薦状があれば基本的には無条件で冒険者登録をすることができるのです。今回、水無月様方は国の推薦はあったのですが、ジパングというお国柄情報が届いていなかったのか、各国指定の実力判定が成されていませんでしたので、このような検査を受けていただくことになったのです。」
「そうだったのか。ということは、推薦状があれば冒険者には無条件でなれたんだ。検査って言われたから、不合格だと、冒険者になれないのかと思ってた。」
蔵光はようやくこの検査の本来の目的を知り安堵した。
ジパングの鎖国は情報の漏洩が主体で、蔵光らの乗って来ていた定期便の船も1年に一回程度なので逆に世界の情報もほとんど入って来ないのだ。
アロマの補足説明が終わる頃、ハーブが受付カウンターへ戻ってきた。
「お待たせしました。それでは、実力検査の準備ができましたので、こちらへどうぞ。」
蔵光らはハーブの案内で受付横の通路を通り建物の奥から裏庭と思われる広い場所へ出た。
裏庭は地面一面に芝が敷き詰められた結構、広めなところで、その敷地を囲むようにレンガのようなブロックで造られた塀がめぐらされていた。
塀の内側に沿って等間隔に植えられた広葉樹の青々とした葉が枝いっぱいに広がり、夏の柔らかな風に揺れている。
そして、その裏庭の一角には、検査用の機械と思われる大きめの魔鉱機がいくつか置かれていた。
「さあ、今度は頑張るぞ!」
体力に自信のある蔵光は意気込んでいた。
それは何故かというと、面接による常識検査が散々だったからだ。
蔵光は頭が悪い訳ではない、ただ、鎖国の影響も多少あってか、自国の常識や知識が他国では通じないと祖父王鎧から聞かされており、実際、先程行った知識検査や常識検査は非常に苦戦していたのだ。
だからこそ、この腕試しともいえる実力検査によって汚名返上といきたかったのだ。
ただ…
「主ぃ~、無茶は止めときや、主が本気出したら、ここら辺一帯壊滅するから。」
とゼリーが声をかける。
「ははは」
横にいたハーブがそれを聞いて少し笑った。
これからとんでもない事態が起こることも知らずに…
恥ずかしいから、誰も読まんとって、誰も読まんとって。
ゼ「ほんならなんで投稿したん?」
新型コロナで自宅待機してたから‥つい勢いで
ゼ「なんやそれ」